People's China
現在位置: 連載最新映画を北京で見る

注目の2男優が雲南へ『一路順瘋』

文・写真=井上俊彦

 ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

ポスター

遊び人医師に届いた1枚のエコー写真

今年の国慶節の連休では、『狄仁傑之神都龍王』が一人勝ちとも言うべき大ヒットを記録しました。もちろん私も見たのですが、もう「おなかいっぱい」というくらいアクションが続いた後に、さらに怪物との戦いがあり、もういいよと思ったのですが、結局その戦いも夢中で見てしまいました。さすがツイ・ハーク監督にかかっては「怪物は別腹」だと……。で、その陰に隠れた感じですが、なかなかユニークな作品も上映されていましたので、今回はそちらを紹介します。

北京に住む章開は優秀な産婦人科医師ですが、女性関係にだらしないのが欠点。ある日、「あなたの子どもです」とエコー写真がメールで送られて来て大あわて、友人の助けを借りてメールの発信地が四川省から雲南省にかけてだと目ぼしをつけ、関係のあった女性3人を訪ねることにします。一方、弟の章心は障害を持つ「永遠の7歳児」で、シャングリラを訪ねるのが願いです。雲南に行くと知った母親に頼まれ、兄はいやいやながら弟を連れて旅に出ますが、弟の予想外の行動で旅は大混乱、ついに兄は弟に手を上げてしまいます……。

監督は『人在囧途』(2010)のイップ・ワイマンです。シュー・ジェン(徐崢)自身が監督した『人再囧途之泰囧』(2012)が大ヒットしましたが、私はどちらかというと『人在囧途』の方が好みでした。今回も似た設定の爆笑ロードムービーで、女性にだらしない男が旅をする中で、無邪気な弟のためにトラブルに巻き込まれながらも、さまざまな人に出会って本当の愛に気づいていく物語です。

国慶節の北京は観光客でどこも記録的にぎわい。空港のカウンターには長い列ができ、王府井の軽食街は入口と出口を分けて利用客を誘導していた

気になる俳優が期待通りの熱演

監督以外に、主演の2人も以前から気になっていた存在です。主人公のチェン・スーチェン(陳思誠)は1978年瀋陽市の生まれ。司会者や歌手としてのキャリアも持つ多才な俳優で、最近では自ら監督・脚本・主演を担当したトレンディードラマ『北京愛情故事』(2012)がヒットしました。また、現在公開中の『逃出生天』や先にご紹介した『全民目撃』にも出演しています。

一方、弟役のバオ・ベイアル(包貝爾)は1984年生まれで、今年はヴィッキー・チャオ(趙薇)監督の『致我們終将逝去的青春』で好きな女性をひたすら想い続ける先輩を演じて高い評価を受けたほか、『臨終囧事』で主演も果たしました。今や指折りの若手演技派俳優と言えるでしょう。

北京博納悠唐国際影城は7つのホール、1200席を有する大型シネコン。地下にあるがロビーが吹き抜けになっているなど、ゆったりした雰囲気を持つ

映画館の入る悠唐生活広場前にも国慶節を祝う花が。ただ、今年は市内各所の飾りつけが例年に比べ質素な印象

この物語でチェン・スーチェンは、女性にだらしない医師が人間味を取り戻していく様子を嫌味なく演じています。二枚目俳優ですが、お人よしでダメダメな部分を持つ人間を演じられる幅の広さが魅力です。そして、持ち前のとぼけた味に無邪気さを加えた演技で観客の涙を誘うのがバオ・ベイアルです。二人の息の合った演技に、監督の俳優選びのセンスを感じます。

俳優選びといえば、他の出演者も中国映画ファンにはうれしい豪華さです。ヒロインは、2010年にドラマ『紅楼夢』で林黛玉を演じて話題になったジャン・モンジエ(蒋夢婕)、兄弟のおかあさんは『生きていく日々』(2007)のパウ・ヘイチン(鮑起静)です。麗江で出会う警察官には『クレイジー・ストーン~翡翠狂騒曲~』(2006)のまぬけな泥棒リウ・ホア(劉樺)、章開の直近の彼女には同監督の『親家過年』(2012)でウェン・ジャン(文章)と共演したリウ・ユン(劉芸)、兄弟が訪ねて行く美女たちには、大ヒット・ドラマ『醜女無敵』(2008)のシェラ・リー(李欣汝)、とろ~い女の子を演じさせたらピカイチでドラマや映画に引っ張りだこのホアン・シャオレイ(黄小蕾)などがキャスティングされています。

連休前半は北京の秋らしいからっとした晴天に恵まれたが、4日から6日にかけては「霧霾」が発生、鼓楼からの眺めもこの通り

個人的には、『人在囧途』のように脚本がもう少し練りこまれていると良かったかなと思いましたが、まじめに作られているのは分かりましたし、物語の展開にも好感が持てました。それから、作品紹介部分を読んでお気づきになられた方もいらっしゃるかと思いますが、兄弟の名前を合わせると「開心」(愉快だ)になります。最近、中国中央テレビ局の報道によって、シャングリラで横行する悪質な旅行ガイドの実態が明らかになり、世間の憤りを買いましたが、美しい風景の場所はこの映画のように愉快に旅したいものです。

【データ】

一路順瘋(Bump In The Road)

監督:イップ・ワイマン(葉偉民)

出演:チェン・スーチェン(陳思誠)、バオ・ベイアル(包貝爾)、ジャン・モンジエ(蒋夢婕)、パウ・ヘイチン(鮑起静)

時間・ジャンル: 95分/コメディー・人情

公開日:2013年9月29日

 

北京博納影城朝陽門旗艦店

所在地:北京市朝陽区三豊北里2号悠唐生活広場B1

電話:010-59775660

アクセス:地下鉄2・6号線朝陽門駅から徒歩7分、A口から東へ進み、外交部南路を南へ

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年10月10日

 

同コラムの最新記事
頑張れ北漂族!『愛拼北京』
注目の2男優が雲南へ『一路順瘋』
映画に見る両岸の距離『団円』『愛別離』
法廷サスペンスに新機軸『全民目撃』
失われた5年間の記憶『被偸走的那五年』