People's China
現在位置: 連載最新映画を北京で見る

地方がターゲット『愛情踫踫撞』

 

文・写真=井上俊彦 

 ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

超低予算だが地元の人は楽しめそう

最近ネットで、主要都市以外の地方都市をターゲットに超低予算で制作された映画のあることを知り、さっそく見に行ってきました。

河南省開封市を舞台にした幸運のブローチの物語です。謎の黒ずくめの男2人は、目を付けた「富二代」(金持ちの息子)の李剛を追跡し、高価な梅の花のブローチを奪おうとしますが、ホームレスの「犀利哥」が拾ってアクセサリーショップに持って行き換金。彼は、その金で買った「楽透彩」(ロトくじ)が当たり5万元を手にします。一方、陳家輝と琬雯は相思相愛ですが、琬雯の母親は家も持たないサラリーマンの陳との結婚に大反対です。そんな時陳はアクセサリーショップでブローチを買い琬雯にプレゼントしますが……。

いわゆるシンデレラ・ストーリーですが、なるほど、いろいろな点で低予算制作されたことを感じました。出演者は見たことのない顔ばかりで、メインの数人を除いて演技が「下手」なのです。エンドロールで見ると、キャストとスタッフの双方に名前が出てくる人が何人もいましたので、どうやらコストカットのためスタッフが出演していたようです。

これで、ストーリーがつまらなければそれまでですが、低予算でも観客を飽きさせない努力が感じられました。地方でも人々の関心を集める持ち家と結婚の問題、成功者の子女「富二代」の問題などをストーリーに組み込んでいるだけでなく、幸運を呼ぶという梅の花のブローチが次々と誰かの手に渡り、手にした誰かの運命を変えていくという展開がユニークで、次はどうなるのか楽しみながら見られました。また、開封市の中心にある「宋都御街」など魅力的な風景も登場しました。観光案内的意図もあるのでしょう。ほかにも開封大学(監督の母校)など地元の人に親しみのある場所でロケが行われ、「おお、うちの近所が映画に出てくるぞ」と楽しめた地元の方は多いのではないでしょうか。それで出資者が募れるのなら、こうした映画もありかと思われました。作品中、「17.5シネコン」の宣伝と思われる案内板も見られましたので、同シネコンのネットワークを使い北京など大都市でも公開したのかと想像しました。でも、私以外にも観客がいましたので、地方色濃厚な作品を楽しむ層が存在するのかもしれません。

地方に焦点を当てた作品が隠れたヒットに

まったく傾向は違いますが『周恩来的四個昼夜』という作品があります。今年7月の公開時には特に大きな話題にもならなかったのですが、クチコミで評判が広がり、時間が経過してもいくつかの館で断続的に上映され続け、超ロングセラーになりました。数日前に八一映画製作所が発表したところによると、興行成績はトータルで7000万元を上回ったそうです。こうした地味な「主旋律電影」(革命の歴史や、国家建設に関する物語を通じて愛国精神や国家建設に対する積極的な意識を喚起しようとする映画)としては近年まれに見る、評判が評判を呼んでの好成績です。

内容は1961年に、「大躍進」で過大な水増し報告をする地方の実態を明らかにするため、河北省の伯延という村を訪れた周恩来総理の物語で、地方幹部が置かれた状況などを詳しく描き込んでいて興味深く見ました。陳力監督は以前このコラムで紹介した『愛在廊橋』でも地方をテーマにしています。今回は、一見よくある偉人物語の体裁なのですが、じっくり見ると違ったものが見えてきます。地方の状況に明るくない周恩来の調査活動、彼と地元の人々の接触を通じて、観客は自分の利益だけを考えて行動する人物以外に、国家と地方の間で板挟みになる地方幹部の悩み、革命世代とその後の世代の価値観の違いなどを目にしていきます。

多様化する中国社会にあって、地方文化と映画のさまざまなアプローチによる展開が進んでいるようです。そこから見ごたえのある作品が出て来てくれるのは、映画ファンにとっても喜びです。

映画館近くの大学前では昼休み時間に多数の宅配便が学生がネットショッピングで買った品物を並べている。これも最近の北京を代表する風景

秋も深まり、道端の果物屋台にはユズ、カキ、ブドウなどが並ぶ。焼イモを売るおじさんも

 

 11月18日で、北京で行われていた世界園芸博覧会が終了。直前に会場を訪れた

なかなか見ごたえのあったパビリオン(というか庭園)のうちでも印象に残った江蘇省のもの。テーマは「憶江南」だった 

しかし、園芸博会場内に多数いる中高生の人気を最も集めていたのはダックだった 

 

【データ】

愛情踫踫撞(LOVE IS TOUCH)

監督:チャン・イーモー(張一墨)

出演:リー・シャオロン(李小龍)、ディー・ワンウェン(狄琬雯)、デン・ウェイドン(鄧偉東)、ユー・ハンジン(余函璟)

時間・ジャンル: 90分/愛情・コメディー

公開日:2013年11月15日

 映画館へは、韓国系スーパー入口の北にある小さな入口からエレベーターに乗る

ロビーには小さめのディスプレーが置かれていた 

北京17.5影城四道口店

所在地:北京市海淀区四道口2号B座京果商厦3階北側

電話:010- 62115539

アクセス:地下鉄4号線魏公村駅下車、A口の北にあるバス停から85路などのバスで2つ目の皀君廟下車、前方交差点の北

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年11月19日

 

同コラムの最新記事
馮小剛の面目躍如 『私人訂製』
ド派手な香港犯罪アクション 『風暴』
“起死回生”の公開 『無人区』
地方がターゲット『愛情踫踫撞』
両岸役者対決!『大明劫』