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青春を懐かしむ「80後」『同卓的你』

 

文・写真=井上俊彦

 中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。 

メーデー興行にダークホース現る

日本ではゴールデンウイークですが、中国でもこの時期は5月1日のメーデー3連休があり、映画興行的にも書き入れ時になります。これに向けて4月25日にまず公開されたのが『同卓的你』です。実は業界が最も期待したのは同日公開となるドニー・イェンの新作アクション『氷封:重生之門』でしたが、『同卓的你』は同作を初日から興行収入で上回り(『氷封:重生之門』の方が初日は上映回数も多く3D作品で料金も高かったのですが)、2日目以降は上映回数を逆転させています。

私は公開2日目となる土曜日の朝8時半という回に、学生客が多いことで知られるUME華星に行ってみました。評判に対する反応が早い学生の動向を確認したかったからです。案の定、カップルだけでなく女子学生のグループや一人で見に来ている男子学生もいて、何度も笑い声が起きるなど、反応は上々のようでした。情報によると、公開3日目の日曜日までに1億元を突破したとのことで、意外なヒットになりそうな気配です。

さて、作品のタイトルは、1990年代半ばに高暁松が作詞作曲、老狼が歌って一世を風靡した、いわゆる“キャンパスフォーク”の名曲からつけられています。当時中高生だったいわゆる「80後」にとって思い出深い曲になっており、机を並べて学んだ彼女が今は誰の妻になっているのだろうと思いを馳せるこの歌の世界観が、物語のヒントになったそうです。

物語は2013年7月のニューヨークから始まります。ビジネスマンの林一(ケニー・リン)は、ある日中国からの国際郵便を受け取ります。中に入っていたのは結婚式の招待状で、そこには「我慢できずにお知らせします」のひと言が添えられていました。1993年、中1だった林一のクラスに転校生がやってきます。あいさつで「スタンフォードに留学するのが夢です」と自己紹介した周小梔(チョウ・ドンユー)は林一の隣に座ることになりました。それが二人の運命の出会いでした……。

季節はさらに進み、映画館近くではエンジュの花が咲き甘い香りを放っていたほか、私の住むコミュニティーではバラの花も咲き始めた

チョウ・ドンユーが今度は90年代の高校生に!

ヒロインはチャン・イーモウ監督の『サンザシの樹の下で』で1960年代の高校生を演じたチョウ・ドンユーですが、この作品では90年代の高校生を演じています。『サンザシ~』では人民服やブルマ姿が印象に残りますが、今回は今でも中国の高校生が着用しているダボタボのジャージ型制服姿です。なお中学生時代は、昨年公開の『宮鎖沈香』と同じくチャン・ズーフォン(張子楓)が扮しています。

相手役の林一には、ドラマ『宮廷女官 若曦』(歩歩驚心) で第十四皇子を演じて日本の中国ドラマファンにも知られてるケニー・リンです。中国では、ドラマ『宮鎖連城』が放送中のチェン・シャオ(陳暁)、ドラマ『歩歩驚情』が放送中のジアン・ジンフー(蒋勁夫)らとともに中国大陸部で今最も注目される若手イケメン俳優とされます。

メーデーの連休を前に、土曜日の午前中から北京動物園はこのにぎわい

さて、その林一が思い出す中高時代、大学時代の数々のエピソードは生き生きとして感傷的です。エピソードの背景には、NATO軍による中国大使館誤爆事件、米国同時多発テロ事件、SARS(サーズ)など、この時代の社会的出来事が使われています。監督の郭帆は、ジェシー・チェン(房祖名)を起用した『李献計歴険記』(2011年)で注目された若手で、この作品には1980年生まれの監督自らの体験が盛り込まれているかもしれません。『あの頃、君を追いかけた』や『致我們終将逝去的青春(So Young)』、『アメリンカンドリーム・イン・チャイナ』に比べるのはちょっとかわいそうですが、なかなかよく出来ていると思います。しかし、二人の別れや現在の林一の生活の描き方にいささか不満が残ります。米国での10年には何の意味もないようであり、奔放な日本人の婚約者やステレオタイプな上司は、単に現在を否定するためだけに登場しているかのようです。もう少し工夫があっても良かったのではと感じました。

そして一つ気になったのは、10年後に再会するアモイ大学同級生たちの境遇です。米国に渡ったものの成功にはほど遠い状態の林一だけでなく、友人には現場系の仕事をしている者さえいるのです。これは上の世代を描いた作品との大きな違いのように感じます。彼らがまだ社会的成功を勝ち取る年代になっていないためか、あるいはこれが名門大学を出ても成功が保証されない「80後」の現実なのか、考えさせられました。

4月16日から23日まで北京国際映画祭が行われたが、参加した映画館では映画祭関連の飾り付けも見られた

 

【データ】

同卓的你(My Old Classmate)

監督:グォ・ファン(郭帆)

出演:チョウ・ドンユー(周冬雨)、ケニー・リン(林更新)、マイク・スイ(Mike隋)

時間・ジャンル:98分/愛情・学園

公開日:2014年4月25日

 UМE国際影城

 他の映画館では主演二人のさまざまな表情をあしらったポスターも見られた

UМE国際影城(華星店)

所在地:北京市海淀区科学院南路44号

電話:010-82115566

アクセス:地下鉄4号線人民大学駅下車、B口を出て北3環西路を東へ4分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年4月28日

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