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中年夫婦の危機『忘了去懂你』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

好調の映画界に影を落とすあの問題

いよいよ新学期(中国では新学年)ですが、夏休み最終盤の映画界は残念な話題一色となってしまいました。『あの頃、君を追いかけた』(2011)で大陸部でも一躍人気者になったクー・チェンドン(柯震東)が、ジャッキー・チェン(成龍)の息子ジェイシー・チャン(房祖名)とともに大麻使用で逮捕されたのです。クー・チェンドンは今年公開のヒット作『小時代3』にも出演、数多くのコマーシャルにも起用されていました。大人なので本人の問題かもしれませんが、周囲のマネジメントにも疑問を感じます。というのも、今年になってからだけでもチャン・グォリー(張国立)の息子のチャン・モー(張黙)、渋い脇役で評価の高いガオ・フー(高虎)らが大麻で逮捕されているのです。このところとにかく景気のいい映画界ですが、その影で根深い問題が業界をむしばんでいるのではと心配になります。

さて、その夏休み最後に見た『忘了去懂你』は監督デビュー作ながら、なかなかの佳作でした。舞台は重慶市に属する白沙鎮、重慶からは約70キロ西に位置する長江の古い港町です。ここで美満超市(スーパーマーケット)という名前の小さな雑貨店を営む陳雪松は、木工所(倒産状態のよう)勤務の職人蔡偉航と幼い娘と暮らしていますが、最近夫婦関係は冷めてコミュニケーションが少なく、お互いに相手を理解しようとしておらず、安定した家庭には嫁姑問題や夫の仕事問題などの火だねがくすぶっています。そんな中、夫はネットで妻の男性関係についてのウワサを目にし猜疑心をつのらせます。一方、妻は携帯履歴を覗いたり身分証明書を隠すなど夫の管理を強めます。ある日、夫は家具の下請けとして工場を再生させるチャンスを得ますが資金が足りません。そこに、妻が大金を工面してきます……。

有名ブランドショップが多数入居し北京市西部を代表するショッピングモールとなっている万達広場

近々武漢に万達電影楽園がオープンするそうで、カウントダウンの表示があった

激動の時代にあまりにもろい夫婦のきずな

陳雪松を演じるタオ・ホンは、もともとはシンクロの選手で、世界選手権入賞の記録を持つほどの実力者だったそうですが、ジャン・ウェン監督の『太陽の少年』(1994)に出演して以降、芸能界で活躍するようになりました。映画、テレビドラマから舞台まで、さまざまな作品に出演しており、この年末にはジャン・ウェン監督待望の新作『一歩之遥』に出演することも明らかになっています。実生活の夫は『人再囧途之泰囧』(2012)のシュー・ジェンです。この作品では、地方の小さな街で何かとウワサにされる美人妻を好演しています。

彼女をめぐる3人の男のうち、夫の蔡偉航には日本でも『故郷(ふるさと)の香り』(2005)などで知られるグオ・シャオドンが配されています。ヴィッキー・チャオ(趙薇)やチェン・クン(陳坤)などとともに“北京電影学院96年入学組”として早くから注目されたイケメン俳優ですが、今回はけっこうなダメ中年の役を渋く演じています。次に、両替を口実に雪松の店にしょっちゅうやって来る若いタクシー運転手呉彦君を演じて存在感を見せているのがツー・イーです。彼は、著名俳優ウェイズ(巍子)の息子で、ワン・シャオシュアイ(王小帥)監督の『重慶ブルース』(2010)ではワン・シュエチー(王学圻)の息子を演じました。この秋公開が予定されているアン・ホイ(許鞍華)監督の『黄金時代』にも出演しているなど、今注目の俳優です。そして、雪松の高校時代の元カレで不動産会社の経営者楊九城を演じるのは、『Go!上海ラブストーリー』(2011)などで知られる監督のチャン・イーバイです。そうそう、監督といえばジャ・ジャンクー(賈樟柯)がプロデュースを担当しています。

別の映画館だが、アン・ホイ監督の『黄金時代』の前宣伝が始まっている

映画館と同じ建物にある外資系スーパーの入口には、中秋節(9月8日)を前に月餅の宣伝が

監督はチュアン・リンです。もともと作家で、今回自らの小説を映画化して監督デビューしました。経済や社会の変化が大きい現在の中国地方都市に暮らし中年に差し掛かった女性が、夫に立腹し、失望していく変化を追って淡々と進む物語ですが、女性監督の目線がよく行き届いており、小道具や背景など細かな点まで丁寧に描き込まれていました。それが、心の動きを表情や目で表現するタオ・ホンの演技を際立たせており、中年女性の苦悩を描いた点に着目し『風水』(2012)と比較する映画評もありました。

確かに、タオ・ホンの演技は見事で、雪松という女性にはリアリティーを感じましたが、一方、私には夫の偉航が少しステレオタイプで単純すぎるかなと感じられました。ネットではこの夫を中国のある世代、層の象徴だとする見方も紹介されていましたし、物語の中でも彦君に「幼稚だ!」と罵られる場面がありましたが、それでも同じ男としてもう少し複雑に描いてほしかった気もします。と、注文をつけましたが、人に聞かれれば「もちろん、見た方がいいよ」と勧めたい作品であることは間違いありません。

このエリアにある八大処公園。中に大きなお寺があり、農暦1日の日には大勢の善男善女が訪れていた。意外に若い女性が多いことに驚かされる

【データ】

忘了去懂你(Forgetting to know you)

監督:チュアン・リン(権聆)

キャスト:タオ・ホン(陶虹)、グオ・シャオドン(郭暁冬)、ツー・イー(子義/王紫逸)、チャン・イーバイ(張一白)

時間・ジャンル: 89分/ドラマ・愛情

公開日:2014年8月29日

このエリア随一の規模を誇る万達電影城は、巨大な万達広場の一角にあり、IMAXホールを含む10のホールを有し、1600人余りの収容力を誇る。各種優待制度なども整っている

電影城のロビーが工事中でチケット売場は仮設状態だったが、映画は滞りなく上映されている

北京万達電影城石景山店

所在地:北京市石景山区石景山路乙18号万達広場地下3階

電話:010-68663399

アクセス:地下鉄1号線八宝山駅下車、D口を出て西へ、徒歩7分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年9月1日

 

 

 

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