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韓国映画の“本土化”に成功『重返20歳』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

 

70歳が20歳に若返ったら!?

 

作品の宣伝ディスプレー

 

先週公開され、ハリウッド人気シリーズ『ナイトミュージアム3 エジプト王の秘密』を抑えてトップを快走しているのが、日本でもヒットした韓国映画『怪しい彼女』のリメーク『重返20歳』です。私はオリジナルは見ていないのですが、たまたま日本で『怪しい彼女』を見たという友人が北京に来たので、彼らと一緒に鑑賞し、その後北京料理をつつきながらオリジナルとの違いなどについても教えてもらいました。鑑賞後に食事をしながら話題が盛り上がる映画は、やはりいい作品なのだと思います。

大学教授の息子夫婦と孫2人と暮らす夢君(ヤン・ズーシャン)は、口の悪いおせっかいなおばあさん。近所の老人たちとはトラブルを起こし、嫁には小言ばかり。ついにプレッシャーで倒れてしまった妻の身を案じた息子は母を老人ホームに送ることにします。さすがに落ち込む夢君は街を歩いていて写真館を発見、遺影用の写真でも撮影しようと入店します。そして、店主の「いちばん美しかった頃を思い浮かべてください」という言葉のままに撮影に応じた彼女は、街に戻った後で自分が20歳に戻っていることに気づきます。そして喜ぶ彼女に、20歳の頃にできなかった夢をかなえるチャンスが訪れます……。

 

 今年は暖冬ぎみだが、それでも什刹海のスケート場はこのにぎわい

 

現代中国に合わせたリメーク

こうした作品ではタイムスリップという手法で、主人公が過去の世界に行くパターンが多かったと思いますが、周囲の環境はそのままで肉体だけが若返るというところが斬新な工夫かと思います。ハリウッド映画『セブンティーン・アゲイン』にも似た設定です。友人の話によると、基本プロットはかなりオリジナルに忠実で、家族構成なども基本的に同じだそうですが、時代や人物設定で一部現代中国の実情に合わせた変更が加えられています。韓国版では夫との死別の背景には朝鮮戦争が使われているようですが、こちらでは少し時代をずらし、主人公は1940年代生まれという設定になっています。

文革時代に苦労をし、女手ひとつで息子を育てた主人公には、自分の夢をかなえるチャンスがありませんでした。彼女はもともといじわるなおばあさんではなく、子どもを育てるために強くならざるを得なかったのです。今の若者はチャンスに恵まれていますが、この時代はお年寄りたちのたいへんな苦労の上に出来上がったのです。そうしたことが説教臭くなく若者に使わるようになっており、若い観客は笑いながらも目頭を熱くさせていきます。一方、若返ったおばあさんのイマドキの若者にはない痛快な言動に、観客はどんどん魅了されていきます。そこで使われる懐メロも効果的です。テレサ・テンが歌った『給我一個吻』(『Seven Lonely Days』のカバー)や『つぐない』などが、現在の音楽に慣れた若者たちに新鮮な響きを感じさせます。

 

ショッピングプラザ内にはジャッキーの顔写真をあしらった垂れ幕、ポスターなどが至るところに見られた

 

ひとつ触れておきたいのは、主人公を演じるヤン・ズーシャンが、自らの魅力を強烈に見せつけていることです。ヴィッキー・チャオ監督の『致青春』(S0 Young)で注目された女優さんですが、少し古風な顔立ちが、夢君が好む復古調の服装とぴったりで、若者にも新鮮でおしゃれな印象を与えます。そして、20歳の笑顔の裏に70歳の心を持つという複雑な人物をいやらしさなくさわやかに演じているのです。特に、おばあさんたちにまじって「広場舞」(公園ダンス)に参加し、顔だけでなく身体的にも若返っていることを確認した時に見せる“してやったり”の笑顔(どや顔?)は最高で、多くの男性客がこの時点で彼女の魅力に“してやられちゃった”はずです。

アイドル目当てで劇場に来た女性客が2度目は家族と一緒に見たくなる作品であり、中高年が若者に薦めたくなる作品になっていると思います。

 

今年の春節は2月19日とかなり遅いが、王府井や西単のデパートには未年に向けた飾り付けや宣伝が見られるようになってきた

 

映画館の入るショッピングプラザ

 

【データ】

重返20歳(Miss Granny)

監督:レスト・チェン(陳正道)

出演:ヤン・ズーシャン(楊子姍)、グイ・ヤーレイ(帰亜蕾)、ルー・ハン(鹿晗)、チェン・ボーリン(陳柏霖)

時間・ジャンル: 131分/コメディー・ファンタジー・家族

公開日:2015年1月8日

 

2014年末にオープンした北京耀莱成龍国際影城(王府井店)は9ホール、622人の収容能力を持つシネコン。最新設備とレベルの高いサービスが売り物で、地下鉄王府井すぐという交通至便の立地も魅力

 

北京耀莱成龍国際影城(王府井店)

所在地:東城区王府井大街301号新燕莎金街ショッピングプラザMB1

電話:010-65273227

アクセス:地下鉄1号線王府井下車、C出口を出て北へ徒歩2分

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年1月16日

 

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