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中国映画の2015年を振り返る

 

文・写真=井上俊彦

興行収入は記録ずくめの1年

中国映画業界は2015年も絶好調で興行収入は14年の300億元弱から大幅に増え440億元突破しました。ここ数年一貫して急激に成長している中で、さらに50%に近い成長率を記録したわけで、本当に驚かされます。このコラムが始まった2011年には『トランスフォーマー3/ダークサイド・ムーン』1作がかろうじて10億元を超えただけだったのですが、なんと8本もの10億元突破作が出現、トップの『捉妖記』は約24億4000万元となっています。11年に第2位だった『カンフーパンダ2』の記録6億2000万元弱では、15年はベスト20に入れるかどうかというレベルになっています。また、ベスト10の7本を国産映画が占めているのも大きな特徴です。

捉妖記

ドラえもん

相変わらず強い海外大作

外国映画からは2015年も大ヒット作が出ました。特に前半は歴代興行収入記録を塗り替えた『ワイルド・スピードSKY MISSION』(24億元)から中国公開日本映画の記録を大きく更新した『STAND BY ME ドラえもん』(約5億3000万元)まで、外国映画上位10作品で440億元の約4分の1を稼ぎ出しました。外国映画の大作は2015年も圧倒的な強さだったわけですが、実は夏休みからは国産映画にビッグヒットが続出し、全体として国産映画の勢いを感じた年となりました。

家族で楽しめる作品が人気に

その国産映画では、コメディーにヒットが続き、興行収入全体の15%近くを稼ぎ出したとも言われます。『煎餅侠』は純粋なコメディーとしてこれまでの記録を塗り替えました。学園ものですが、コメディー的要素の強い『夏洛特煩悩』は14億3000万元強と2015年最大のダークホースになりました。ほかにも『港囧』が大ヒット(16億1000万元)しました。こうしたコメディー的要素の強い作品に代表される、家族で楽しめる作品が支持された年だったと思います。家族で楽しむレジャーの定番として、映画館は週末になると家族連れで大にぎわいでした。以前は、中国では映画館の主要顧客は都市部の大学生や若いサラリーマンやOLであるとされていました。しかし、このところ家族で映画館を訪れる人々がますます増えている印象です。昨年の『爸爸去哪児』に続いて、バラエティー番組をそのまま映画化した作品『奔跑吧,兄弟!』が4億3000万元以上のヒットとなったのも象徴的です。

また、青春回顧ものは相変わらず多数登場しましたが、以前多かった若者が傷つけあう物語ではなく、さわやかな青春を描いた『左耳』や『我的少女時代』がヒットしたのも、家族で楽しめる作品というニーズを反映している面があると思います。2011年には全国で1万以下だったスクリーン数は、15年には3万1000となっていますが、その多くは大都市の郊外や地方都市に開業したシネコンのものです。地方での市場開拓が進み、家族を映画館に呼び寄せていることが想像されます。そうした中、最も「稼いだ」俳優はバイ・バイホー(白百何)でした。その出演作合計で30億元以上と、もっとも客を呼べる女優の地位を不動のものにしています。男優では、彼女と『捉妖記』で共演したジン・ボーラン(井柏然)。合計で28億元を記録し、コメディーから文芸作品まで、独特の存在感を見せつけました。二人とも幅広い年齢層に好感を持たれ、多くのコマーシャルにも起用されています。

港囧

我的少女時代

俳優についてさらに触れておきますと、いよいよ「90後」つまり1990年代生まれのスターたちが注目される年になりました。ウー・イーファン(呉亦凡)、ルー・ハン(鹿晗)、オウ・ハオ(欧豪)、ヤン・ヤン(楊洋)、ワン・ダールー(王大陸)などのイケメンがスクリーンで輝きました。

国産アニメに大ヒット

西遊記之大聖帰来

『ドラえもん』も人気を集めましたが、国産アニメの『西遊記之大聖帰来』が10億元に迫る大ヒットになり、興行収入ベスト10に食い込みました。待望の国産アニメ大ヒット作の出現は、今後の国産アニメブームのきっかけになるのか注目されます。国産アニメはこれまでにも多数作られてきましたが、多くは幼児向けで、それなりのヒットにはなっていましたが、この作品は若者や女性を巻き込んで人気を集め、中国中央テレビ局(CCTV)のニュース番組でも取り上げられるなど社会現象化しました。実はそれ以前、正月に公開された『十万個冷笑話』が1億元を突破しており、若者が映画館でアニメを見るというパターンの先がけになっています。

冒険、アクション、サスペンスに新境地

アクション映画では、『戦狼』『殺破狼2』のウー・ジン(呉京)が目立ちました。2作合わせて10億元を突破し、アクション・スターとしての地位を確立しました。また、アドベンチャーものでは、同じ人気小説を映画化した『鬼吹灯之九層妖塔』と『鬼吹灯之尋龍訣』という2作がヒット。墓泥棒や宝探しといったテーマは、長い歴史と広大な国土を持つ中国ならではのジャンルだけに、今後さらに多くの作品が登場することでしょう。また、『天将雄師』ではジャッキー・チェンが健在ぶりを見せつけ、7億元を上回るヒットになりました。一方、興行収入的にはさほどでなくとも、優れたサスペンス作品が次々登場した年でもあり、このジャンルへの今後の期待も高まりました。上海国際映画祭で3人が主演男優賞を受賞した『烈日灼心』、誘拐サスペンスという新機軸を打ち出した『解救吾先生』のほか、法廷ものに工夫を加えた『十二公民』も一種のサスペンスと言えそうです。

戦狼 烈日灼心

ネットとの関係がより密接に

2015年のもう一つの大きな傾向として、ネットとの連動が挙げられます。ネットで人気のショートムービーが劇場化、あるいはショートムービーで人気の俳優が大スクリーンに進出して成功するなどの動きがありました。『煎餅侠』がその代表と言えるでしょう。実は、ネットの動画サイトには人気映画のパロディーや、ヒット作品にあやかろうというタイトルのショート・ムービーがあふれています。劇場公開作品も、上映から1~2カ月でネットで有料公開され、その数カ月後には無料公開になっています。ネット小説、ネットのショートムービー、ヒットしたテレビドラマやバラエティー、外国映画のリメークなど、あらゆるコンテンツを呼びこむ中国映画市場とネット市場の勢いを感じます。そんな中で「IP電影」という言葉も流行しました。これは、知的所有権映画という意味で、ヒット曲を含む原作のある映画のことです。ホー・ジョン(何炅)が自らのヒット曲を監督として映画化した『梔子花開』や人気小説が原作の『烈日灼心』、もともとは舞台劇の『十二公民』といった具合です。しかし、以前から原作のある映画は別に珍しいことではなく、それをいちいち「IP電影」とくくることには違和感を覚えます。

梔子花開 煎餅侠

ケータイ予約が当たり前に

ケータイのアプリによる映画予約システムはあっという間に普及し、それが当たり前になってしまいました。アプリを使い、事前に席を予約して料金も決済し、上映時に映画館の自動発券機からチケットを取り出して作品を見るというパターンです。これによって、窓口の行列は消滅し、むしろ入場口に行列ができるようになっています。さらに、人気作品は当日窓口に並んだのではもう良い席は確保できない状態です。前年には観客全体の10~15%程度がネット予約だと言われていましたが、2015年には過半数がネット予約になっているとの調査もありました。それだけにアプリ同士の競争もし烈で、各社とも特典や割引によって顧客を奪い合っており、アプリ予約なら8.8元という激安価格も登場しています。

 

 

2016年の展望 巨匠作品が続々公開

2015年はファミリー向けのライトな作品が人気となりましたが、この傾向は16年も続くのでしょうか。ダークホースは出現するでしょうか。手元の資料から、すでに明らかになっている2016年の話題作をざっと見ておきましょう。まず、海外ものとしては1月には『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が公開されますし、春節興行では『カンフーパンダ3』が控えています。そのほか『X-メン』などハリウッド特撮ものが次々公開されることになっており、また人気を集めることでしょう。国産映画では、春節に特撮ものの『西遊記之孫悟空三打白骨精』や人気シリーズ『澳門風雲3』などのほか、チャウ・シンチー監督の新作『美人魚』が公開予定となっています。3月には人気アクション・シリーズ『葉問3』が控えています。今年はアン・リー(李安)監督、チャン・イーモウ(張芸謀)監督、ジョニー・トー(杜琪峰)監督ら巨匠の新作も公開予定ですし、ジョン・ウー(呉宇森)監督が高倉健主演の『君よ憤怒の河を渉れ』をリメークする作品も今年公開予定となっています。トニー・レオン(梁朝偉)主演作も予定されていますし、フォ・ジェンチィ(霍建起)監督とホアン・シャオミン(黄暁明)主演という組み合わせの『大唐玄奘』や、『鄭和1421』などの歴史大作も日本人としては興味のあるところです。『グリーン・デスティニー』の続編などのアクション大作も公開予定です。一方、いわゆる「主旋律」映画の大作として、朝鮮戦争65周年記念作品の『我的戦争』のほか、『建国大業』『建党偉業』に続く『建軍大業』の制作も発表されています。ほかにも大作、話題作目白押しという感じで、今年もさまざまな話題を提供してくれそうです。私もできるだけ頑張って映画館で見るようにしますので、今年もお付き合いいただければ幸いです。

※2015年末の為替レートでは、1元は19円弱でした。

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2016年1月8日

 

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