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つかの間の「北京の青空」

 

文=島影均

「やればできるじゃないの」-と北京に住むわれわれ外国人を含めた住人が久しぶりに青空を見上げて思いきり深呼吸をしました。11月初旬から12日までの「APECブルー」のことです。

中国が国威をかけてホスト国を務めたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、悩みの種は世界的に悪評が広まっている大気汚染の元凶PM2・5(微小粒子状物質)対策だったようです。APECの会議場は北京郊外でしたが、北京全域の空気浄化を目指して大英断を下しました。まず北京市内の車を大幅に減らすために、7日から12日までの間、学校を含む公的機関を休みにしました。なぜ学校もかと言うと子どもたちの送り迎えにマイカーが走りまわるからです。さらに通常の車両のナンバー規制を強化し、偶数、奇数で制限しました。

筆者は8日、北京首都空港からタクシーに乗りましたが、一度も渋滞に引っからずに普段の半分以下の時間で帰宅できました。この規制によって、北京市内を走るマイカーは36%も減り、地下鉄などの公共交通機関の利用者は2%増えたそうです。さらに打った手は北京市内、北京市を取り囲む河北省で大気汚染の原因物質を排出している工場の一時操業停止と操業短縮でした。北京市内の60社が操業を休み、河北省の2386社が操業停止か操業短縮を実行したと報じらました。このように「APECブルー」はかなり強引な施策によって実現しましたが、「壮大な実験」でもあったようです。

ところで北京はじめ大都市を悩ませているスモッグを中国語では「霧霾(ウーマイ)」と言います。手元の中国語辞書には載っていませんから近年の造語なのでしょう。「霧」は日本でもおなじみですが、漢音で「バイ」と読む「霾」は「つちぐもり。大風が土砂を空に巻きあげて降らせ暗くなること」(新漢語林)とあります。おどろおどろしいですが自然現象には違いありません。ところが、この自然現象に紛れ込んでいるのがとんでもない危険物質なのです。

特に冬場は激しくなります。APEC終了後の11月15日から北京市内の住宅のスチームに蒸気が通り始めました。地域暖房ですから便利でいいのですが、この熱源の多くは石炭ボイラーですから、排気ガスにはPM2・5が含まれています。

25年前の北京では通勤通学は自転車が主流でしたから、クルマが自転車の洪水に埋まる悩みはあっても、空気はきれいでした。抜けるような「北京秋天」が記憶に残っています。

北京の住民の日課はPM2・5を携帯電話やパソコンでチェックすることから始まります。いくつかのサイトがありますが、100以下(良)から500以上(有毒)まで5段階で表示したものや、平均値の他に例えば「天壇」「米国大使館」などのポイントの数値を示しているものもあります。

この原稿を書いている時点(11月20日午後)の汚染度は316で5段階評価では「危険」に入り、「病気にかかりやすい状況。戸外運動は避け、老人、病人は家から出てはいけない」というアドバイスが表示されています。

大気汚染対策は世界第2の経済大国になった中国の最大の悩みです。日本の環境保護のノウハウに対する願望も強まっています。

「APECブルー」のなごりの青空に来年に備えて膨らみラン(白玉蘭)の芽が光る(11月13日、北京市西城区)

スモッグを透かして景山から故宮を見下ろす観光客(新華社)

 

人民中国インターネット版 2014年12月

 

 

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