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イケてない男の逆襲『煎餅侠』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

 

連日4億元超!どこまで続くこの勢い

 

先週土曜日は興行収入が4億2000万元と、これまでの単日記録を塗り替えました。日曜日も4億元を超え1週間で17億6000万元と、今年の春節興行を上回りました。最近、このコラムの冒頭は毎回のように興行収入と記録の話題です。

景気がいいのはよろしいのですが、これによってとんでもない現象も生じています。土曜日に私が見に行ったシネコンでは、7月9日公開の『少時代4 霊魂尽頭』と同10日公開の『梔子花開』が、それぞれ4億元、3億元を上回るヒットになっているにもかかわらず、もう上映されていませんでした。週末を2度もらえなかったのです(!)。つまり、それ以上に集客力のある作品が目白押しで、これらの作品を下げざるを得なかったというわけです。

その集客力のある作品とは何か、ご紹介しましょう。まず、前回このコラムでご紹介した『西遊記之大聖帰来』はその後中国中央テレビ局(CCTV)のニュースでも取り上げられるなど社会現象化しています。そしてこの週末に向けてはバイ・バイハー(白百何)とジン・ボーラン(井伯然)が主演の特撮アクション『捉妖記』、そしてナンセンスでハチャメチャなコメディー『煎餅侠』が公開され、それぞれ大ヒットになっています。今回はこの『煎餅侠』についてご紹介しましょう。

物語は、登場人物が実名で登場する「メタ映画制作」とでも言うべき構造になっています。ネットのショート・ムービーが人気で調子に乗るダーポン(本人)ですが、悪いことは続くもので彼女のアンバー・クオ(本人)にプレゼントする高額の指輪を紛失し、別の女性とのスキャンダル写真を雑誌に掲載されてしまいます。このため映画『煎餅侠』の制作は、借金で資金不足、スキャンダルでスターは出演拒否と頓挫寸前。大ピンチに陥った彼は盗撮でスターを“出演”させてしまうことを思いつき、スターの出没する場所をねらって深夜に珍妙な“煎餅侠”姿で駆けまわることに。案の定撮影は次第に大変なことに……。

 

 新華国際影城大鐘寺店18日土曜日の上映状況。すでに『少時代4 霊魂尽頭』と『梔子花開』の名前がなくなっている

最近の映画人気を当て込んで、ショッピングモール内の店には「映画チケット持参の方割引」を実施するところが多い。一種のコバンザメ商法か 

 

若者がネット時代のダサ男を支持!

 

監督・主演のダーポンは本当にネットのショート・ムービー『吊糸男士』(イケてない男、ダサい男の意味)シリーズで人気の俳優で、司会者としても知られます。ネットの人気を背景に監督デビューしたわけですが、これが初日から大ヒットとなり、公開3日で4億元を突破してしまいました。恐るべき中国インターネットのパワーです。

ポスターの写真を見ていただいてもお分かりの通り、主人公は本当にイケメンではありません。経済成長の続く中国では、理想の男性として「高・富・帥」(背が高く、金持ちでハンサム)がもてはやされていますが、光が強ければ影も濃くなるの例え通り、その真逆の「吊糸男」も別の意味でとても注目されています。若者たちは「吊糸」を笑うショート・ムービーに大いに共感(自嘲?)を寄せ、その延長にある『煎餅侠』にも早くから注目していたようです。

展開はいささか荒唐無稽ですが、それでもイケてない男なりの頑張りと友情を軸にうまく正統派の泣き笑いコメディーにまとめており、後味も悪くありません。また、新鮮な言葉のギャグが随所に散りばめられ、満員の若い観客の笑いを誘っていました。そんな観客の反応は、私に中国におけるコンテンツ・ビジネスは今まさに急拡大期を迎えており、従来にない形で新たなスターが生まれていることを教えてくれました。インターネットのショート・ムービー事情についてはまた改めてご紹介する機会があろうかと思います。

また今回の作品では、監督の人脈を生かした出演者も魅力です。ネットでは第1話から共演したリウ・イエンに加え、アンバー・クオ(郭采潔)やダン・チャオ(鄧超)といった人気スターから、サンドラ・ン(呉君如)、エリック・ツァン(曾志偉)ら香港映画界の大物、さらにはジャン=クロード・ヴァン・ダムまでゲスト出演させています。

ところで、タイトルについてひと言。中国に詳しい方はご存じかと思いますが、「煎餅」は日本の“せんべい”ではなく“ジエンビン”です。小麦粉やとうもろこしの粉を焼いたクレープ状の食品で、北京の街角でもよく売られている庶民的なスナックです。これがどうしてヒーローの名前になったのかは……ネタバレになるので説明しません。「だったら話を持ち出すなよ」と言われそうですが、実は「煎餅」については、ちょうど8月初旬発売の『人民中国』8月号の「美しい中国・山東省日照」の中で詳しく説明しています。関心がおありの方はぜひ、という宣伝をさせていただきたかったわけです。

 

土曜日の夕方、このシネコンでは前回ご紹介した『西遊記之大聖帰来』がこの後7回の上映がほぼすべて満席、『煎餅侠』も次の2回が満席となっている

 

 

【データ】

煎餅侠(Jian Bing Man)

監督:ダーポン(大鵬)

キャスト:リウ・イエン(柳岩)、ユアン・シャンシャン(袁姍姍)、リャン・チャオ(梁超)

時間・ジャンル:113分/コメディー

公開日:2015年7月17日

 

新華国際影城大鐘寺店の入り口の様子。『道士下山』の宣伝用アーチがあるが、この日の上映は夜11過ぎに1度だけ 

興行記録を塗り替えるなど絶好調の映画界ですが、それによって映画館のロビーは人の波、チケットカウンターだけでなく発券機にも行列ができている。(カウンターは新華国際影城大鐘寺店の様子) 

 

北京新華国際影城大鐘寺店

所在地:北京市海淀区北三環西路大鐘寺中坤広場C座3階

電話:010- 82511616

アクセス:地下鉄13号線大鐘寺駅下車、A口を出て東へ、徒歩5分

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2015年7月22日

 

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