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多感な少女+サスペンス『黒処有什麼』

 

文=井上俊彦

中国映画を北京市民とともに映画館で楽しみ、そこで目にしたものを交えて中国映画の最新情報をお届けするという趣旨でスタートしたこのコラムも5周年を迎えることができました。中国社会がモノを消費する時代からサービスを消費する時代へと変化する中、この5年間で年間興行収入は130億元から440億元に急拡大、郊外や地方都市にもシネコンが続々開業して全国的に娯楽の定番となりました。その間にネット予約が当たり前になるなど、映画を楽しむスタイルも変化しています。そうした周辺事情も含めて中国社会の発展をよく映し出す映画は、日本人の私たちが中国を理解する一つの窓口にもなると思います。6年めもできるだけたくさんの映画をご紹介したいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです

FIRST青年映画展監督賞作品が一般公開

今年の国慶節期間中は旅行に出かけ、映画はあまり見ませんでしたので、前回から間が開いてしまいました。すみません。国慶節興行では前半は重慶のラジオ局を舞台に若者たちの恋愛模様を描いたチャン・イーバイ(張一白)監督の『従你的全世界路過』が人気を集めましたが、犯罪アクションの『湄公河行動』(ダンテ・ラム/林超賢監督)が追い上げ逆転、16日現在で10億元に迫るヒットになっています。ただ、昨年は『港囧』『夏洛特煩悩』などが大ヒットし7日間で18億元以上の興行収入を記録したことが記憶に新しく、それに比べると見劣りがしました。

そんな国慶節興行に続く時期に、思春期の少女の成長を連続殺人事件の進行とかぶせて見せるというユニークな「青春回顧」の手法で、2015年西寧FIRST青年映画展の監督賞を受賞した作品が一般公開され、興行的にはともかく一部熱心な映画ファンの間で話題になっています。

1991年、河南省にある小さな工場町。法医学を学んだ警察官を父に持つ曲靖(スー・シャオトン)は、多感な中学2年生。クラスメートで早熟な張雪(ルー・チーウェイ)や彼女に言い寄っているチンピラの趙飛(ジャン・シュエミン)の影響もあって、曲靖は少しずつしつけに厳しい父に反発を強めるようになりますが、そんな時に、町では連続レイプ殺人事件が発生します。そして犯人がつかまらない中で、張雪が失踪します。やがて防空壕で腐乱死体が発見され、張雪ではないかと考えた警察は趙飛を連行しますが……。

女性監督のユニークな演出

監督のワン・イーチュンは、おそらく故意に俳優に昔の中国映画を感じさせるやや大げさな芝居をさせ、それによって観客により時代を感じさせようという、なかなか凝った演出をしています。そして、未解決の事件が進行するサスペンス風の設定によって、思春期の少女の不安定な心理を強調する特殊なアプローチで物語を進めており、これも成功していると思います。私も最初はサスペンスのつもりで見始め、後半になってようやく、思春期の少女の成長がテーマの映画なんだということに気づいた次第です。ネットの映画評には、韓国映画『殺人の追憶』(2003)をほうふつさせるというものも見られました。

みずみずしい演技を見せているヒロインのスー・シャオトンは、1998年生まれという若さで、撮影時にはまだ高校生になったばかりかと思われます。映画では中学2年生の役を演じています。90年代の地方都市に普通にいそうでありながら、とても存在感のある少女です。そして、彼女を盛り立てる脇役たちの演技もなかなか光ります。父親役のグォ・シャオは舞台劇から映画まで幅広く活躍する俳優で、コントで『春節の夕べ』に出演した実績もあります。ジャン・シュエミンは『青春派』(2013)などにも出演しており、味のあるチンピラやいけ好かないクラスメートなどの脇役で印象に残る俳優です。

物語や俳優だけでなく、監督は細かなグッズにまでこだわった様子です。ヒロインがあこがれる車輪の小さい自転車、Gパン、ブラジャー、パーマにそれが表れています。また、当時のヒット曲、部屋に貼られた香港スターのポスター、少年たちがこっそり見ようとする外国のビデオ(日本のAVか?)などなど、1990年代前半の地方都市に暮らす少女を取り巻くさまざまな事物が登場してきます。私は90年代中盤以前のこうした面については疎いのですが、当時からの中国を知る人にはきっと興味深いと思います。館内には、こうしたアイテムが登場するたびに「あっ、あれは○○よ」とつぶやいたり、ヒロインに合わせて今では懐メロになった当時のヒット曲を歌い出す女性客もいました。

 

【データ】

黒処有什麼(What's in the Darkness)
監督:ワン・イーチュン(王一淳)
キャスト:スー・シャオトン(蘇暁彤)、ルー・チーウェイ(陸琦蔚)、グォ・シャオ(郭笑)、ジャン・シュエミン(蒋雪鳴)
時間・ジャンル:102分/サスペンス・青春
公開日:2016年10月14日

 

北京世茂国際影城ロビーの販売コーナー。最近は飲食や物販に力を入れる映画館が増えている

【データ】

北京世茂国際影城
所在地:北京市海淀区羊坊店路18号 光耀東方広場4階
電話:010-57536166
アクセス:地下鉄7、9号線北京西站駅下車、A口から地上に出て羊坊店路を北に進み右手のビル、徒歩6分

 

国慶節に向けた街角の飾り付けは65周年の時に比べるとややおとなしめだったが、デザインは以前よりあかぬけてきた。また、北京市内の商業施設の広場にしつらえられたステージでは、国慶節を祝うコンサートも行われていた。

 

国慶節当日、天安門は観光客であふれんばかり。さすがに長時間並んで入る勇気はなく、路線バスの中からパチリ。北京一の繁華街・王府井も観光客で大混雑していたが、みな観光を楽しんでおり、顔に国旗シールという女性も~

 

旅行先でも国慶節らしい光景を見かけた。大運河南端の杭州・塘棲鎮では当地伝統の餅菓子のコンテストが行われており、餅菓子で作った天安門も並んでいた。一方、紹興の人気料理店では飾られた国旗の下、順番を待つ観光客の長い列が~

 

国慶節連休が終わると北京はどんどん秋が深まる印象。スーパーの入り口には冬の風物詩ビンタンフールー(サンザシあめ)販売コーナーも出現。

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2016年10月19日

 

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