なぜ中国企業をM&Aするのか

 

鮑栄振
(ほう・えいしん)

北京市の金杜律師事務所の弁護士。1986年、日本の佐々木静子法律事務所で弁護士実務を研修、87年、東京大学大学院で外国人特別研究生として会社法などを研究。

 中国は外資によるM&A(企業買収)の時代に突入した。

 

 米国の会計コンサルタント、グラント・ソントンの調査によると、2005年7月から06年6月までの1年間に、多国籍企業266社が中国企業に対するM&Aを実施したという。うち、米国系が23%ともっとも多く、続いて香港、シンガポール(いずれも19%)、英国(同6%)、日本(同5%)の順となっている。

 

 なぜいま、中国企業にM&Aがかけられるのか。

 

 中国への直接投資は、主に合弁、合作(中国側との共同出資)、独資(外国資本100%)の3つの形態がある。すなわち、合弁、合作、独資のいわゆる三資企業の形式での「グリーンフィールド・インベストメント」(中国語では「緑地投資」)が主流だった。

 

 合弁、合作は、各種の優遇措置の恩恵を受けられるほか、中国側パートナーが持つ人脈、販路など、無形の資産を活用できるというメリットがある。しかし、中国側パートナーとの意思疎通が難しく、意見や利害の対立などによって、経営困難に陥るという事態も少なからず発生している。独資は、経営を自由にコントロールできるが、販路などは自ら切り拓いていかなければならず、人事労務管理上の困難も生じやすい。

 

 そこで、日本企業をはじめとする外国企業は、中国企業へのM&Aを実施することで、市場と既存の販売網の一挙獲得を狙うようになった。

 

 中国での外資による企業M&Aは、1995年7月5日、いすゞ自動車と伊藤忠商事が、協議によって北旅公司の法人株25%を取得したケースから始まった。いすゞ自動車と伊藤忠は、買収済み株式について、当初、8年内の譲渡はないとしていたものの、北旅公司の赤字経営が好転しない状況に業を煮やし、結局、株式の転売に踏み切った。これは、中国では「北旅事件」としてよく知られている。

 

 この株式転売は、契約に違反するものではなかったようだが、買収時における持分評価、情報公開、道義的責任といった面から疑問の声があがると同時に、こうした外国企業による買収は、国有資産の流失であるとの指摘も生じるなど、各方面での論争が起こった。

 

 中国企業の買収が対中投資の新たな潮流となるのに伴い、中国の民族産業が損なわれ、外資に市場が独占されることになり、国家経済の安全に危害が及ぶことにもなりかねない、だから外資によるM&Aに対して、独占禁止の側面から規制することが焦眉の急ではないか、との意見が出始めている。

 

 とくに一昨年から今年にかけて、米投資会社カーライルによる中国の工作機械最大手の徐州工機の株式85%の買収をめぐっては、政府高官や専門家からも、非難や規制を求める声が多く聞かれた。

 

 2006年9月8日から施行された『外国投資者による国内企業のM&Aに関する規定』(2003年4月施行の買収規定を改正したもの)には、こうした声に配慮して、重点産業に関連する中国企業等を標的とした外国投資者によるM&Aについては、中国商務部への申告を義務づけ、国の規制強化をはかる規定が新設された。

 

 また、『独占禁止法』がまだ制定されていないという状況のもと、新旧買収規定には、いずれも独占禁止法的規制が含まれている。この規制の対応策として外国投資者は、実施しようとするM&Aが、欠損企業を再編し、かつ従業員の就業を保障しうることや、先進的な技術及び管理人材の導入により、対象企業の国際競争力を向上させうることなど、法定の審査免除事由に該当すれば、新買収規定に定められた「独禁規制審査の免除」を商務部に対して申請することができる。

 

 現在、立法過程にある『独占禁止法』にも、独占協議の禁止、市場における支配的地位の濫用の禁止、経営者の集中の禁止などの規制が盛り込まれる予定であるという。

 

 このように、中国では、対外開放の基本方針を引き続き実施して、外国の資金、先進技術、経営管理の経験を積極的に導入すると同時に、法律を整備し、外資による重点企業買収に対する監視を強化する法整備と政策がとられていくことになるであろう。

 

人民中国インターネット版

 

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