スーツケース(箱子)

 

 

監督 王分    2007年 90分    第20回東京国際映画祭アジアの風上映作品

 

あらすじ

 

大山は雲南の観光地麗江で旅館を営む妻と暮らす、雪山登山と花の栽培、大工仕事が趣味という男。妻は働き者だが、体型にコンプレックスがあり、夫と同郷人の女との関係を疑っている。ある朝、旅館の前を流れる水路に見覚えのある黒いスーツケースが流れてくる。大山が拾って開けてみると、中には何と氷づめになった人間の遺体の一部が!妻の追及を恐れ、大山は慌てて、それらを温室の鉢植えの中に隠す。

 

 

ちょうどその時、旅館にやって来た泊り客の若夫婦も何だか雰囲気がおかしく、夫妻喧嘩の果てに夫は妻を置き去りにして出て行ってしまう。泣き濡れる妖艶な若妻を慰めるうち、大山は思わず彼女と絡みあってしまうが、それを出先から戻ってきた大山の妻が目撃してしまい、妻は大山の温室を指さして、すべてを警官である弟に打明けると脅す。止めようとした大山は思わず石を振り上げて妻を殴りつけて、殺してしまう。客の若妻は大山を助け、空になったスーツケースに妻の遺体を詰めて自分の車のトランクに運び入れる。そこには、出て行ったはずの若妻の夫が縛られて詰めこまれていた…。

 

解説

 

スーツケースの中のバラバラ死体は大山が浮気相手を殺したものとばかり最初思いこむのだが、実はそうではなくて…というサスペンスタッチのミステリーではあるのだが、その謎解きよりも、実は何より恐ろしいのは互いに信頼しあえない夫婦関係であると言うのが、おそらくこの映画の一番言いたいことなのだと思う。

 

大山夫婦もその友人の山羊夫婦も他人の前では仲睦まじげにふるまうが、実は夫は隙あらば妻の監視の目を逃れて好き勝手したいと思っているし、妻もまた疑心暗鬼にさいなまれている。そして、それはこの二組の夫婦ばかりではなく、映画のラストでは再び似たような黒いスーツーケースが流れてきて、大山の隣家の夫がまた慌てふためいて、それを拾いに駆け出していくところで終わっているように、どこの夫婦も似たり寄ったりという、監督はまだ29歳と若いにもかかわらず、なかなか冷徹で皮肉の効いた視線で結婚生活の実態を描いている。王分というこの若い女性監督は、ヴィッキー・チャオや范氷氷と同じ謝晋監督の明星学校で演技を勉強した後、ドキュメンタリー映画監督に転身、長編ストーリー映画はこれが初めてと言うから、恐れ入る。

 

作品は人を表す、と言うが、『公園』の尹麗川が少女のようなキュートな女性だったのに対し、王分はパンプ風というか小悪魔風で、でも、とても魅力的な女性だった。中国の若手女性監督はなかなか多士済々の様相を呈してきていて、これからが楽しみである。 

 

見どころ

 

『単騎、千里を走る。』で聖なるまでに美しく撮りあげられた麗江古城と玉竜雪山が、今回は何ともおどろおどろしく不気味に描かれているのがおかしい。この作品も『公園』同様、雲南の観光PRの一環の「雲南影響」プロジェクトのひとつなのだが、これで本当に地域振興になるのかとも思えて、この作品の製作に協力した雲南省はなかなかの太っ腹である。

 

役者も秀逸だ。特に大山の妻を演じた伍宇娟は、かつては『狂気の代償』や『龍年警官』などで可憐な若い女性を演じていた女優さんだが、このところの役どころは、『ミッシング・ガン』の姜文の妻役といい、この作品といい、非常にリアルな典型的な中国人の中年女性役ばかりで、これでもかという感じで女優魂を見せつけている。

 

客の夫婦の夫役はジャ・ジャンクー作品でお馴染みの王宏偉。顔を出した瞬間、「あ、小武」と思わず笑ってしまうほど個性的なお顔立ち。その妻を演じるのも、なかなか達者な若い女優さんで、二役を演じたもうひとつの役とまったく雰囲気が違うのにびっくり。夫役の呉剛も、警官の義弟役の唐偉もとても良かった。

 

ドラムの音と人の話し声と笑い声で構成された独特の音楽はいつまでも耳に残り、登場人物の焦躁感を表したかったという、いろいろな仕掛けの効いた作品である。

 

水野衛子 (みずのえいこ)
 中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 

人民中国インタ-ネット版

 

 

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