手機(携帯電話)

 

監督 馮小剛 2003年 104分

あらすじ

テレビの人気トーク番組の司会者の厳守一は出版社に勤める武月との関係が妻にばれて離婚する。テレビ局の発音の矯正研修で知り合った演劇学校教師の沈雪と親しくなり、同棲を始めた途端、別れた妻が自分の子を産んだことを知らされ、深く動揺する守一。子どもが生まれたことを沈雪に隠していたのがばれ、疑念を持たれた守一は腹立ち紛れに携帯電話を家に置いて出かけたため、最愛の祖母の死に目にも会えない。失業した元妻を出版社に就職させるよう武月に頼むと、武月は見返りに自分を番組の後任司会者に推薦しろと言う。その件での武月とのやりとりから、2人の関係が続いていると思った沈雪は厳守一と別れる決意をする。祖母の葬儀の日、携帯電話を薪にくべて焼いた厳守一は番組を降板する。携帯電話はますます便利になり、人々の生活をがんじがらめにしていくようである。

解説

携帯電話会社がスポンサーなのに、携帯電話のおかげで私生活も人生もかきまわされる現代人を描いた辛口コメディになっているのがおかしい。中国のスポンサーは、なかなかの太っ腹である。この映画がヒットして、全中国の男性は「いま、会議中なんだ。」という言い訳ができなくなり、迷惑をこうむったとも言われている。いい気味ではある。

携帯電話を道具に使ってはいるが、実はこの映画のテーマは「言葉」である。厳守一が司会する番組は明らかに中央テレビ局の人気トーク番組の『実話実説』のパロディだが、映画のほうの番組顧問を務める費教授がさまざまなシチュエーションで発する四川訛りの至言の数々や、中央戯劇学院と思われる学校の先生である沈雪の、わざと台湾訛りで喋る大陸のアナウンサー批判など、脚本の劉震雲の現代中国語に対する鋭い言語感覚が何と言ってもこの映画の醍醐味。

携帯電話という風俗描写は日本人には何ら目新しいものではなく、隠しテーマの「言葉」が日本語にすると面白みがなくなってしまうので、ついに日本では公開に至らなかった作品であるが、中国語を学ぶ人にとっては大変に面白い映画なので、ついでに原作にも挑戦して欲しいところ。今の中国娯楽文化の頂点にある作品だと思う。

見どころ

何度見ても抱腹絶倒の数々の傑作シーンの中で、特にお薦めなのは、会議中に同僚の携帯電話にかかってきた電話への応対を見て、厳守一がかけてきた相手の台詞を推測して真似してみせるシーン。ここの台詞は採録をご参考ください。

もう1つは、武月に自分との関係を書いた暴露本を出すと脅されて、厳守一がニヤリと笑い、カメラ目線で、「タイトルは『私は青春をあなたに捧げた』がいいな」と言うシーン。これは実は楽屋落ちのジョークで、映画の少し前に監督の馮小剛が出した自伝的エッセイのタイトルなのだ。葛優のアドリブだったのだろう。カメラのこちら側で笑い転げたであろう監督の姿が浮かんでくる。ちなみに監督が青春を捧げたと言っているのは、沈雪役の女優の徐帆で、この映画と同じ監督と脚本家のコンビで大ヒットしたドラマ『一地鶏毛』の出演がきっかけで監督夫人になった。知り合ったのはさらに早く、馮小剛が脚本を書き、夏鋼が監督、これも葛優主演の『再見のあとで』でのことらしい。これも大変出来のいい風俗映画だった。

他には費墨役の張国立、守一の従兄役の范偉といった馮小剛映画の常連俳優に混じり、いまや超売れっ子の美人女優范冰冰が非常にいい味を出している。0808

 

 

人民中国インタ-ネット版  2008年9月1日

 

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