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飲める黒レンガ?

 

文=ゆうこ イラスト=amei 監修=徐光

これまでは、みなさんもよくご存知の、いわゆる名茶を味わってきました。しかしここにきて突然、一味違ったお茶が飲みたい、と思い立った私。すでに常連となっているいつもの茶館で、何か変わり種のお茶はないですか、と店員さんに聞いてみました。すると、だったら黄茶がオススメですよ、との返事が返ってきました。

代表的な黄茶は、君山銀針(くんざんぎんしん)というお茶で、見た目は緑茶にとてもよく似ています。黄茶はその名の通り、茶葉の色が黄色いだけでなく、淹れたお茶の色も黄色いのです。緑茶と比べると、黄茶は発酵プロセスが一段階多く、そのため緑色の葉っぱは黄色く変化し、それで黄茶と呼ばれるのだとか。この発酵過程の間に、「消化酵素」が作り出され、私たちの消化不良や食欲不振を改善してくれるとか。

う~ん……、確かに黄茶も珍しい中国茶なのでしょうが、なんだかいまひとつ物足りない感じがします。そこで店員さんに、そういうのじゃなくて、もっとあっと驚くような変わったお茶はないですか?と聞いてみました。すると店員さんも、私が言いたいことを分かってくれたようで、大きな黒いレンガのような塊を出してきてくれました。興味津々の私、手で軽くたたいてみましたが、どうもすごく硬いみたいです。

「このお茶はどうやって飲むんですか?」と聞きながら、大きなおボウルにこの黒い塊を入れて、そこにお湯を注ぐ場面を想像してみました。

「これは黒茶というんですよ」と言いながら、店員さんはくるみ割り器のような道具を使って、バリバリッと黒い塊の一部を砕き割り、それを紫砂壷に入れてお湯を注ぎました。お茶の色は黒みがかった深い茶色。なんだか漢方薬みたいで、あまりおいしくなさそうです。飲んでみると……に、にがい。かなりの苦味があります。爽やかで上品な味わいの緑茶、花の香りをまとった香り高い烏龍茶、今まで飲みなれていたお茶とはかけ離れた、ずっしりとした味わいに、とてもじゃないけど馴染めません。

そして思わず「あの~……このお茶って売れてるんですか?」と聞いてしまいました。だって、この味は絶対に一般受けするお茶じゃないはずと思ったからです。黒茶は、見た目も味わいも、他のお茶とは一味どころか二味も三味も違うお茶みたいです。

「あら、ゆうこさんもだんだんお茶の道に精通してきましたね」となじみの店員さん。そして今日は、黒茶にまつわるお話をしてくれました。

前にこんなお話をしたのを覚えていますか? 唐王朝も末期になると、国力が衰えてきます。そこで、皇帝は税金を徴収するために、お茶を飲む習慣を広めたんでしたね。皇帝が奨励したものですから、各地のお茶農家の人たちは大量の茶樹を植えました。収穫された茶葉の中でも、質のよいものは献上品となるか、お金持ちの貴族たちに売られていきます。当然、質の悪いお茶には誰も見向きもせず、捨てられるばかりでした。それを見て、茶商たちは、なんてもったいないのだろうと常々思っていました。質のいいお茶といっても、そんなに大量生産できるものでもないため、高い値段で売ったとしても、儲けはたかが知れています。でも、もし、あの捨てられているお茶を売ったらどうなるか?値段をかなり下げて売っても、捨てるよりは儲かるじゃないか、こう考えた茶商たちは、販路を模索し始めます。

現在の、チベット自治区、新疆ウイグル自治区、内蒙古自治区などにあたる内陸部は、当時は僻遠の地と呼ばれて、生活は、江南地方のように豊かなものではありませんでした。なので、安いお茶は、彼らの興味を引くことになりました。しかし、これらの地域にたどり着くためには、険しい山道をはるばる越えていかなければならず、ばらのお茶では運びにくくて仕方ありません。そこで、考えた茶商たち、茶葉を蒸してから圧縮し、レンガのような大きな塊に成型して運ぶことを思いつきます。蒸して圧縮する間にお茶の発酵が進み、それで色が黒くなります。茶葉の交易は、数百年もの間ずっと行われてきましたが、16世紀の初めになってやっと「黒茶」という名前が朝廷への上奏文の中に登場します。これが「黒茶」という文字が記された最古の記録だそうです。

黒茶はお金持ちの貴族たちには好まれませんでしたが、雲南、四川、広西の一帯では流行し、同時に、チベット族や蒙古族、ウイグル族の人たちに好まれました。今では、日常生活の中で、なくてはならないものになっていて、「一日何も食べなくてもいいが、お茶は一日たりとも欠かすことができない」とまで言われるほどになっています。でも、どうしてそんなにも重宝されるのでしょう?

実は、黒茶の中にはたくさんの栄養分が含まれているからなんです。一番多く含まれているのは、ビタミンとミネラル、そしてたんぱく質やアミノ酸などです。西北地方の人たちは、牛肉や羊肉、チーズを主食としており、野菜や果物をあまり食べないため、人体に必要なビタミンやミネラル分が不足していました。しかし、この黒茶は、ミネラルや数種類のビタミンが豊富に含まれているため、飲むことで栄養分を補うことができるというわけ。そのため黒茶は「命のお茶」とも呼ばれています。

なるほど。もともとは、お金儲けをしようと目論んだ茶商たちも、知らない間に善行を積んでいたというわけですね。このお茶にそんな背景があったとは……店員さんの話を聞きながら、感嘆のため息をついてしまいました。黒くて苦い、でも体にいい。そんな黒茶の効能を知ってから、改めて飲んでみると、なんとなくおいしいような気がしてきました。

 

お勧めのお茶
六堡茶  
主要産地 広西省チワン族自治区
分   類 黒茶類 
参考価格 500グラム約100元~500元

 

人民中国インターネット版 2010年10月

 

 

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