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「剰女」に訪れるロマンス『単身男女』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

早朝からラブ・コメ映画はいかが

今、北京の映画館の料金はおよそ70元から80元、3D作品ともなると100元を超えることもあります。大学卒初任給が2700元ほどと言われる現状から考えるとこれはなかなか高額ですが、安く見る方法はあります。最も簡単なのが上映時間帯によって料金が違うシステムを利用することです。多くの映画館では午前、午後、夜と料金が段階的に設定されており、午前中は夜の半額で見られる館が少なくありません。

というわけで、清明節の連休にもかかわらず安く映画を見ようと、朝8時20分の上映をねらって海淀区のUME華星国際影城に行ってきました。この映画館は観客動員力があることで知られる人気映画館です。学生街にある立地を生かし、学生など若い観客を引き付ける工夫をいろいろしています。4階にはコーヒーショップがあり、3階には映画関係の書籍や雑誌が充実した書店も併設されています。この日は書店カウンターに、8年前のこの時期に亡くなった香港の俳優レスリー・チャンに関する書籍が並べられていました。一般に、中国の映画館では売り上げの8割が入場料だそうで、パンフレットや関連商品、飲食が半分を占める日本とは大きく状況が違います。入場料収入依存度を下げることが安定経営のカギだと専門家も指摘しており、この映画館はその意味でも先進的と言えるでしょう。

「剰女」に超ロマンチックな求愛の連続

さて、この日見た作品は『単身男女』。香港のジョニー・トー監督作品です。彼はいわゆる「香港ノワール」もので知られますが、実はラブ・コメも得意としています。かつてアンディ・ラウ(劉徳華)とサミー・チェン(鄭秀文)のコンビで『Needing You』(孤男寡女)などをヒットさせました。その流れをくむと言えそうなのがこの作品です。

北京ではショッピングセンターの数フロアに入っているシネコンが多い中、1階から全体を占有している映画館らしい映画館
蘇州の生まれで香港で働く子欣(ガオ・ユアンユアン)は、長く付き合ってきた彼氏に裏切られますが、傷心の彼女に2人の男性がアプローチしてきます。1人は隣のビルのやり手金融ビジネスマン申然(ルイス・クー)、もう1人は自信を失って酒におぼれる建築士の啓宏(ダニエル・ウー)です。意表をついた愛のサプライズ、ロマンチックな告白など、さまざまな求愛のテクニックと真実の愛が交錯する中、子欣はどちらを選ぶのか、どきどき、びっくりの展開が最後まで続きます。特に申然の奮闘ぶりは印象的で、ルイス・クーの好演が光ります。

清明節3連休は国産の大作公開がない中で、思わぬというと失礼ですが、大ヒットとなりつつあり、ジョニー・トーは「1億元クラブ入会か?」(興行収入1億元以上の作品を持つ監督の意)と言われています。

この作品で興味深いのは、子欣のプロフィール設定です。大陸から香港に行き1人頑張る美人女性で30歳前後となれば、まさに今中国で話題の「剰女」。高学歴で高収入、その上美人なのに結婚していない、なかなか結婚に踏み切れない女性のことです。そうした風潮を巧みに織り込んで観客の共感を得た監督は、さすがと言うべきでしょう。

ところで、ネットの書き込みを見ると、この作品に登場する男性が豪華で工夫がこらされたアプローチを次々に披露していて、きっと「あなたには、ロマンチックな気持ちと努力が足りない」と言われるから彼女とは行かないほうがいい、というものがあって笑いました。ちなみに、当日は早朝だというのに、10人以上の観客がいました。朝8時20分から「半額映画デート」しているような倹約カップルには、よけいなお世話のアドバイスかもしれません。

 

データ
単身男女
監督:ジョニー・トー(杜琪峰)
出演:ガオ・ユアンユアン(高圓圓)、ルイス・クー(古天楽)、ダニエル・ウー(呉彦祖)
時間・ジャンル:115分、愛情・喜劇
上映日:2011年3月31日
UME華星国際影城
所在地:北京市海淀区双楡樹科学院南路44号
電話:010-82112851
アクセス:地下鉄4号線人民大学駅から徒歩2分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年4月8日

 

 

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