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「孫子の兵法」を娯楽映画化『戦国』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

中国で映画を見るなら火曜日!?

中国で安く映画を見る方法の第2弾です。日本にも「映画の日」がありますが、こちらでは毎週火曜日が半額デーで、この日なら多くの映画館で映画を半額、つまり35元から40元程度で見られます。

この仕組みは2000年に重慶で行われたのが最初と言われます。それまで月曜、火曜は週のうちでも観客が少なく、映画館にとって頭の痛い問題となっていました。そこで、重慶の映画館が火曜日を半額デーにしたところ、週末を上回る売り上げを記録したのです。その後、関係機関が呼びかけるなどして05年から全国に広がり、現在のように定着しました。映画ファンにはすっかりおなじみになっているので、大ヒット作などは火曜日にはなかなか席が確保できないほどです。最近では、水曜日も半額にしてはどうかという議論もあるようです。

というわけで、今週は火曜日が初日という『戦国』を見るため、西単にある首都電影院に向かいました。大作映画を封切り日のゴールデンタイムに半額で鑑賞できるとは、映画ファンにとってうれしい限りです。そんなファンの動員を見越し、13ホールを持つ大シネコンでは、夕方には2、30分に1回の割合でこの作品を集中的に上映、待たされることなく鑑賞できました。観客席にはデートの若者が多く、コーラやポップコーンを抱えたカップルが次々入場してきていました。入場料は半額でも、2人で来て飲食もしてくれるわけですから、映画館としては十分もうかる計算です。

孫子の兵法を通じて戦争のむなしさを描く

ショッピングセンターの表通りに面した方角ではなく、横の通りに面した入り口から10階の映画館まで直行のエレベーターがある
さて、金琛監督と中井貴一のコンビでは、2006年に『鳳凰 わが愛』が制作されましたが、その撮影時から2人の間で、孫子の兵法を映画化するアイディアが話されていたそうです。それだけ時間をかけて構想が練られたこの『戦国』は、中国の戦国時代を舞台に、『孫子の兵法』の孫臏(そん・びん)に関する歴史を大胆に脚色したストーリーで、恋愛あり、戦争あり、智謀ありと盛りだくさんのエンターテイメントに仕上がっています。

独特なのは、孫臏が臆病で戦争が嫌いという設定になっていることです。もちろん、有名な孫臏と龐涓(ほう・けん)との戦いをハイライトとしているのですが、孫臏が智謀を駆使して相手を圧倒する戦争スペクタクルではないのです。孫臏の持つ優れた兵法の知識を自らの成功に利用したい人々と、臆病で純粋な彼を対比させることによって、戦争や侵略に血道をあげるむなしさを浮かび上がらせる組み立てになっています。

このところの歴史映画には、戦争では100%の勝者は存在せず、どちらが勝っても苦しむのは庶民、という描かれ方が多いように思います。今、中国社会がどんな方向に向かっているのかが、こんなところからも垣間見えるようです。

そして、この難しい孫臏の役を、スン・ホンレイ(孫紅雷)が見事に、魅力的に演じています。中井貴一も貫禄たっぷり、かっこよく斉王を演じています。しかし、誰より輝きを放っているのはヒロインのジン・ティエン(景甜)です。トレードマークの大きな瞳が、ある時はりりしく、ある時は怒りに燃え、またある時は愛に潤む…、これからの可能性を感じさせる21歳です。

少し気になるのは、前半のユーモアを交えて軽快なリズムに比べ、後半は失速気味で、なるほどの脱出劇や意外な内通者などの工夫もやや消化不良と感じる点です。

最後に、ヒロインが架空の人物であるなど、歴史書とはかなり違う部分がありますので、歴史ファンの方は「これぞ孫子の兵法」という場面をあまり期待しすぎないほうがいいかもしれません。

※半額デーに関しては、映画館独自の優待サービスをしているところも多いので、必ず確認したい

北京では4月23日から第1回「北京国際映画季」が始まるということで、こんな飾りつけもされていた

 

データ
戦国
戦国監督:金琛
出演:スン・ホンレイ(孫紅雷)、ジン・ティエン(景甜)、フランシス・ン(呉鎮宇)、中井貴一
時間・ジャンル:126分、戦争・時代
上映日:2011年4月12日
首都電影院
所在地:北京市西城区西単北大街大悦ショッピングセンター10階
電話:010-66086662
アクセス:地下鉄1号線西単駅から徒歩3分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年4月14日

 

 

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