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『2』ブーム?『窃聴風雲2』

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

金融犯罪が観客の心をとらえる

雨ばかりだった北京にもさわやかな青空が戻り、大作がずらっと並んだ今年夏の映画興行も、少し落ち着いてきたところです。そんな中、今週公開の期待作は香港を舞台にした金融犯罪サスペンス『窃聴風雲2』です。『1』では、ありがちな悲劇を背負い金が必要な普通人がインサイダー取引の情報を握ったら……という秀逸な設定に加え、盗聴というスリルで最後まで観客を引きつけ大陸部で1億元近い興行成績を上げました(残念ながら日本公開はされていません)。証券市場開設20周年を迎えた中国では、庶民の株式への関心はますます高まっており、金融犯罪というテーマが観客を引きつけてヒットにつながったようです。

『窃聴風雲2』のポスター 広い吹き抜けのロビーなど、最近のシネコンとは違う“劇場”の風格が感じられる

今回も、ルイス・クー(古天楽)、ラウ・チンワン(劉青雲)、ダニエル・ウー(呉彦祖)という同じ顔合わせで、証券取引と盗聴をテーマにしています。ただし、今回は特殊なグループの狭い人間関係がベースになっており、復讐という要素が強く入ってきます。このため、前作ほど登場人物に感情移入できないところがあったのですが、偶然にも現実世界での最近の世界的株価暴落と登場人物の境遇が重なって、設定に説得力がありました。

盗聴に関する新たなテクニックは最後に1度登場するくらいで多くないのですが、そのぶんカーアクションや株売り買いの駆け引きなど、違った面でのスリルがあり、まったくたいくつしませんでした。さすが『インファナル・アフェア』の監督コンビ、上映が終わってから121分というかなり長い作品だったことに気づいたくらいです。

柳の下にむらがる出資者たち

ところで、昨年は『葉問2』(日本では『イップ・マン 葉問』として公開)『非誠勿擾2』(日本で公開された『狙った恋の落とし方。』の続編)などが大ヒットしましたし、今年前半にはリウ・イエ(劉燁)主演の『硬漢2』が前作を上回る成績を上げました。『窃聴風雲2』に続いては、昨年ヒットしたオムニバス『全城熱恋』の『2』にあたる『全球熱恋』が9月公開予定ですし、ヴィッキー・チャオ(趙微)とジョウ・シュン(周迅)が再度共演する『画皮2』や昨年大ヒットしたツイ・ハーク(徐克)監督作品『狄仁傑』の『2』も撮影中など、ここ数年の間にヒットした作品の続編が続々と撮影、計画されています。

さらに、最近のヒット作の『2』にとどまらず、『河東獅吼2』『飲食男女2』『龍門飛甲』(『新龍門客桟2』にあたる)など、以前の港台ヒット作の『2』も次々と制作される情況です。

北京劇院は近隣の住民に親しまれている庶民の映画館

立秋過ぎの暑さ「秋老虎」の中、映画館に近い北四環は歩道の木陰が気持ちいい

ハリウッド作品ではすっかりおなじみの『2』ですが、最近の中国映画の相次ぐ『2』の出現には、やはり投資側の思惑があるようです。ヒット作の続編は確実な資金回収が計算できますし、前作の知名度を生かしそれ以上のヒットの可能性さえあります。一方で、これは制作側のの独創性欠如から来ている、これでは新しい人材が育たないなどとの批判もあります。

さて、この日出かけた北京劇院は1990年落成で、バレエやオペラなどが上演される立派なホールですが、930人収容の大ホールのほか、少人数向けの3つの映画専用ホールがあり、常時映画も上映されています。環境的には最近のシネコンとは比較できませんが、料金も安く設定されており、地元の人への優待もあって多くの観客でにぎわっています。この日も、80人ほどのホールでしたが満員の観客の熱気や反応を感じながら鑑賞しました。上映開始後に自分の席を探し画面をさえぎる長身の若者がいたり、株式やインサイダー取引について隣の夫にいちいち説明を求める奥さんがいたりしても、やはり大勢の人と興奮や感動を共有するのは楽しいものです。

【データ】

窃聴風雲2

監督:アラン・マック(麥兆輝)、フェリックス・チョン(荘文強)

キャスト:ルイス・クー(古天楽)、ラウ・チンワン(劉青雲)、ダニエル・ウー(呉彦祖)、ホアン・イー(黄奕)

時間・ジャンル:121分/サスペンス、アクション

公開日:2011年8月18日

 

北京劇院所在地:北京市朝陽区安慧里三区10号

電話:010-64910516

アクセス:地下鉄5号線恵新西街北口駅下車徒歩15分、北辰ショッピングセンター向かい

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年8月22日

 

 

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