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「富二代」がパリで暴走?『巴黎宝貝』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

 

注目俳優が爆笑演技で「父性愛」を表現

今回は、中関村にある海淀劇院をまず紹介します。ここは市北西エリアでも有数の劇場で、980人収容の大ホールのほか、120名ほどの小映画ホールが2つ併設されています。駅に直結のロケーションの良さも魅力ですが、9月中は入場料20~40元で映画を上映していてお得です。それならということで、公開からかなり時間が過ぎましたが、『巴黎宝貝』というコメディーを見に行きました。

 風格ある劇場の建物は遠くからでもすぐに分かる

パリに住む女流詩人エマ(『愛人/ラマン』のジェーン・マーチ)は、精子バンクで斡旋された優秀な金髪男性の精子を使いクレア(リウ・チェンシー)を出産します。ところが、この精子は実はある中国人のものだったのです。クレアの髪は黒く、成長するに従って本当の父親に似ていきます。そのころ、パリに留学中のドラ息子・レオは遊んでばかり、ついには中国にいる父親によってクレジット・カード使用停止の「経済封鎖」に遭います。それでもパリに残りたい彼は、クレアが自分の娘であることを知ってある作戦を思いつきます……。

チャン・ツィイー主演の『ソフィーの復讐』(2009年)を思い出させる少女マンガ風コメディーで、主人公がドタバタの中で愛情(こちらは父性愛)に目覚めていく展開などが似ている印象です。また、女性監督ならではのメルヘン・タッチで、心地よく物語が進行します。

見どころは、なんといっても主演のダン・チャオ(鄧超)のハチャメチャぶりです。ドラ息子の軽~い人間ぶり、その場をとりつくろうために演じるゲイ「夫婦」、女装で踊るフレンチカンカン、俗っぽい中国の歌謡曲を聴きながらの料理など、体を張って笑わせてくれます。ドン・チャオは、日本では出演作公開が多くないので知名度は高くありませんが、中国では早くから人気の俳優です。フォン・シャオガン監督の『戦場のレクイエム』で砲兵連の連長を演じたというと、思い出す方もおられるでしょう。昨年はツイ・ハーク監督の『狄仁傑之通天帝国』に出演するなど、まさに今注目の俳優です。なお、「八卦」(ゴシップ)情報ですが、ジェット・リー主演の『SPIRIT スピリット』で少数民族の娘を演じたスン・リー(孫儷)との間にまもなく二世が誕生、私生活でもパパになるそうです。

 

「富二代」への皮肉も込められた?

ところで、中国人留学生というと、以前は国家の派遣でやって来る超優秀でまじめなエリート、あるいはアルバイトで学費を稼ぐ苦学生のイメージがありました。しかし、世界第二位の経済大国になった今、留学事情も大きく変化しているようで、こんなドラ息子が留学しているのだと時代の変化を感じます。今、中国では「富二代」と呼ばれるこうした金持ちの子女が何かと注目を集めています。人気アイドルのバービィー・スー(徐煕媛)がこうした「富二代」と結婚したなどという華やかな話題もありましたが、一方で「富二代」が起こした事件が新聞の社会面をにぎわすことも増えています。

この作品でも、レオの両親が登場する場面では、ファッションや言動に「爆発戸」(成金)趣味が強調され、監督が皮肉を込めていることが分かります。それでも、最初は自分勝手な理屈で他人の生活をかき乱すドラ息子が、逆にそうした人たちと触れ合う中で自らを見つめなおし、人間性と家族愛を深めていくストーリーとなっており、一時はどうなることかと思った観客も最後は……、おっと説明しすぎました。

最後にタイトルについてですが、「巴黎」はパリ(日本では「巴里」ですが)で、「宝貝」は「ベイビー」です。中国語を知らずに漢字だけを見ると「へんなタイトルだなあ」と感じると思いますが、中国は外来語がどんどん入ってくる時代で、今後は外国語由来の漢字タイトルがさらに増えるのではないでしょうか。

巴黎宝貝
監督:王菁
キャスト:ダン・チャオ(鄧超)、ジェーン・マーチ、リウ・チェンシー(劉宸希)
時間・ジャンル 92分/コメディ、ホームドラマ、愛情
公開日 2011年8月25日

海淀劇院
所在地:北京市海淀区中関村大街28号
電話:010-82533588
アクセス:地下鉄4号線・10号線海淀黄荘駅B出口下車すぐ

地下にある映画用小ホール前は、ゆったりと座れるロビーになっている  劇場の外にあるチケット売り場には、特別料金キャンペーンの張り紙が 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年9月20日

 

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