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「70後」の青春『致我們終将逝去的青春』

文・写真=井上俊彦

ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

ポスター

ヴィッキー・チャオが監督デビュー

『少林サッカー』や『レッド・クリフ』などで日本でもすっかりおなじみのヴィッキー・チャオが初監督した作品が公開されました。彼女は女優として活躍するかたわら、北京電影学院の修士コースで映画撮影を学んできましたが、その卒業制作として取り組んだのがこの作品です。ちなみに、卒業制作として99点の評価を受け同学院の最高記録を更新したそうです。

その作品『致我們終将逝去的青春』(略して『致青春』と言われます)は人気小説をもとに、監督と同世代となる「70後」(1970年代生まれ)たちの大学生活と恋愛を描く力のこもった群像劇で、同世代だけでなく現役の学生たちからも熱烈な支持が寄せられています。ちょうど季節がら、卒業を間近に控える学生たち(現在は6月卒業ですが、物語の時代は7月卒業だったようです)の心もとらえたようです。

幼なじみの林静(ハン・グン)を追いかけ、別の都市の理工系大学に進学した鄭微(ヤン・ズーシャン)ですが、入学するなり林静が留学してしまったことを知らされ落ち込みます。そんな時に彼女は、優秀ですが偏屈な陳孝正(マーク・チャオ)と不愉快な出会いをします。ぶつかり合ううちに自分が孝正に引かれていることに気づいた鄭微は、超積極的行動で孝正にアタックを開始し大学中を驚かせます。そうしたいくつかの事件を経て、彼女は同室の仲間たちと強い絆で結ばれていきます。やがて卒業し自らの道を歩む仲間たちは、数年を経て再会することになります。しかし、何もおそれず、自分の気持ちに忠実に過ごした大学時代とは違い、社会人になった今ではみなそれぞれに背負う問題の中で生きていました……。

中国の大学生生活を共感とともに描く

報道によれば、公開6日の5月1日までに3億元を突破するなど出足好調のようで、評判もいいようです。この小説の熱心な読者である若い友人は、「前半は小説の雰囲気がよく出ていてかなり満足だけど、後半からラストシーンにかけては少々納得がいかない」と話していました。確かに、テンポよく学生生活を活写する前半に比べて現在を描く後半は多少平凡かとも思いますが、監督第1作としては立派な出来ではないでしょうか。

高級住宅地に隣接したショッピングモール内にある伝奇時代影城映画館のロビー 会員用ラウンジはゆったりして心地よい雰囲気で上映を待つことができる

特に、ストーリーの背景に1990年代の学生たちの姿が生き生きと描かれており、1976年生まれの監督の同世代の彼らに対する共感がスクリーンから伝わってきます。その学生たちの様子を見ると、同じ時代でも中日の大学生活が大きく違うことに目が行きます。

たとえば、日本では他の地域から来た学生たちは主に大学に比較的近い場所にアパートを借りて一人住まいをしますが、中国では多くの学生は学生寮で生活します。ヒロインを含む4人部屋の仲間たち(同室の親密な友人を意味する「閨蜜」と呼ばれます)は、プイ族で「校花」(ミス・キャンパス)の阮莞(ジャン・シューイン)などとても個性的です。なお、南京理工大学でロケが行われたようですが、物語に大学や都市名を特定する言葉は出てきません。

歩道にはアワギリやカイドウの花が咲き誇っている

また、物語の中で音楽が世代や時代の変化を示すアイテムとして使われているのも印象的でした。文化祭のような発表会で、本来副院長が『北国の春』を歌うところに割って入った鄭微が、『紅日』(大事MANブラザーズバンドの『それが大事』の広東語カバー)を歌い学生たちを大興奮させるシーンがあります。改革開放初期を象徴する曲と、香港文化が若者の心をとらえた1990年代前半のヒット曲を並べ、時代の変化を象徴するシーンです。そして、それがどちらも日本の曲であることが、日本人の私には特に心に残りました。また、後半に出てくるイギリスのロックバンド、スエードの北京公演ですが、私は最近の2011年に行われた再結成後ことかと思ってしまったのですが、どうやら解散前の2003年のことのようです。そして、この作品の英語タイトルも彼らの1993年のヒット曲からきています。

【データ】

致我們終将逝去的青春(So Young)

監督:ヴィッキー・チャオ(趙薇)

キャスト:ヤン・ズーシャン(楊子姍)、マーク・チャオ(趙又廷)、ハン・グン(韓庚)、ジャン・シューイン(江疏影)

時間・ジャンル: 132分/ドラマ・愛情

公開日:2013年4月26日

伝奇時代影城の入り口は広場に向かって大きく開かれている

伝奇時代影城

所在地:北京市朝陽区朝陽公園6号藍色港湾国際商区SA-42

電話:010-59056868

アクセス:地下鉄10号線亮馬橋駅C口を出て亮馬河沿いに東へ約1.5キロメートル

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年4月30日

 

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