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魅了する言葉の力『与時尚同居』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

 

イケメン編集者と仲間たちの挑戦物語

国慶節の大型連休以降は大作の公開がなく、少し寂しい映画館のロビーですが、実は個性的な国産映画が立て続けに上映されています。このため、映画館に着くまでどの作品を見るか決めかねていました。この作品、タイトルなどから一部のファンを対象にした台湾アイドルものかと思い、ほかの映画に決めかけたのですが、ある方から「見た方がいいよ」と推薦されていたのを思い出して見ることにしました。結果は、「人を信じてよかった」です。

物語は北京の東部、最もおしゃれな街にある人気ファッション雑誌編集部から始まります。イケメンで実力もある副編集長のパトリック(ヴィック・チョウ)は、編集長のアレックス(アラン・タム)の嫉妬を買い、陥れられてクビになります。彼は「それなら、別の雑誌を創刊してやる」と宣言しますが、編集スタッフで彼に着いてきたのは入社以来3年間ずっとアシスタントに甘んじている冴えない女の子・英紅(ビビアン・スー)ら2人だけ。それでも、「富二代」の親友・武陽からの出資を得て、胡同のおんぼろ出版社に編集部を構え、なんとか創刊にこぎつけますが、雑誌はさっぱり売れません。そんな時、パトリックから本名に戻った周小輝は画期的アイデアを思いつき、人気スターの表紙起用に成功しますが……。

監督のイン・リーチュアンは小説家、詩人でもあります。北京大学卒業後、フランスでドキュメンタリー映画を学んだキャリアを持ち、劇映画もこれで3作目ということです。今年日本でも公開されたチャン・イーモウ監督の『サンザシの樹の下で』の脚本も担当しました。

ユニークな台詞が飛び交い爆笑の渦

その彼女の、言葉に対する鋭い感覚が、この作品を軽快で楽しい作品にしています。オスカー・ワイルドの名言、マラソンのジョン・アクワリ選手の感動的コメント、マスコミやファッション業界の最新流行語、北京っ子ならではの言い回しから石炭成金の家庭で話される山西方言(たぶん)まで、さまざまな言葉が飛び交います。

「少しは才能があるみたいだが、デブじゃな」「(買った部屋が)五環だからどうした、七環だって北京は北京さ」(北京には六環までしかありません、念のため)などといった痛烈な台詞はカップルの多いホールで爆笑を誘っていました。また、「私の最も強靱な筋肉は、この心だ」「感動と励ましの物語は負け犬に聞かせるものさ」といった名言も数々登場、見終わってから誰かに話したくなるフレーズ満載で、中国語の引き出しが増えそうです。

映画館の入るビルは夜になると壁面イルミネーションが美しい

西単の名所の1つで、古い建物をそのまま利用して小さな庶民的ファッションの店が並んでいた「民族大世界商場」が閉鎖になっていた。北京の街角の変化は速い。

そして、そんな言葉を吐く編集部のメンバーの個性的なこと。業界をリードする超イケメンのパトリックは実は自分が田舎者であること隠しています。アシスタントの干物女・英紅のジャージの胸には「宣武」の2文字(しかも縦書き)。使う言葉が改革開放後とは思えない古参編集部員。そしてラム・シュ(林雪)演じる名カメラマン秦風の「京油子」(軽い北京人)ぶりは一見の価値ありです。

このでこぼこチームがやがて心を通わせ、成功を手に入れていく様子は感動的で、ラブ・コメのはずなのに青春群像劇の風格です。どうやら、これらの点が評判になっているようで、公開後何日もたってから当初より上映館が増えるという、珍しい現象が起きています。

ところで、中国で雑誌の仕事をしている身としては、劇中の新旧2つの編集部の様子を比べずにはいられません。かつての人気テレビドラマ『編集部的故事』から今年で20年、中国の出版事情も大きく変わりました。

与時尚同居(Sleepless Fashion)

監督:イン・リーチュアン(尹麗川)

キャスト:ヴィック・チョウ(周渝民)、ビビアン・スー(徐若瑄)、アラン・タム(譚咏麟)、キミー・チャオ(喬任梁)

時間・ジャンル 90分/愛情・コメディ

公開日 2011年10月21日

首都電影院

所在地:北京市西城区西単北大街大悦ショッピングセンター10階

電話:010-66086662

アクセス:地下鉄1号線西単駅から徒歩3分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年10月28日

 

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