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老人たちの冒険『飛越老人院』

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

『仮装大賞』出場を目指しバスは天津へ

5月8日、『スパイシー・ラブスープ』『こころの湯』『胡同(フートン)のひまわり』などで日本でも知られるチャン・ヤン(張楊)監督の新作が公開されました。

今回はとにかく出演者の顔ぶれがすごい。俳優・監督として大きな実績を持ち、最近でも『孔子の教え』で老子を演じるなど活躍を続けているシュー・ホアンシャン(許還山)、『古井戸』などで知られるウー・ティエンミン(呉天明)監督(俳優として出演しています、念のため)、『初恋のきた道』でおばあさんを演じたリー・ビン(李濱)などなど中国映画史を飾るそうそうたるメンバーが、個性的な老人ホームの面々を演じているのです。さらに、特別出演や友情出演のメンバーがまた豪華。映画『白毛女』のティエン・ホア(田華)からスーチンガオワー(斯琴高娃)、シュー・ファン(徐帆)、チェン・クン(陳坤)までが名を連ねています。

「飛」の字が繁体字で表現されているのは、レトロな感じを与えようというねらいか?

出演女性たちを中心にした、母の日バージョンのポスターも。「母の日、私といっしょにこの映画を見ましょう!」とのコピーが見える

ストーリーを紹介しましょう。2度目の妻を亡くした老葛(葛さん/シュー・ホアンシャン)は、友人の老周(ウー・ティエンミン)がいるホームにやってきますが、そこでの生活は味気なく、彼はどんどん元気をなくしていきます。一方、同室の老周は明るく前向きで、みんなを誘って人気番組『超級変変変』(仮装大賞のことです)に応募します。目標を持った老葛ら老人たちは元気を取り戻し、出し物の練習に熱中しますが、「危険だから許可できない」という院長や家族の反対に遭います。すると彼らは一計を案じ、廃品回収を装った古いバスでこっそりホームを脱出、天津の放送局を目指すのでした。おんぼろバスで行く内蒙古の草原ではさまざまな出会いがあり、老人たちの愉快な時間が続くかに思われましたが、誰より元気そうに見える老周は、自らの命が長くないことを知っていたのでした……。

1億2000万人の高齢者とその家族の物語

3月に公開された『桃姐』は香港の老人ホームを舞台に老人たちの現実を低い目線からとらえており、大陸部でも文芸作品としては極めてまれなヒットとなりました。それに続けてこの作品が登場してきたことからも、今中国で老人問題が人々の大きな関心事になっていることが分かります。2010年の国勢調査で65歳以上の高齢者が総人口の8.87%に当たる1億1900万人に達していることが明らかになり、2030年には日本を上回る高齢化社会になると推測される中国の老人問題については、『人民中国』でも2011年3月号で「悩み多い中国社会の高齢化」という特集を組みレポートしています。関心がおありの方はこちらをご覧いただければと思います。 http://www.peoplechina.com.cn/home/second/2011-02/23/content_347076.htm

ホールも広々としており、映画館らしい雰囲気にあふれている

エントランスホールでは、『飛越老人院』の立体ディスプレーなども見かけた

もっとも、この作品は高齢者問題をそのまま深刻に描くのではなく、明るく前向きなコメディーにくるんで観客に見せています。全編にユーモアがあふれていますが、チャン・ヤン作品ではおなじみの、家族間の感情のもつれと許しというテーマが老人の立場から描かれています。同監督としてはいささか展開がシンプルかなとも感じますが、「年齢を足すと1000歳を上回る」とされる出演者たちが演じる老人たちの個性豊かなこと、思わず「いるよなあ、こういうおじいさん」と感じてしまいます。そして、心温まるエピソードを積み重ねながらも、監督は観客に「人はなぜよその老人には自然に親切にできるのに、自分の親には複雑な感情と厳しい態度で接してしまうのだろう」という問いかけもしているようです。

ところで、老人たちを駆り立てる『超級変変変』ですが、これは『仮装大賞』のことです。かつて日本の番組が中国でも放送され話題になったことがあるそうで、それを下敷きに、天津の放送局が中国大会を実施し、優秀作品は日本での世界大会に進出できるという設定が考えられたようです。これを含めて、現在の中国庶民の目に映る中国と日本の距離も描かれており、日本人としてはしみじみと感じさせられるものがあります(ネタバレになりますので、これ以上は書きません)。

公開初日の映画館は、前回説明した『タイタニック3D』などに加え、『アベンジャーズ』が公開され2日間で1億2000万元の興行成績を記録するなど、ハリウッド映画に席巻されている状態で、この作品を見ていたのは数人でした。母の日をターゲットにしているとのことで、週末に家族連れが多く訪れることを期待したいところです。

【データ】

飛越老人院(Full Circle)

監督:チャン・ヤン(張楊)

シュー・ホアンシャン(許還山)、ウー・ティエンミン(呉天明)、リー・ビン(李賓)、イエン・ビンイエン(顔丙燕)

時間・ジャンル: 104分/ドラマ・コメディー

公開日:2012年5月8日

博納国際影城方荘店

所在地:北京区豊台区蒲黄楡路28号芳群園一区

電話:010-67699909

アクセス:地下鉄5号線蒲黄楡駅下車東南出口すぐ

博納国際影城方荘店は6000平方メートルの面積に11のホールを持ち、1300人を収容できる大型施設。北京市内南部を代表するシネコンだ

博納国際影城方荘店は地下鉄5号線蒲黄楡駅出口まん前にある。天壇公園にも近い方荘はグルメ街として北京っ子に親しまれてている場所でもある

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年5月10日

 

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