People's China
現在位置: 連載最新映画を北京で見る

伝奇的女性作家の愛と孤独『蕭紅』

 

生誕百周年に地元政府などが映画化

5月24日、『山の郵便配達』『故郷の香り』のフォ・ジェンチイ監督の新作『蕭紅』の首映式、いわゆるプレミア上映が人民大会堂で行われました。蕭紅とは、「民国四大才女」とも呼ばれ、「魯迅が“蕭紅は今最も将来性ある女性作家だ”と語った」などのエピソードを持つ女性作家です。出身地である黒龍江省などが、昨年生誕百周年を記念して制作を発表、昨年秋から冬にかけて撮影され、近日公開の予定です。

ポスター

会場のホールは伝統的な様式を残しながらも、設備は最新のもので、落ち着いて快適に作品を鑑賞できた

首映式では、まず黒龍江省やハルビン市政府、国家電影局の関係者の紹介やあいさつがあるなど、いささか荘重な雰囲気で始まりました。緊張すると同時に、「堅苦しい映画を見せられるのかな」とも感じましたが、フォ監督は、以前はいわゆる抗日文学、左翼文学の旗手として語られることが多かった蕭紅の人生を、戦火の中で愛に苦しむ1人の孤独な女性という点にフォーカスして描いていました。

蕭紅は1911年に黒龍江省の呼蘭県に生まれ、親が決めた結婚に反対して家出、ハルビンで新聞記者だった蕭軍と知り合い、新聞に原稿を書くようになります。やがて上海に行き魯迅と面識を得て本格的に作家デビューすると、高い評価を受けます。そして、蕭軍と別れ若手作家の端木蕻良と結婚し、出産と子供の夭折を経験するなどした後香港に渡り、そこで病死します。31年間の、短くも波乱に満ちた人生でした。同時代の左翼文学の多くが直接的に戦争や社会階級を描いているのに対し、彼女の作品には、自然描写に優れ独特の視点で女性を描いている、つまり「女性とはいったい何か」という問いかけがなされているという評価があります。映画では、こうした問いかけを、彼女の人生そのものにかぶせて見せているように感じました。

自分の文学的知識不足が残念

最初は偉人の伝記ものかと思っていたのですが、かなり赤裸々な内容が描かれています。まず、親が決めた結婚に反発し家出をするものの、学業を続けるために結局その相手と一緒になる様子が描かれます。しかし、男は妊娠した彼女を置き去りにしてしまいます。そんな時に知り合った蕭軍と愛し合うようになりますが、生活が苦しく育てられないわが子を他人に売るシーンも入っています。

人民大会堂で映画の首映式が行われること自体、私には驚きだったが、実は「両会」が開催されていない時期には、かなり多くのイベントが行われているそう

こうした短くも激しい作家の人生を熱演しているのが、ハルビン出身の宋佳です。彼女は、同名の大先輩がいるため、中国ではよく「小宋佳」と呼ばれます。日本でも大ヒットした『レッドクリフPart I』で、曹操が小喬の身代わり的にお茶を入れさせる女性を演じたというと、思い出す方もおられるでしょう。写真で見る蕭紅とは少しタイプが違いますが、蕭紅ファンにはおなじみというお下げ髪やカーディガン姿もかれんで、彼女の良さもよく出ていると感じました。また、さすがは美しい画面に定評のある監督、マイナス36度のハルビンなど緊張感ある美しい影像が続くほか、松花江の洪水を再現したシーンの迫力は見事なものでした。

司会者のインタビューに答え、マイナス36度のハルビンでの撮影エピソードを語るフォ・ジェンチイ監督。監督の右が主演のソン・ジャー、左がホアン・ジュエ

ヒット祈願のセレモニーが行われ、監督や主演俳優のほか関係者多数が登壇

ところで、1つドキッとしたのが、『生死場』の序を書き上げた魯迅が彼女に原稿を手渡しながら『これを書いてあげたら、私に何をしてくれるのかな』と言うシーンです。すぐに「じゃあ、餃子をごちそうになるか」と続けるのですが、2人の間に何か感情的なものがあるようにも受け取れます。最後に、彼女が「自分の骨を魯迅先生のお墓の隣に」と遺言する場面があり、ここで先ほどのシーンを思い出し、「死後の世界ではおそばにいます」という彼女の答えかなとも感じました。恥ずかしい話ですが、文学の知識に乏しい私には、こうしたシーンの意味や全編を覆う詩的な雰囲気、作品の引用を使った台詞などがよく理解できないのが残念でした。翌日書店で作品集を買ってきましたので、一般公開までに読み終えてまた劇場に行ってみたいと思います。

【データ】

蕭紅

監督:フォ・ジェンチイ (霍建起)

出演:ソン・ジャー(宋佳)、ホアン・ジュエ(黄覚)、チャン・ボー(張博)

時間・ジャンル: 110分/伝記

公開日:近日公開

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年6月

 

同コラムの最新記事
伝奇的女性作家の愛と孤独『蕭紅』
個人目線の現代史『浮城大亨』『我11』
老人たちの冒険『飛越老人院』
『闘牛』から『殺生』へ
ニン・ハオ健在!『黄金大劫案』