People's China
現在位置: 連載最新映画を北京で見る

改革開放を回顧『歳月無声』『大碗茶』

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

『歳月無声』のポスター

時代の波に翻ろうされた若者の、波乱の20年余

このところ、続けて改革開放以降の時代を振り返る映画を見ました。1作は『歳月無声』で、1988年の陝西省の小さな町で若者たちが起こす事件とその後の人生を、当時人気のあった楽曲にのせて描いています。

時代に取り残されたような田舎町の高校に、北京からの転校生がやって来ます。彼女の洗練されたファッションや、ラジカセで聴かせてくれる香港のロックグループBEYONDなどの音楽は、馬衛国(ファン・チーウェイ)ら3人組にとってまだ見ぬ華やかな都会、改革解放の象徴でした。しかし、彼女をめぐって事件を起こした衛国が塀の中での暮らしを続ける中、BEYONDのリーダーだったウォン・カークイ(黄家駒)が1993年に日本で事故死し、それは彼にも影響を与えます。長い刑務所暮らしを終えた主人公が目にしたのはすっかり変わった世の中と友人たちで、彼は故郷を離れて上京し、洗剤の訪問販売で暮らしを立てようとしますが……。

1988年から2011年までを描く作品では、若き日の過ちから社会の底辺で暮らす主人公の苦悩と悔恨に大きなスポットが当てられていますが、それでもある種の達成感と未来への希望も描かれていて、後味は悪くありません。急速な経済発展に伴う痛みも経験しながら、懸命に希望を持って生きてきた人々の自信が感じられるからかもしれません。

時代の波をとらえた成功者の、知られざる苦闘

『大碗茶』のポスター。同作品は、十八大期間中に電影頻道でもオンエアされるそう

一方、『大碗茶』は1979年の北京の下町・大柵欄を舞台に、大碗茶で成功した街道弁事処幹部の奮闘を、実話に基づいて描いています。11月8日から開催される中国共産党第18回全国代表大会(十八大)を記念して、西城区共産党委員会、西城区人民政府と映画専門チャンネルの電影頻道がプロデュースしました。

1979年、メーデーを祝う大柵欄街道弁事処に、下放先から北京に戻ったものの仕事がない若者たちが、なんとかせよと押しかけて来ます。彼らの就業ポストを作るため、弁事処幹部の李盛奇(チャン・シュアンリー)に白羽の矢が立ちます。彼は悩んだ末、茶碗に注いだお茶を売る大碗茶の屋台を始めることを思いつきますが、まとまりのない若者たちの説得や、「前例がない」などの理由でなかなか営業許可を出さない関連部署との交渉などに奔走させられることになります。ようやく営業にこぎつけた屋台は予想以上の人気を呼び、順風満帆に進むかと思われましたが……。

物語はだいたい予想通りのものでしたが、登場する風物は当時を知らない私には大変新鮮でした。私以外の観客は地元のお年寄り5人でしたが、彼らは時代を表すアイテムや数字が登場するたびに敏感に反応して、あれこれ話し出すので、それが理解するヒントになりました。弁事処の壁に掛けられた錦旗に1976年12月の文字が見えることを指摘したり、給料が26元という会話に「○○年には○○元だった」などと話す声が聞こえて、とても参考になったのです(笑)。

まったく違った傾向の2作品ですが、どちらも庶民の目から見た時代が背景として有効に使われているのが印象的でした。これまで、文革期を振り返る作品は数多く見てきましたが、直接的に改革開放以降の時代を振り返る作品を立て続けに見て、とても新鮮に感じました。

大柵欄で大碗茶を買って飲んでみた。今では「碗」ではなくカップで売られており、お値段も2分から3元へと150倍に……

大柵欄につながる前門大街には多数の観光客。十八大を祝う横断幕も見られた。ちなみに、大柵欄は以前は宣武区だったが2010年に合併によって西城区となった

ところで、最近では珍しく2作品とも字幕なしの上映でした。しかも、登場人物の会話は語学学校で教わる「普通話」(中国語標準語)ではなく、『歳月無声』では陝西方言、『大碗茶』は北京方言が中心で、私にとっては難度の高い鑑賞でした。

 

『大碗茶』は物語の舞台が大柵欄ということで、大観楼影城で鑑賞。チケット売り場では、『大碗茶』を「dà wǎn chá1枚」と言って、「dà wǎnr cháだね」とさりげなく訂正された(苦笑)

【データ】

歳月無声(Time Flies Soundlessly)

監督:ジョウ・シュー(周旭)

キャスト:ファン・チーウェイ(范植偉)、マー・スーチュン(馬思純)、モン・ティンイー(蒙亭宜)、ガン・ウェイ(甘薇)

時間・ジャンル:93分/ドラマ

公開日:2012年10月12日

大碗茶(Big Bowl of Beijing Tea)

監督:パン・ジンチェン(潘鏡丞)

キャスト:チャン・シュアンリー(張双利)、シー・シャオマン(石小満)、シエ・リエン(謝連)

時間・ジャンル:93分/ドラマ

公開日:2012年10月15日

大観楼影城

所在地:北京市西城区大柵欄街36号

電話:010-63083312

アクセス: 地下鉄2号線前門駅から徒歩7分、C出口から煤市街を南に進み、大柵欄を左に入るとすぐ

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年10月31日

 

同コラムの最新記事
改革開放を回顧『歳月無声』『大碗茶』
ロウ・イエの新作『浮城謎事』
大河ドラマついに公開『白鹿原』
テレビ鑑賞!『大武当之天地密碼』
社会の“今”が凝縮『做次有銭人』