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バリューチェーンの高台へ

 

東京の地下鉄に乗った時のこと、ある雑誌の中吊り広告に目が留まりました。そこには大活字で「ポスト中国の世界経済はどこへ向かう?」と書かれていました。さらに、書店では、雑誌の表紙に「中国の次のアジア」とか「中国以外のアジアで成功する方法」と銘打った特集号を目にしました。日本ではこのところ、経済交流における中国離れ関連の報道が目立ち、対中ビジネスに、やや悲観的論調が目立つようです。

『北京経済週刊』(2013年第2期1月14日)によれば、「2013年 外企不再メイド・イン・チャイナ」との見出しで①ドイツの世界的なスポーツ用品メーカー・アディダス社が2012年10月、中国最後の直轄工場を閉鎖した②アップル社が中国のフォックス・コン(Foxconn)社を誘って2013年にその生産ラインの米国移転を計画している③スターバックス社が中国工場を閉めその伝統的な陶器製カップの生産を米国に移す準備をしている④青島に進出している韓国の装飾品関連企業14社が中国での投資を韓国国内に切り替えた⑤日本企業の中国からの大規模撤退が始まりつつある―などを報じています。こうした報道を見る限り、中国でも対中進出した外資系企業の本国回帰の動きに注目していることが分かります。

13年ぶりに成長率が鈍化

こうしたニュースの背景には、いろいろな理由、憶測がありますが、中国経済の成長率が鈍化したことと大いに関係があるようです。中国国家統計局は昨年の実質国内総生産(GDP)成長率を前年比7.8%と発表しました。前年比で8%を割ったのは1999年以来13年ぶりのことでした。昨年の中国経済には、GDP成長率に限らず、これまでにない新たな傾向が目立ちました。

例えば、

①貿易総額で過去最高となったものの、政府目標の10%に至らなかったこと。主要貿易相手国・地域で前年比減となったのはEUと日本でした。

②外資導入額(実行ベース)が2009年以来初めて前年比減(3.7%減)となったこと。これについて、「一部からは、製造業の大規模移転が生じているという声があがっている」と、『人民日報』が報じる一方、国連貿易開発会議(UNCTAD)投資・技術・企業開発部は「世界銀行が今年の中国の経済成長率は8%を超えると予測していることなどから、世界の投資家はこの予測を受けて信頼感と意欲を持続させている」というコメントを発表しています。

③対外投資(FDI)が高い伸び率(28.6%増)を記録したこと。特に高い伸びを示したのが、対ロシアの2倍増、そのほか、対米、対日、対東南アジア諸国連合(ASEAN)、対香港などが前年比30~60%の伸びとなっています。

総じて、昨年の世界経済の成長率が3.2%(先進国1.3%、新興国5.1%)と低迷している中で、中国は世界最高の成長率を示したことや、中国政府が目標とした7.5%を上回っていることから見ると、中国経済は比較的に良好であると言えるでしょう。

内需がけん引するパターンに

目下、中国経済は量的拡大から質的向上への転換期にあるとされます。転換期とは、①外需から内需主導の経済成長パターンへの転換②産業構造の高度化―に集約できると言ってよいでしょう。すなわち、経済規模が量的に拡大すれば(成長率が高ければ)よいというのでなく、例えば、どれほど民生の向上をもたらしたか、また、中国は世界の工場の地位に甘んじているのではなく、付加価値の高い製品を作れる産業構造を構築しているか、といった成長の質的向上を図る経済成長への転換期にあるということです。

2012年11月13日、始動した山東省濱州市邹平県のバイオマス発電所

この点、GDP成長率への寄与度から7.8%成長を見ると、GDPを構成する消費が5.18%ポイント、投資5.04ポイント、純輸出(外需)マイナス2.2ポイントとなり、内需がGDPをけん引しつつあり経済発展パターンの転換は粛々と進んでいることが分かります。

揺らぐ「世界一の貿易大国」

産業構造の高度化ですが、この点については、経済協力開発機構(OECD)と世界貿易機関(WTO)が提案した付加価値による世界貿易額の算出方法が示唆的です。

単純化していうと、日本から中国に100円分の部材・中間材を輸出し、それが中国で製品に加工され、150円で米国に輸出されたとします。従来の貿易統計では、米国は中国から150円の製品を輸入したことになりますが、新統計方法では、米国は中国から50円、日本から100円分のモノを輸入したことになるわけです。

中国の輸出の6割は外資系企業によって占められており、中国企業は、コア技術不足、ブランド力不足などで、世界の分業およびバリューチェーン(価値連鎖)では低い位置にあるとされます。中国の経済成長は、依然として安価な生産要素と量的拡大に依存しているところが少なくなく、後発国・地域との競合に直面しています。

新算出方法によると、中国は「世界一の輸出大国」の地位を維持できなくなる可能性があります。ただ、世界的な分業・貿易システムにおける自身の立場をより正確に測ることが可能でしょう。

昨年の中国の外資導入は減りましたが、対外投資が大きく伸びているのは、中国が世界の分業およびバリューチェーンでより高台に向かいつつあることを物語っているのではないでしょうか。その過程で産業構造が徐々に高度化されていくことが期待できるでしょう。

昨年を上回る成長率を予測

最後に、物価安定は質的経済成長の一応の目安と言えます。昨年、中国の消費者物価指数(CPI)は2.6%上昇しましたが、抑制目標の「4%前後」を下回りました。人民の実感はともかく、統計数字によれば、高成長で低物価水準は、中国経済が健全に(水分なしで)成長している何よりの証左と言えます。世界には、あらかじめ水分を織り込んで成長目標とする国がありますが、中国の経済成長はこうした国とは一線を画していると言えます。

さて、世界は今年の中国経済の成長率をどう見ているでしょうか。例えば、世界銀行は8.4%、国際通貨基金(IMF)は8.2%の成長を予測しています。中国では、中国社会科学院が発表した今年の中国経済の予測報告によると、今年の中国経済は冷え込みから回復して8.4%前後となるとしています。いずれも昨年を上回ると予測しています。一方、世界経済の見通しはというと、世界銀行の予測が2.4%、UNCTADが2.4%未満としていることから、予測成長率で見た場合、中国経済は比較的高率成長を遂げるわけです。

 

(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。

 

人民中国インターネット版 2013年4月11日

 

 

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