People's China
現在位置: 連載最新映画を北京で見る

帰ってきた『33日』コンビ『等風来』

 

文・写真=井上俊彦

 ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

 

気乗りしないネパール取材で出会うのは?

12月31日、私が2013年最後に見たのがこの日が初日の『等風来』でした。『私人訂製』『ポリス・ストーリー2013』と大ヒット作が上映中で、さらに『失恋の33日』の監督・脚本コンビが再びタッグを組み、注目俳優のニー・ニーとジン・ボーランが共演するこの作品が加わったことで、映画館のロビーには長い行列ができていました。先日『私人訂製』を見た時には幅広い年齢層がいるのを感じましたが、今回は若い女性が目立ちました。大作にはさまれていますが、地域によっては他の2作を上回る回数の上映がされていました。『33日』ほどのヒットにはならないとしても、やはり一定の層から強く支持されそうな作品です。

上海で雑誌のグルメ記者をしている程羽蒙(ニー・ニー)は、イタリア・トスカーナ取材企画から降ろされ、ネパール行き命じられます。気乗りしない彼女はツアー客とともに旅する中で、大学生の李熱血(リウ・ヤースー)や、「富二代」(富裕層の子女)の王燦(ジン・ボーラン)らそれぞれに問題を抱えた若者と知り合います。トラブル続きの団体ツアーに嫌気が差した羽蒙はツアーを離れ一人旅を続けますが、停電におびえて泣き崩れるなどして、納得できる原稿は書けません。そして、偶然にまた一緒になった王燦と旅をすることになり、お互いに理解を深めていきますが、そんな時上海の編集長(リウ・ズー)から原稿の催促が来ます……。

上海という大都会で経済発展の恩恵を享受すると同時に大きなプレッシャーも抱えて暮らす女性が、貧しいけれど「幸福指数」の高いネパールを旅する中で自分を見つめなおしていく物語を、どこか懐かしさを感じながら見ました。

ヒット作公開中の映画館ロビーには長い列ができていた 

 

12月28日に地下鉄8号線が南鑼鼓巷駅まで延伸、新たに什刹海駅が鼓楼の南に開業した 

都会暮らしの女性を癒す景色・歌・格言

ニー・ニー演じる女性記者のファッションはとても自然なおしゃれを感じさせるもので、まさに「小資」(プチブル、むしろほめ言葉的に使われる)「小清新」(さわやかなファッションや知的センスを持つ若者)の代表という感じです。上海など中国の都市部には大学進学のために地方からやって来て、そのまま残って働く人が大勢います。都会の雑誌社に勤める若い女性となれば世間はもてはやしますが、実は彼女たちはそれほどのん気に暮らしているわけではありません。不動産が高騰する上海で地方出身者が自分の部屋を手に入れる、つまり本当の意味での都会人になるためには大きな成功が必要です。ヒロインはそんな状況の中でハングリーに奮闘している女性なのです。

地方出身をハンディと感じ、都会人を演じる彼女を象徴するのが名前です。程羽蒙と名乗っていますが、王燦は彼女のパスポートから本名が程天爽だと気づきます。程天爽は「成天爽」、つまり一日中気分がいいという意味になり、ダサい名前というイメージです。大きなコンプレックスを持ち、名前まで隠して戦々恐々と都会暮らしを続けていた彼女の弱さ、もろさは、美しい景色のネパールを孤独に旅する中でついに堰を切ってあふれ出します。

そんな彼女に寄り添って見ていてくれるのが、ドラ息子で何一つ自分で達成したことがないというジレンマを持つ一方で、どこか底抜けの楽観主義を感じさせる王燦です。彼が羽蒙、いや天爽に紹介する格言(?)「别瞎折腾,没什么用」(やたらにばたばたするな、何の役にも立たないさ)の言葉が若い女性の観客に大いに受けていました。この言葉は、すべての都会で奮闘する女性にもっとリラックスしようよと語りかけているようでもあります。また、あせる彼女を慰めようと、王燦がさまざまな替え歌を歌うシーンが場内の大爆笑を誘っていました。残念ながら多くは私の知らない曲でしたが、若い女性たちにはツボだったようです。

王燦は『失恋の33日』の王小賎に比べるとかなりストレートでちょっときめ細かさには欠けますが、やはり主人公の気持ちにそっと寄り添ってくれる存在です。面と向かい合うのではなく、横にいながらそれとなくこちらを観察して気持ちを推し量ってくれる男性が、都市で奮闘する中国女性が求めている存在なのかもしれません。

 什刹海駅を下車するとすぐに前海。全面凍結した前海ではすでに氷遊びの営業が始まっていた。

什刹海駅から南鑼鼓巷に続く帽児胡同の通りにはさっそく多くの観光客が見られた。このエリアの発展ぶりには目を見張らされる 

 

【データ】

等風来(Up in the wind)

監督:タン・ホアタオ(滕華濤)

出演:ニー・ニー(倪妮)、ジン・ボーラン(井伯然)、リウ・ヤースー(劉雅瑟)、リウ・ズー(劉孜)

脚本:バオ・ジンジン(鮑鯨鯨)

時間・ジャンル: 108分/ドラマ・旅行

公開日:2013年12月31日

星美国際影城が入るビル前の飾り付けも、クリスマスから春節に向けて一新された

星美国際影城・世界城店

所在地:北京市朝陽区金匯路8号世界城E座地下1層(世貿天階の北)

電話:010-85907677

アクセス:地下鉄6号線東大橋駅下車、A口を出て東大橋路を南へ進み景華北路を東に入り金匯路を南に行くと左手、徒歩9分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年1月6日

 

 

同コラムの最新記事
歌い上げる愛と人情『哭恋』
中国映画の2013年を振り返る
帰ってきた『33日』コンビ『等風来』
馮小剛の面目躍如 『私人訂製』
ド派手な香港犯罪アクション 『風暴』