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「一人っ子」緩和策の波紋

 

(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト 江原規由

中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会、昨年11月9日~12日)で採択された『决定』(注1)が、11月15日に対外発表されましたが、その中で、今後の「国家の大計」「民生の向上」に大きく関係する方針として「単独2胎」が打ち出されました。通常、これまでは夫婦の双方が「一人っ子」の場合にのみ第2子をもうける「双独2胎」が認められていました。今回発表された「単独2胎」は夫婦の片方が一人っ子の場合でも第2子を認める方案で、今後、国家の計画出産部門が実施草案を作成し、これを基に、各省・自治区・直轄市の党委・政府・人民代表大会(日本の都道府県議会に相当)の決定、議決を経て実施される予定となっています(注2)。中国が計画出産政策を採用したのは、日中国交正常化直前の1971年で、「一人っ子(独生子女)」政策の採用は1980年でした。以後、例外(注3)はあったものの、計画出産政策は42年間続いています。

人口ピラミッドを再構築

なぜ、今、計画出産政策の調整なのでしょうか。一言でいえば、人口ピラミッドの再構築ということになりますが、今回、「単独2胎」方案が発表された背景について、特に、次の2点を強調する声(報道)が少なくありません。

①2013年に人口ボーナス期(労働年齢人口に対し、年少・老年人口が少ない状態)が終結したと予想されること。すなわち少子高齢化(注4)が進み、経済・社会の発展および民生向上への影響が懸念される状況になりつつあること。

日本の高度成長期も人口ボーナス期に重なっていますが、現在、日本は世界的にも類を見ないとされる少子高齢化が進み、今後の経済・社会の発展(社会保障、医療、教育、介護関連などを含む)への影響が大いに懸念されていることはご承知の通りです。

②時代の要求、民意に応えるため。子どもを2人持ちたいと思う夫婦の気持ちを配慮したということです。兄弟姉妹のいる家庭で仲良く育てたいと思う「一人っ子」世代の夫婦は少なくないと言われます。

日本では、かつて、「一姫二太郎」の子育てが理想とされた時代がありましたが、今は望むべくもないのが現実です。2012年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は、1996年以来16年ぶりに1・4台を回復(1・41)しましたが、中国の出生率は1・5~1・6とされています。

2030年には14・5億人

さて、「単独2胎」政策に直接関係する夫婦は、全国に1500万人から2000万人おり、そのうち、50~60%が第2子を持つ(大都市より中小都市の夫婦の方がその傾向が強い)とされています。今後急速に進むと予想される「都市化」の進展で、中国社会に大きな変化が出るとされることから、出生率の予測はかなり不確実ですが、「単独2胎」政策で出生率は1・8を回復し、その後、1・6~1・7の範囲に落ち着くと期待されています。2030年には、労働年齢人口(15~59歳)が2200万人増え、高齢化率は23・8%(日本の場合、65歳以上の高齢者人口が3667万人で全人口の31・8%)、中国の人口がピーク(14・53億人)を迎えるというのが現下の予測となっています。

ところで、中国社会科学院人口労働研究所によれば、第2子を望まない理由として、生活の質的向上、第1子の教育の保障が挙げられ、望む理由として多いのが老後の子どもの負担軽減、兄弟姉妹の確保などとなっています。どこの国でも同じですが、中国でも、子育てにはミルク代から教育費までかなりの出費が必要で、共働きが多いと言えども夫婦の収入だけでは第2子を持つ余裕がないという声も少なくないようです。

一家に子ども2人の時代へ

国家や人生の一大事がうまくいくためには、よく「天の時」「地の利」「人の和」、すなわち「時」「利」「和」の「三位」が「一体」となることが必要といわれます。今回の「単独2胎」は、昨年で「人口ボーナス」が減少に向かう時に打ち出されており「天の時」を得ていると言えるでしょう。「地の利」との関連では、目下、中国の将来の発展と大きく関わっている「都市化」が積極推進され、人口の市民化、すなわち、人口の再配置が今後急速に進むとみられることから、「地(都市)の利」があります。

さて、「人の和」ですが、これはやや難しい。「単独2胎」の採用で「人口ボーナス」がいつまで維持できるかは極めて不確実です。この点、日本が急速な経済成長を遂げた後、少子高齢化が進行したこと、そして、現在、出産率がほとんど上がっていないことが例示できるでしょう。子どもを2人以上欲しい人もいれば、そうでない人もいることはすでに見た通りです。中国に限らず、人口政策における「人の和(コンセンサス)」はなかなか得難いもののようです。

今回の「単独2胎」には、将来の人口問題に対して、人々の意識を高めることが何よりも肝要でしょう。国の将来像を具体的に人々に提示し、そのために、人々が得られるもの、例えば、手厚い社会保障の提供など、かつ、負担しなくてならないもの、例えば、税負担などを明らかにし、人々のコンセンサスを得ることが求められるのではないでしょうか。人口が増えたからといって、将来が豊かになる可能性が増えるとは限りません。

コンセンサスを得るために

この点、3中全会は、中国の人口問題と計画出産に大きな一石を投じたと言えます。3中全会では、「空前の改革」が打ち出されました。その改革の多くが、「都市化」の推進と深く関わっています。すなわち、都市と農村の人口の再配置を中国の将来的発展に結びつけ、また、大胆な財税制改革などにより社会保障を充実させ、都市部と農村部の格差是正につなげていくことを目指しているといえるでしょう。こうした政策、措置で将来への人々の期待を膨らませることが、「人口ボーナス」を持続させ、人々から、今回の計画出産政策の調整に対するコンセンサスを得る最大の推進力になると言っても過言ではないでしょう。その意味で、3中全会で打ち出された「単独2胎」政策は、党の指導性の発揮、政府の責任の遂行、民生の向上という、「党」「政」「人」の「三位」を「一体」化する、いわば、強力な接着剤になると期待されます。

 

注1 『中共中央关于全面深化改革若干重大问题的决定』(改革の全面的な深化についての若干の重大問題に関する党中央の決定)
注2 「単独2胎」の実施では、地方の異なった事情を考慮、全国統一のタイムスケジュールは設けていない 
注3 「独生子女」政策の例外として「全面2胎」「単独2胎」「双独2胎」のほかに、「1胎半(農村部で第1子が女子の場合に第2子を認める)」、そのほか、計画出産政策の適用除外地域もある
注4 2013年時点の60歳以上の高齢人口は約2億人、2030年代には4億人(総人口の4分の1)、男女比率(2012年)は男性100に対し女性117.7(国家衛生計画委員会)

 

人民中国インターネット版 2014年2月14日

 

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