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私の心に映った中国と日本の現在

 

小川 智之

最近、大きな書店へ行くと、中国(あるいは韓国)に対して明らかに悪意を持って書かれた本をよくみるようになった。中国が日本へ攻めてくるとか、南京事件は捏造だといったことが書かれている場合が多い。よく売れるのだろう。中国の人々はみな悪者と言わんばかりである。

昨年九月、私が香港大学を訪問したとき、一人の中国人と出会った。

私は大阪大学から約100万円の資金援助を受け、同級生5人とともに香港のトップスクール(香港大学、香港科技大学、香港中文大学)の教員や学生に対し約二週間にわたって取材をしていた。研究テーマは「阪大が世界10指に入るには~香港の大学はなぜ強いのか~」。近年、大学ランキングで躍進を続け、アジアでも際立った存在感を見せる香港の大学の強さの秘訣を探ろうというのがその目的だった。

彼女と出会ったのはちょうどその一環で香港大学文学部准教授の中野嘉子先生に取材していたときのことである。彼女は中野先生の教え子の1人で、流暢な日本語を話していた。本人が自分で中国人であることを言うまで、私は彼女が中国人であることには気づかないほどだった。

少し話が逸れるが、香港に来ている中国人留学生は極めて優秀だ。香港大学の場合、中国の統一試験「高考」で北京大学をトップクラスで入学できる点数が一次試験の足切りの点数(!)となる。300人ほどの枠に1万人を超える受験生が応募するのだ。もちろん彼女も高考で吉林省1位だったというから文句無しのスーパーエリートである。(ちなみに吉林省の人口は約2700万、日本の近畿地方の人口が約2200万であることを考えるとその規模がわかる)

そんな彼女に将来の進路を聞いてみた。文字通り中国の未来を背負って立つ彼女が、どんな道を選ぶのか純粋に気になったのである。彼女は「良品計画」という会社から内定をもらっていて、そこに就職することに決めたと教えてくれた。「良品計画」といえば「無印良品」のブランドで有名な日本企業である。

私はすこしあっけにとられてしまった。というのも、私が彼女の進路として真っ先に予想したのは、高待遇なことで有名な欧米の金融機関だったからである。実際、中国から香港に来る留学生は一攫千金を夢見て、ゴールドマンサックスやJPモルガンチェースといったアメリカの金融機関を目指す場合が多い。もちろん中国本土から香港大学に入学してきているということは、彼女は英語をネイティヴ並みに話せるわけで、アメリカの金融機関に入ることもそう難しくはなかったはずである。もちろん、彼女ほどの人材であれば中国へ戻ってもいくらでも仕事はあるはずだ。無印良品は中国・香港において、ユニクロと並んで最も成功している日系小売業者であることには間違いないが、中国の宝とでも言うべき彼女の就職先としては意外だった。

彼女はなぜ日本企業を選んだのか。

彼女が言うには「日本が好きだから」、それだけだという。どうやら最初から金融方面には関心がなかったようで、自分もよく利用するという無印良品を選んだらしい。幼いころから日本のドラマやアニメに親しみ、日本語の勉強もその延長にあったそうだ。昨今の日中関係は領土をめぐる問題もあり、とても良好といえる状態ではない。それでも彼女のように「日本が好き」であると中国のエリートが堂々と言う姿は、私には新鮮に映った。その後香港大学に来ている留学生のパーティーに参加したが、その他の中国人学生もまた日本、あるいは私たち日本人に対して非常に好意的であった。日本のアニメやマンガ、ドラマに関しては私よりよっぽど詳しいくらいである。

正直なところ、彼らと話す前には歴史問題やら領土問題について英語でまくしたてられたらどうしようかと思っていた。しかし、それらは全くの杞憂であった。少なくとも中国の若いエリートたちは非常に温厚で人格者であり、また日本に対して一定の魅力を感じているようである。彼らを通じて私の目に映った中国は、日本の週刊誌に書かれているような姿とはまるで正反対の、非常に穏やかで人間的なものだった。

多くの政治家を含め、近年の日本においては何かと中国をやり玉にあげる風潮が見られる。確かに、中国の政治力学に於いて、カネとコネが重要な役割を占めているのは事実であるし、国家防衛の観点から見れば中国は「仮想敵国」なのかもしれない。しかし、日本にとって中国は重要な隣人であることを忘れてはならない。彼らは我々が想像している以上に中国の人々は人間的情緒にあふれた人々なのではないかと思う。両国の人々が各々感情的な議論に走ってしまうのはある程度仕方ない面もあるかとは思うが、それでも互いを理解しようとする努力は必要ではないだろうか。戦略的に考えても、不況にあえぐ日本にとって巨大なマーケットとしての中国は到底無視できるものではないし、歴史的観点から見れば、日本が中国から受けた文化的影響の大きさは計り知れないものがある。今の日本人には、昨今の風潮に惑わされることなく、「近くて遠い国」中国の実際の姿を理解しようとする努力が必要なのではなかろうか。

 

人民中国インターネット版 2015年1月

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