People's China
現在位置: 連載笈川講演マラソン

百聞は一見に如かず

文=笈川幸司 写真=大連理工大学出版社

いきなり月並みな書き方で始めるのは申し訳ないのですが、最近、改めて思ったのは、百聞は一見に如かず、何事も自分の目で見ないとダメだということです。

しかも、一回見ただけではダメ。最低三回は見ないといけません。ときどき「一度見ればすべてがわかる」と偉ぶる人がいますが、それは私の周りだけでしょうか?付き合いが長くなれば、大げさな話のひとつやふたつされても「また始まったか」と笑って済ませられますが、初対面でそういう台詞を口にされたら、途端にその人を信じられなくなります…。

キャノン杯の表彰式

あっ、すみません。冒頭いきなり本題から外れてしまいました。

「百聞は一見に如かず」

これは、先日大連市キヤノン杯日本語スピーチコンテストを見てきて感じたことです。今年で3年連続ですが、今回は、コンテストの出来やレベルではなく、他の大会とどこが違うのかなど、ちょっと視点を換えてみてきました。

今年で22回を迎えたキヤノン杯は、中国で最も歴史ある日本語スピーチ大会です。コンテストでは結果ばかりが重視されがちです。不公平だのなんだの文句を言うやからが多いと長続きしません。それが証拠に、十回続いたコンテストはこの大会以外、大森和夫・弘子先生ご夫妻から段躍中先生に受け継がれた中国人の作文コンクール、天津の日中友好の声、青島の山口銀行杯ぐらいなものでしょう。来年で四十周年を迎える日中関係。コンテストを十年続けるのは偉大なことだと言えます。

十年前にこの世界に入ったときから、大連市キヤノン杯のことを耳にしていました。

「本当に素晴らしい大会、大連市民が誇りとしている大会」と聞いていましたが、以前の私は「たかが小さな一都市のコンテストに、なぜそこまで言えるのだろうか」と疑念の気持ちを抱いていました。もしかしたら、日本語教師になったばかりの若い先生方も、十年前の私と同じように考えているかもしれません。

とにかく、一度見てくれば良いのです。とにかく、感動のひとことに尽きます。

交流会

1600人の大ホールが大会一時間前にはほぼ満席となり、大会開始を今か今かと待ち望むすべての観衆の顔から笑みがあふれていました。その時点で、このコンテストは大成功だと言えませんか?

全国スピーチ大会では、毎年のように大連の学生たちが活躍していますが、それには理由があります。実は、大連の学生たちは驚くようなスピーチの訓練をしているのです。

このキヤノン杯、大会30分前に初めてテーマが知らされます。いきなりテーマを言い渡されたら日本人だって準備できませんよね?それを、出場者全員(もちろん、中国人学生)が本番の舞台でスラスラとスピーチできるのは、頭の中にどんなテーマにも対応できるよう何十本ものスピーチ原稿が入っているからなのです。北京では通常スピーチ大会二週間前になってようやく練習が始まるところが多いようですが、大連では、なんと、大会半年前に特訓が始まります。

私はこれまで200回以上のコンテストを見てきました。実際に自分で主催したこともあります。しかし、キヤノン杯以上に拍手が沸き起こる大会を見たことがありません。出場者が舞台に上がる時の拍手、結果発表で優勝者に送られる拍手は全国一だと断言できます。そしてなにより、面白い内容には、観衆も遠慮することなく大きな声で笑うので、会場は常に笑いに包まれているところが圧巻です。

中国各地でコンテストを開催しようと思っている組織・学校は、まず大連市キヤノン杯日本語スピーチ大会を自分の目で見てから、企画、運営に取り組むべきではないでしょうか。

 

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年6月24日

 

同コラムの最新記事
言葉の使い方
百聞は一見に如かず
夢はかなうもの
自分を他人に認めさせるのは良くない
挨拶