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二ヶ月ぶりの舞台~上海講演

ジャスロン代表 笈川幸司

二ヶ月ぶりの講演だった。勘は鈍っている。自分のイメージと実際の状況が違うとき、誰もが焦る。若いときなら、その溝を一気に埋めようと無理してしまい、状況はますます悪化する。若者たちにひとこと言いたい。焦るな。逆境時にはじっと耐え、機を狙え。

夏、体育に水泳の授業がある。もともと泳ぎが得意でないせいか、一年ぶりの泳ぎに違和感はなかった。だから子どもの頃、泳ぎだけは体に染み込んで忘れないもの、という認識があった。しかし、講演と泳ぎは違うようだ。二ヶ月のブランクは、ほとんどの瞬間に微妙なズレをもらたした。

さて、今回の対象は全員が求職者、日本語を使って仕事をしようと考えている人たちだ。主催は、日本語講演マラソンにご支援いただいているリクルート。日本では誰もが知る大企業。中国でこのような催しは初の試みとあって、会場では多くの人たちが「お手並み拝見」とばかりに腕組みして見ていた。

会場は、学生とはひと味違う人たちで溢れていた。「静かな人たちだ…」。これが私が感じた第一印象。あとでわかったことだが、日本語を使う仕事をしたいとはいうものの、自分の日本語に自信がないと考えている人が少なくなかった。それで、会場はピーンと張りつめた空気が蔓延していたわけだ。

この講演会を準備するにあたって、ネットで数名の有名人による講演会を見た。彼らの講演会も最初から盛り上がっているわけではない。どんな人でも、徐々に空気を暖める努力をしていた。以前の私ならこのような状況を見て、「何だ、今日はアウェイか…」とがっかりしたり、苛立ったりしたかもしれない。しかし今回は、「落ち着けば大丈夫。次第に状況は変わる」と自分に言い聞かせた。

与えられた時間は90分。マザー・テレサは、「最後の1%が幸せなら、その人の人生は幸せなものに変わる」と言っている。90分のうち、前半の89分が失敗でも、最後の1分が良ければそれで良し。最初から100%成功しようなどと考える必要はない。読者の皆さんには、こんなことを次から次へと思い浮かべてしまうほど追い詰められていたことをご理解いただきたい。

緊張していると観衆の顔がぼやけて見える。彼らの顔をはっきり覚えられるときは力を発揮できるときだ。しかし、前半の一時間はまるでダメだった。

幸いアンケートを見ると、ほとんどの参加者が満足してくれたことがわかったが、それは最後の30分だけが盛り上がったからだろう。ほんとうに冷や汗ものだ。余裕の欠片すらなかった。企業主催のイベントは、私の判断で成功か否かを決められない。主催が喜んでくれたならそれは成功といえる。

気をつけなければいけないのは、「これは行けるぞ」と思った瞬間に足元をすくわれる。状況が悪いときは油断する余裕がない分、「立て直し」に集中できる。それが、今回の成功(企画・余暁武さん)につながったのではないか。

若い頃、逆境時には負けた分を一気に取り戻そうとやっきになった。本気でやった分、結果が得られないときは挫けたものだ。

いまは、一気に取り戻す瞬発力がない。しかし、ひとつひとつ積み上げることに集中すれば態勢が良くなることを知っている。若い皆さんには、じっと耐える、辛抱するという体験をどんどんしてもらいたい。その上で、共通の話題に花を咲かせたい。

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2012年1月25日

 

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