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豪華な警察サスペンス『寒戦』

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

『寒戦』のポスター
「シングルデー」は新たな書き入れ時?

1が4つ並ぶ11月11日は、数年前から中国の若者たちの間で「光棍節」(シングルデー)と呼ばれるようになりました。これを今の中国の商業界が見逃すわけがありません。ネットショップや娯楽施設がセールや優待サービスを実施、消費意欲旺盛な若者たちを引き付けています。映画業界もこの日を当て込んで作品を公開するようになりました。特に、昨年『失恋33天』(失恋の33日)が大ヒットしたためか、今年はさらに多数の恋愛映画が公開されましたが、どれもぱっとしません。シングルデーには恋愛映画ではなく“失恋映画”が必要なのかもしれません。

実は、今話題になっているのは恋愛映画ではなく、11月8日に公開された香港発の『寒戦』です。『インファナル・アフェア』以来の大型警察サスペンスとして前評判が非常に高いだけでなく、アーロン・クォックとレオン・カーファイの初共演に加えエディ・ポン、アーリフ・リーら今最も勢いのある若手を配置するなど、とにかく豪華なキャストも話題です。そこで、新しい映画館・北京博納晶品国際影城の割引チケットを共同購入でゲットし、「十八大」報道のため休日出勤した11月11日の夕方に、インターネット部の独身3人で鑑賞に出かけました。

映画館ではシングルデー(光棍節)関連のイベントも行われていた

上映ホールは250人ほど入る大きなものですが、ほぼ満員状態でした。しかも、ほとんどがカップル。シングルデーの恩恵を受けているのは実はこうした恋人たちのようです。ま、商売をやっている方にとっては、独り者だろうと恋人だろうと、消費してくれるのが良い猫なのでしょうが。

意外な展開で事件解決も多数の疑問が残る

香港の繁華街・旺角(モンコック)市街での爆弾事件と、高速道路上で警察官5人が車ごと誘拐される事件が連続して発生します。そしてその5人の中には副署長・李文彬(レオン・カーファイ)の息子(エディ・ポン)が含まれていたのです。署長が海外出張で不在の中、李副署長は全署を挙げての捜査体制を敷きますが、この極端な捜査方針に反対したのが、彼と次期署長の椅子を争う管理畑の副署長・劉傑輝(アーロン・クォック)でした。彼は支持を集めて李から捜査権を奪うと、犯人の要求通り身代金を持ち単独で空港に向かうのでしたが……。

凱徳晶品購物中心(CapitaMall Crystal)は、地下鉄万寿路駅直結のほか、地上には20以上のバス路線が走るなど、交通の便が非常にいい。近くには大型百貨店もあるが、センスのいい若者向けファッション・テナントで差別化を図っている

とにかくスピーディーな展開で、ハラハラし通しでした。観客に対して謎が次々に提示されますが、その多くが解決されないまま事件が進みます。カーアクション、追跡、銃撃戦だけでなく、心理戦、策略を経て意外な犯人が明らかになる展開ですが、いわゆるオープン・エンドの結末で、明らかに『寒戦2』が作られる前提です。鑑賞前にそのことを知らなかったので、少々だまされた気分ですが、だまされたと分かっていても『2』はきっと見に行くでしょう、疑問が山ほど残っていますから……。

この感覚は多くの観客に共通だったようで、ミニブログでは、黒幕は誰か、『2』ではどう展開するかなど、多くの人が自分の推測を発表しています。このことからも分かるように、かなり話題を集めているらしく、私たちが見た日までの4日間で9000万元の興行収入を記録し、大ヒットとなりそうです。

この時期、街のあちこちに「十八大」を祝う国旗が見られた

ところで、興行収入といえば、このほど「十八大」文化体制改革記者会見で、10月までの興行収入総額が132億元余りと、昨年1年間を上回っていることが発表されました。大変好調な映画界ですが、実は国産映画の占有率は50%を大きく割り込んで41.4%と、ハリウッド映画に押されている状況も明らかになっています。

【データ】

寒戦(Cold War)

監督:リョン・ロクマン(梁楽民)、サニー・ルク(陸剣青)

キャスト:アーロン・クォック(郭富城)、レオン・カーファイ(梁家輝)、アーリフ・リー(李治廷)、エディ・ポン(彭于晏)、マー・イーリー(馬伊琍)、チャーリー・ヤン(楊采妮)、アンディ・ラウ(劉徳華)

時間・ジャンル:102分/サスペンス・アクション

公開日:2012年11月8日

 

北京博納晶品国際影城は、2011年末に開業したショッピングモールに併設の、北京でも最も新しい映画館の1つで、面積3400平方メートル余り、6つのホールを持つ

北京博納晶品国際影城(博納国際影城万寿路店)

所在地:北京市海淀区復興路51号凱徳晶品購物中心(CapitaMall Crystal)4階

電話:010-88178889

アクセス:地下鉄1号線万寿路駅徒歩3分、B1出口直結

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年11月12日

 

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