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今度はケータイをハック『窃聴風雲3』

文・写真=井上俊彦

 中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。 

盗聴がテーマのシリーズがスケールアップ

先週末は国際児童デーと端午節が続き3連休になりました。子どもを当て込んだアニメなどの作品が7本も公開されましたが、大ヒットとなっているのは『X 戦警:逆転未来(X-MEN: フューチャー&パスト)』で、興行収入は6億元に迫っています。国産映画では人気シリーズの第3作となる『窃聴風雲3』が人気を集め、6月2日までの興行収入は1億8000万元と、前作の最終興行収入2億2000万元を大きく上回ることは確実です。

これまでの2作では株のインサイダー取引など金融情報の盗聴がストーリーの中心でしたが、今回は不動産開発の利権争いにからむ情報入手に変わっています。手法も「盗聴」というより、部屋にビデオカメラを備え付けたり、相手のケータイカメラを遠隔操作して映像を見るなど、より現代的な「盗撮」になっています。ケータイやパソコンの遠隔操作といえば、最近どこかの国で起きた事件にも通じるところがありとてもリアルでした。

映画ではまず冒頭で、香港の新界地区の「丁権」の説明がありました。英国の植民地政府は新界地区の住民を懐柔するため、1972年に男子の数に応じて一生に一度700平米未満の住宅建築を許可(この権利が丁権)し、この地区には丁屋と呼ばれる住宅が多数(20万戸以上と言われる)建てられたそうです。そして現代、この土地に目をつけた不動産開発業者が土地収用を進める中で事件は起きます。

端午節のこの日、ショッピングセンター内では大勢の親子連れの姿が見られた

国際児童デーと端午節という「子どもの日」が続いた連休に、ショッピングセンターは親子連れを呼びこむためさまざまなキャンペーンを展開していた

物語は、不動産開発に反対し立退きを拒否する陸永遠を事故を装って殺し、5年の懲役に服していた羅永就(ルイス・クー)が出所するところから始まります。陸金強(ラウ・チンワン)ら地元の兄弟分4人は彼に損な役回りをさせたと温かく迎えますが、実は5年の間に彼らはすっかり金の亡者になっており、羅も彼らを恨んでいました。羅は、不動産開発企業社長夫人となっているかつての恋人陸永瑜(ミッシェル・イップ)に協力し、開発から利益を得ようと画策する4人を排除するため、雇われハッカーの阿祖(ダニエル・ウー)とともに4人の盗撮を開始します。ところが、ふとしたことから阿祖は羅が殺した永遠の妻阮月華(ジョウ・シュン)と知り合い、さまざまなことに気付き始めます……。

香港の物語を通じて身近な問題を考える

ルイス・クー、ラウ・チンワン、ダニエル・ウーという組み合わせで、毎回盗聴をテーマにしたサスペンスを見せるシリーズですが、今回は新界という香港の田舎に育った幼なじみが不動産開発に伴って動く大きな金に夢中になり、暴力と欺瞞の中で破滅への道をひた走る悲劇を描いています。

より多く儲けるため、自分たちで会社を設立して手間賃をピンはねし、資材を安物にすり替えて利ざやを稼ぐなどのやり方は、手抜き工事がなぜ起きるのかを観客に教えてくれているようです。そんな幼なじみの中でも兄貴分の金強がたびたび口にするのが、「事在人為(事の成否は人が決めるもの)」という言葉です。しかし、その「人が決める」やり方は、土地の価値に無知な住民には甘言を弄して立退きに合意させて利ざやを稼ぎ、反対する住民には暴力というパターンなのです。

陽気のいいこの時期は結婚シーズンでもある。朝、家を出る時に同じコミュニティーで新郎が新婦をお姫様抱っこしてクルマに乗せる様子を目撃。実は午前中の結婚式にも、お姫様抱っこにも伝統的な意味があるとのこと

前日が国際児童デーでこの日は端午節。ショッピングセンターでも家族連れを当て込んで、各店舗のスタッフが水色のしまTシャツに紅いスカーフという、子どもファッション(?)でサービス

香港地区の不動産開発にからむ物語でありながら、大陸部の観客には現在進行形の都市開発とそれに伴う数々の問題を感じさせる構造になっているのが見事です。あくまでエンターテインメントでありながら、見る人によっては社会性も感じられるという、香港映画の優れた伝統が生きています。そして、金に目が眩んだ男たちと対照的なのが、夫を殺された後、女手ひとつで息子を育てている月華です。あぶく銭には目もくれず、こつこつ働く彼女の「土地はものを植えるところよ、やたらに売り買いするものじゃないわ」というシンプルなひと言が、バーチャルな世界のスペシャリスト阿祖の心を打ちます。

 私が劇中で興味を惹かれたのが、5人の兄弟分が酒盛りで歌う哀愁を帯びたメロディーの曲でした。帰ってから調べてみたところ、これは1980年に当時急速に都市化が進んでいた新界を舞台にしてヒットしたテレビドラマ『風雲』のテーマソングということです。恋愛ドラマながら、当時の都市化が引き起こす多くの社会問題を盛り込んでいたそうで、香港の観客には懐かしさを感じさせたようです。ラストシーンではCGで現代の新界がかつての姿に戻る様子が描かれており、社会の発展の中で人々が得たものと失ったものについて考えさせられるエンディングでした。

 

【データ】

窃聴風雲3(Overheard 3)

監督: アラン・マック(麦兆輝)、フェリックス・チョン(荘文強)

出演:ルイス・クー(古天楽)、ラウ・チンワン(劉青雲)、ダニエル・ウー(呉彦祖)、ジョウ・シュン(周迅)、ミッシェル・イップ(葉璇)

時間・ジャンル: 131分/犯罪・ドラマ

公開日:2014年5月29日

北京紅星太平洋影院は昨年10月オープンの新しいショッピングセンターに設置されたシネコンで、9つのホールを持ち1600人を収容できる大型シネコン

最近のショッピングセンター併設のシネコンではスペースの有効利用のためか、ちょっと窮屈なところもあるが、ここはチケット売り場のエントランスなども含めスペース配置がぜいたく。また、トイレもゆったりしていて清潔

 

北京紅星太平洋影院

所在地:北京市朝陽区七聖中街12号愛琴海ショッピングセンター6階

電話:010-84240610

アクセス:地下鉄10号線・13号線芍薬居駅下車、G口を出て南へ10分/地下鉄13号線光煕門駅下車、B口を出て3環路を北に渡る

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年6月4日

 

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