People's China
現在位置: 連載笈川講演マラソン

北京講演会(一)

ジャスロン代表 笈川幸司

日本語教師になってから、いくつかの出会いがあった。

いま、得意分野とさせていただいている発音に関して言えば、清華大学の王燕準教授と出会わなければ、中国人学生の発音の癖は今でもわかっていなかっただろう。半年間、毎晩電話をもらい、40分から2時間ほど彼女の朗読に付き合った。まさか、いまそれが役に立つとは思わなかったが、あれがすべての始まりだった。

また、国際教養大学の鮎澤孝子教授から発音の基礎を学ばなければ、アクセントのルールすら知らずにスピーチ指導をしていただろう。それに、清華大学の馮峰主任や日研センターの徐一平主任のような人格者が上司でなかったら、生意気を引きずった、ただの大人になっていただろう。

そして、駒澤千鶴先生に出会わなかったら、日本語教師をやめていただろう。

日本語教師二年目に駒澤先生と出会い、日本語教育の「いろは」を教えてもらった。二年間、ほぼ毎日、授業を見学させてもらい、ひとつひとつやり方を教えてもらった。彼女は、いわゆる、わたしの師匠だ。

今回、国際関係学院に行き、駒澤先生の前で4度目の講演をした。

はじめて講演をしたのは7年前の春。次が6年前の夏。二度とも北京日本語教師会の会合で発音指導についての話をしたが、批判にさらされた。

当時、経験が浅く、指摘されたことにまったく対応できなかった。しかし、どんなに批判にさらされても、彼女はいつも味方になってくれた。

昨春が三度目。いま行っている日本語講演マラソンでは、独自の指導法を発表するというより、学生たちを励ますことにウェイトが置かれている。5年の月日を経て、そういうスタイルになった。

今回、週末休みで戻っている天津からわざわざ駆けつけ、「去年より100倍パワーアップしたわ。ほんとにすごい!」とおっしゃった。

その言葉を聞いて、これまでの悩みや苦しみが消えうせ、空が一気に晴れ渡るような、すっきりした気分に変わった…。 「すごいわ。大声を張り上げ、学生たちを巻き込んでいくスタイルは、これまで中国における日本語界ではなかったことよ」。

しかし、わたし自身、十年前に李陽先生のクレージーイングリッシュの授業に参加したことがあり、彼から大きな影響を受けている。ただ、そのやり方をそのまま違う言語の世界に持ってこれるはずもなく、雰囲気も味付けも考えなければならなかった。何しろ、英語とは違い、学生たちの日本語へのイメージは、アニメやゲームを除いては、暗く、真面目で、面白みのないものだったのだから…。

この2ヶ月間、日本語講演マラソンを続けてきたが、毎日ネットを通して学生たちから山のようなメールをもらう。そのほとんどが、「日本語を楽しく学ぶ方法を知った、ありがとう!」という感謝のメールだ。

もともと、日本では職人と呼ばれるような一流コックも、この国では、鍋を楽器のようにして音を立て、楽しく料理をする。勉強という、退屈だと思われていることだって、音を立てて楽しくやれば、きっと受け入れてもらえるはずだ。

そもそも、日本語イコール暗い、つまらないものという見方だって偏見だろう。

漫才やコント、落語など日本のお笑いのレベルは高く、世界に通用する。いや、個人的な判断では、世界一レベルが高いと確信している。You Tubeを通し、日本のお笑いが世界に受け入れられているが、わたしはそんなことは、30年前の漫才ブームのときからわかっていた。まあ、日本のお笑いが世界に通じるというのは、祈りに近いものではあるのだが…。

とにかく、そういう面白いもの、楽しいものを中国の人たちにもわかってもらいたいし、それさえわかれば、日本語の言葉ひとつひとつが素晴らしいものだということを、日本人教師がわざわざ「素晴らしい!」などと口にする必要はないだろう。

日本語は面白い。日本の文化は面白い。それを中国に住む多くの人たちに知ってもらうこと、これが日本語教師としてできるわたしの仕事だと思っている。

 

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年11月18日

 

同コラムの最新記事
ピースtoピース~鞍山講演会
寿限無を読む~遼陽講演会
家族の絆~瀋陽講演会
教師の熱意ですべてが決まる~四平市講演会
延辺講演~念願が叶う