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教師の熱意ですべてが決まる~四平市講演会

ジャスロン代表 笈川幸司

高速鉄道。いち時期、事故再発を危惧する人が日本にも中国にもいたが、速度を落とすようになり、今回もまったく心配することのない、安全で快適な旅となった。

これまで何度か高速鉄道に乗ったことがある。特等車、一等車、二等車とあって、どれも乗ったが、個人的には一等車がもっとも気に入っている。

もちろん、すべてがすべてというわけではないだろうが、二等車の座席を少し倒したところ、戻ってこなくなってしまったことが2回ある。特等車は一番前の車両。かなりのスピードで走るので、スピード狂には良いかもしれないが、わたしは怖かった。おしぼりやお菓子をもらったこと以外、申し訳ないが何も覚えていない。そして、一等車は二等車より10元高いが、広くゆったりとしていて眠ることができる。これは、北京―天津間でも、長春―吉林間でもそうだった。

さて、長春を出発し、30分ほどで四平駅に着くと、ひとりの背の高い男子学生が迎えに来てくれていた。彼と話をして驚いたのが、日本語の流暢さだ。この小さな街・四平には、日本語を学ぶ大学はここ吉林師範大学ひとつしかない。おそらく、この四平という街の名前を、日本人なら、吉林省に住む者以外、ほとんどが知らないだろう。無名、と言ったら叱られるだろうか…。

にもかかわらず、ここにいるどの学生も驚くほど日本語がうまい。ふと、北京第二外国語学院の門を初めてくぐったときに出迎えてくれた3人の学生のことを思い出した。

中国に長くいると、たまに、そういう学校にめぐり合える。

吉林師範大学の教師たちは、みな、「学生思い」だ。

もちろん、先生方は自分の研究で忙しいだろうが、教学(教えること)に燃えている。夕食をご馳走してもらったが、そのとき、学部の主任をはじめ、先生方はみな、学生たちの事情ばかりを話していた。いやいや、こんなことを書くと誤解されてしまいそうなので付け加えておくが、わたしは普段、先生方が自分の研究の成果をよく話していることを悪いとは思わない。それどころか、研究成果を話していただくことはほんとうに良いことで、実際に勉強になる。ただ、今回は学生のことばかり話す先生方の姿にちょいと驚いただけなのだ。

それからもうひとつ、驚くべきことを聞いた。

この大学にはある立派な日本人の先生がいらっしゃるという。その方は、自分の財産を投じ、大学内の図書館を充実させ、七十を過ぎた今でも、放課後、積極的に学生たちの指導を行っているそうだ。駅に出迎えてくれた背の高い男子学生も、その先生の下で研究をしていきたいと、目を輝かせていた。

しかし、その先生は先日腰をひねってしまったらしく、講演会にはいらっしゃらなかった。非常に残念なことだ。

このひと月あまり、東北三省を巡り、約40の大学を回ってきたが、世界は、いや、中国はほんとうに広いと感じた。その間、多くの人に知ってもらいたい牛(すごい)人、すごい教師、すごいレベルの学生に出会った。そして、その省の中では有名な人やものごとでも、一旦その省を離れてしまうと誰も知らない!ということが多かった。

したがって、このコラムを通し、中国における日本語教育の現状を少しずつ読者の皆さんに紹介していくことが、わたしにとってのひとつの任務、いや、使命だと思っている。

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年11月4日

 

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