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寿限無を読む~遼陽講演会

ジャスロン代表 笈川幸司

瀋陽駅から一時間半ほどバスに揺られ、遼陽という街にやってきた。

遼陽という街には、日本語を学ぶ学校がひとつしかない。遼寧大学だ。

瀋陽にも遼寧大学がある。が、ここ遼陽の分校には、外国語学院というものがあって、日本語を学ぶ学生が大勢いるのだ。中国の学校事情はちと、複雑。

さて、ここでは張玉彬主任からこんな要望をいただいた。

「いやあ、ほんとうに学生たちがみな、寿限無を流暢に読めるようになるんですか?それなら、この目で見てみたいものですね」

そこで、集まった約300名の学生たちと一緒に音読をはじめた。

実は、8年前、斎藤孝先生の『声に出して読みたい日本語』のCDを始めて手にしたときから、毎年教え子たちと古典落語の『寿限無』を練習していた。

会場では最初、たった30分の練習だけで流暢に読めるはずがないだろう!という、「笈川先生を信じない派」が多数を占めていた。しかし、わたしはこれまで何十回と実践してきて結果も得ている。それは理系・文系学生に関係なく、一流大学、二流大学に関係なく、男女に関係なく、年齢に関係なかった。

熱意。

それがすべて。それに、妻が見に来てくれている。この大切な場面で、失敗は許されない。さあ、本番だ。

最初、学生たちの声は小さかった。

「小さい声じゃだめだ。なぜなら、小さい声で話してもきみの気持ちは相手の心に届かないから。それに、小さい声で話している限り、きみの発音の問題に、きみは一生気づかないからだ。大きな声には、想像できないほどたくさんのメリットがあるんだ」

何よりも理由が大事。

日本の若者にも共通して言えることかもしれないが、今の中国の若者は、とにかく理由を聞きたがる。納得しないと前に進めない。本音を言えば、「とにかくやれ。やればわかるから!」となるが、その考えを改めた。

なぜなら、前日講演を見に来てくれた妻に、「わたしはあなたと一緒にいるから、あなたがやっているひとつひとつのことに意味があることを知っているけど、ちゃんと説明してくれなきゃ、学生たちはどうしてこんな面倒な作業をさせられているのか、きっとわからないはず」と言われたからだ。

「何かひとつやる前に、なぜやるのかを説明する。そして、やり終えた後、たったいま、どんなことをしたのかをもういちど説明して、学生たちに復習してもらう。この2つを大事にして!」

幸い、大声で朗読する意義を丁寧に話すと、突然大声を出す学生が増えた。

更に、何度も繰り返し練習することで、徐々に流暢に読めるようになってくるが、それで自信をつけたからか、声がますます大きくなってゆく。そして、30分が過ぎた。

「魔法みたいですねえ。いやあ、ほんとうに学生たちがみな、寿限無を流暢に読めるようになりました。わたしは、この目で実際に見て、感動しましたよ」。

なにごともそう。一気にやるのではなく、ひとつひとつ何度も繰り返すこと。そして、できるようになったからと言って、次もまたできるとは限らない。確実なものにするためには、できるようになったものもまた復習する。プロのように上手に読めるようになるためには、そういうプロセスが必要。

口で説明してもわかってもらえないことだが、実際に体験して、ようやく「笈川先生を信じない派」の疑いが消えた…。

長い日本語講演マラソン。

こんな日も必要だ。さあ、日帰りの旅が終わり、明日はいよいよ鞍山だ。

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年11月11日

 

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