People's China
現在位置: 連載笈川講演マラソン

早稲田杯北京市日本語朗読大会開催

ジャスロン代表 笈川幸司

朗読はスピーチとは違う。

文章に合わせて表現の仕方を決めなければならない。そして、普段の自分とは違う人間を演じなければならないときもある。これは仕方のないことだ。なぜなら、その文章を書いた作家と、それを読むきみは違う人間だからだ。

「作家の気持ちになって読む」

出場者と高橋所長

ここが、自分を主張するスピーチとは、根本的に違う点だ。

学生たちは、心をこめて朗読することを通し、他人の気持ちを理解しようと意識、努力するようになる。したがって、朗読大会には意外と大きな意義があるのではないかと思っている。

さて、これまで北京では、清華大学で3回(来学期、第4回大会を全国大会として実施する予定)、北京師範大学で2回、北京工業大学で1回行われてきた。

今学期は、早稲田大学北京事務所の会場をお借りし、大学一年生大会と二年生大会を実施することになった。

9月に行われた「男だけのスピーチ大会」では、日本大使館広報文化センターに会場を提供していただいた。北京には、「日本語を学ぶ学生たちに多くの機会を創る」というジャスロン(日本語学習サロン)の理念を受け入れてくれる場所がある。

話は変わるが、大連でスタートし、東北三省を回って、『日本語講演マラソン』を実施してきてようやくわかったことがある。

東北地方で開催される日本語コンテストといえば、一部、知識を競う大会が例外としてあるが、ほとんどがスピーチ大会だった。もちろん、朗読大会がまったくないのかといえばそうではなく、校内大会として下級生を対象に行われているらしい。しかし、大学の垣根を越えた大会は、北京以外ではまだ行われていないようだ。

それは、残念なことだ。

朗読大会で学生たちが選ぶ作品の多くは、プロの作家が命を削って、一行一行書き綴ってきた文章だ。少なくとも、日本語を学び始めた学生たちが書いた作文を自分で読むよりも聞き応えがあり、価値のあるものだと思う。

最優秀賞 王さん(北京科技大学)

確かに、自分の主張のほうが価値があるという意見も否めないが、さきほど触れたように、その作家の気持ちになって読むことに一定の価値があるし、何より、作家の心を自分の心の中に入れて考え、語るという、この得難い経験を、学生たちには大学時代にしてもらいたいのだ。大学の垣根を越え、他校の学生がどんな作品を選び、どんな朗読をするのか、それを知ることも大事なことではないだろうか。

ここまでくどくどと朗読大会開催の意義について述べてきたが、実際はどうだったのか、それが聞きたかった!という人も少なくないだろう。

今大会は、決勝戦に計37名が出場するという非常に賑やかな大会だった。朗読時間はひとり一分。日本語を学びはじめてまだ2ヶ月というこの時期に流暢に読めるだけでも立派だが、ほとんどの出場者がちゃんと心をこめて読んでいた。

早稲田大学北京事務所の高橋所長は、次のように語った。

「感動しました。たった二ヶ月でこんなに流暢に読めるようになるなんて、信じられません。いまは、わたしも中国語を勉強して、日々、中国語の美しさを感じていますが、今日はみなさんが選んでくださった文章もみな日本語の美しい作品ばかりで、日本語の美しさに改めて気づかされました。最初のあいさつでは、今日の出場者の中から数名が早稲田大学に留学してもらえればいいなと思っていましたが、いまは全員に留学してもらいたいです。皆さん、これからも引き続き、日本語の勉強を頑張ってください。ほんとうに有難うございました。」

これまで10年間、わたしは毎回マンツーマンで数名の学生にスピーチ指導や朗読指導をしてきたが、このように多くの学生たちに機会を提供するほうがより価値があると気づいた。

いまは北京でのみ行われている大きな朗読大会を、全国各地で開催し、さらに多くの学生たちに舞台に立つチャンスを創りたいと思っている。

全国各地で機会を待っている皆さん、もう少し待っていてください!

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年11月20日

 

同コラムの最新記事
北京講演会(一)
ピースtoピース~鞍山講演会
寿限無を読む~遼陽講演会
家族の絆~瀋陽講演会
教師の熱意ですべてが決まる~四平市講演会