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「上海で起業、ビジネスの鍵は?」 

上海超頂貿易有限公司代表 高野英明さん

文・写真=馬島由佳子

「中国に興味を抱いたきっかけは何?」「どうして中国で生活をしているの?」「日本人は中国でどんな仕事に就けるの?」中国在住の日本人が何度となく受ける質問です。皆さまも、中国で暮らす日本人に“なぜ?”と興味津々のことでしょう。

そこで、本連載は中国で活躍する日本人の「中国と生きる」理由を紹介するとともに、これから中国に渡り、留学や仕事を考えている方へアドバイスをお伝えします。

「中国での日々は想像を超える出来事が待っている、“ドラマチック”な世界です」と話す、上海在住14年の上海超頂貿易有限公司代表高野英明さん(40歳)。高野さんは日本の大学で中国語学科を卒業し、外務省在外公館派遣員として在上海日本国総領事館で約3年勤務、その後大手電気メーカー及びIT会社勤務を経て現在の貿易会社を設立しました。

高野英明社長

---- どうして大学で中国語を勉強することになったのですか?

80年代後半の高校時代、世界でもっとも人口が多い国が隣にあるにもかかわらず、報道が少なく興味を抱いていたからです。他にも理由はありましたよ、中華料理が好きだとか、アジア人としてのルーツを知りたかったとか。

―-- それにしても、なぜ首都・北京ではなく上海を選んだのでしょうか?

特別上海に行きたいと考えていたわけではありません。正直に言えば、最初の勤務地が上海だったというだけです。最初の頃は生活に慣れず、街にも馴染めなくて大変でした。しかし、そのうち仕事で上海人とかかわり、友達ができ、今は上海の家族と言えるような友人、恩人がたくさんできました。そうして上海に触れるうちに上海の歴史にも興味をもち、とくに今から100年前の『東洋のヨーロッパ』と呼ばれた頃の“繁栄”と現在の“発展”のイメージが重なり、だんだんと好きな街になっていきました。

---- 貿易会社を設立した理由を教えてください。

もともと、本業の合間にインターネットで上海の情報サイトを運営していました。中国の生活・ビジネス・旅行情報を日本と中国在住邦人に向けて掲載していました。その後、日本の通信販売サイトがブームとなったのと上海の不動産投資ブームで富裕層と言われる人々が現れ、家電などシロモノといわれる機械ではなく、これからは中国を市場にしたビジネス――アイデア・工夫・デザイン・味などいわゆる“日本製のソフト”の商品が流通し始めると思い、2006年事業拡大をめざして会社を設立しました。最初はインターネットで販売していましたが、偽物とみられたり流通経路として成熟していなかったために売れませんでした(笑)。その後、「日本物産展」という形で百貨店などに出店し、商品を実際に手に取って見ていただくことで購入者が増えていきました。

百貨店で開催された日本物産展の様子

世界的な市場の上海で日本製にこだわっている商売ですから、日中貿易といっても収益面だけを見れば、現在はあまり良いとは言えません。しかし、2010年の上海万博で、世界の“本物”を見て実際に触れた中国の方々も、「あればいい時代から、質の時代へ」と意識変革が進んでいるように感じます。だから、これからの日中貿易にはさまざまな可能性が大いにあると思います。

--- 上海で14年間仕事をしていらっしゃいますが、北京や他の場所よりも仕事がしやすいというのもあるのでしょうか?

上海での仕事のキーワードがあるとすれば、競争・スピード・サービスの3つです。“日中ビジネス”という言い方がありますが、上海を例にとらえるとすでに“世界の市場の中国、上海”です。だから、起業をした私にとっては、世界が注目する市場である上海がつり合っていると思います。中国国内の他の場所で働く考えはありませんでした。 

--- 中国でのビジネスの鍵は何でしょう?

貿易会社の大切な仕事は、日本の相手先を無理やりでも、消化させることだと思っています(笑)。消化不良を起こすなら、最初からやらない方がいいです。また貿易会社に限らず、外国人が「中国で一旗あげて、利益を得よう」などと単純な気持ちで仕事を始めるのは大変危険です。中国と中国の方との利害関係を一致させ、日本人の精神、日本人の性質を理解してもらうとともに、日本人も中国市場を尊重し、中国の方を理解することだと思っています。相互理解とその上にある提携と友好がビジネスの鍵だと考えています。

上海浦東の夜景

--- 世界の市場“上海”で働きたいと考えている日本人にアドバイスをお願いします。

上海は、“人・お金・物”が渦を巻いて周りを巻き込んでいく巨大な渦巻きに例えられるでしょう。いろいろなチャンスや人に会えるのも仕事の醍醐味ですが、気を抜くと自分がその渦に埋もれてしまい「こんなハズではなかった、損失が出るとは想定外だった」などとなりかねない。仕事はくれぐれも慎重に、注意を払って下さい。

こんなに変化のはやい上海にあっても基本は「5A:あわてず、あせらず、あきらめず、あたまに来ず、あてにせず」です。中国は日々、想像を超える出来事が待っている“ドラマチック”な世界です。辛抱強く、チャンスを待つ忍耐が大切です。  

<取材を終えて>

高野さんは、世界最大の人口を擁する国中国は、90年代以降ますます注目される国になると、高校時代にすでに気付き、大学で中国語を身につけ、まずは中国へ渡ろうと考えていました。

在上海日本国総領事館で勤務ののち、数社の会社勤務を経て、ビジネスに通用する中国語と会社経営のノウハウの知識をつけた高野さんが起業するのは納得です。会社の業務メインは中国市場での輸入貿易ですが、広告・販売促進、販売や事業コンサルティング、ショッピングサイト経営、百貨店の売り場づくり(MD)や日本物産展イベント企画・経営も担い、これまでの仕事の経験を上手に活かしています。そして、高野さんは、活気みなぎる上海市場を熱く語り、これからの日中貿易に期待を寄せていました。しかし、日本人が軽い気分、確固とした目標もなく中国に来て仕事をしたり、起業をするのはもってのほかと強調していました。高野さんは、そうした日本人が残念ながら日本へ帰らざるを得ない現実を目の当たりにしているからです。高野さんの中国ビジネスの先を見据える目と慎重さが伝わってきた取材でした。

 

人民中国インターネット版 2011年12月8日

 

 

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