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職業高校での講演会~上海講演(二)

ジャスロン代表 笈川幸司

中国には普通高校以外に職業高校という機関がある。職業高校に進む学生たちの学業面での成績はそれほど良くなく、そのうえ生活態度もひどい…そういった類の話を、中国で知り合った多くの方からよく聞く。

しかし、先日北京で会った上海長楽霍尔姆斯職業学校の校長・孫源源先生と話していて驚いた。「職業高校に進む学生たちはみな才能にあふれていて、しっかり育てていけばみな国の宝になる」とおっしゃったからだ。

私はいろんな意見を聞きたい人間だ。

職業高校について、これまで良い評判を聞くことはなかった。中国生活11年目にしてはじめて聞いた内容、そして孫校長のアツイ言葉に惹かれ、私は職業高校で講演会をすることを決意した。

講演会を前に、孫校長と何度か打ち合わせをした。その中で特に印象的だったことをここに記しておきたい。これは、もしかすると中国通の日本人でも知らない人がいるのではないだろうか。

中国には、教師が話す時間が制限されている高校があるという。1コマ45分とすると、教師が話す時間は15分以内。15分以上話す教師は罰金を取られるという。では、授業中いったい何をするのか…。

教室の四面すべてに黒板があり、床にもものを書くスペースがあるという。生徒同士で教え合い、討論をする。その学校には、多くの見学者が来るという。

ちなみに、孫校長から聞いた話を北京にいる日本人留学生たちに話したところ、イギリスで3年間高校生活をしてきたある男子学生が教えてくれた。イギリスでは、多くの高校でそのような授業を取り入れているという。

長楽霍尔姆斯職業学校では日本語専攻クラスをいくつか設けているが、孫校長は学習者主体の授業方法を取り入れたいと考えていた。そして、2006年あたりから私が北京市内の学生たちを集め、学習者主体の授業をしてきたことをネットで知って連絡をしてくれた。

高校での講演会は、昨年10月に瀋陽で実施して以来。職業高校では初めてのこと。この日、多くの日本語教師が見守る中、久しぶりに講演をしたため、最初は極度の緊張に襲われた。

舞台慣れというのは、舞台慣れした人間が舞台で力を発揮したときだけに使う言葉。とにかく、最初から舞台慣れした自分の姿を見せることはいつになってもできないもの…。

高校生と呼吸を合わせるのも容易ではない。時間はわずか1時間。一度軌道に乗ればある程度はコントロールが効くが、軌道に乗るすべを知らない。最初の15分は自分の知るあらゆる方法を試してみて、今回は幸い15分以内で軌道に乗れた。

ただし、高校生全員の顔をこちらに向かせ、話に集中させる作業、そして維持する作業を60分続ける精神的疲労は想像以上で、最後の挨拶が終わった時、その場で横になりたいと思うほどだった。

はじめての職業高校での講演会。未知なる世界がまだまだある、と厳しい現実を肌で感じた一回だった。

 

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2012年5月

 

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