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不公平の先には~無錫講演

ジャスロン代表 笈川幸司

無錫の工場に勤務する70数名の日本語人材を相手に講演をして欲しいと依頼があった。そこで、今回企業向け講演をはじめて実施することに…。

これまで、ある企業で、幹部向けの授業(日本語で会議ができるレベルにあげることが任務)や1級合格者向けの授業(口語力を身につけさせるのが任務)をしたことがあるが、「講演」をしたことがなかった。

今回は社員向け講演で、学生とは対象が違うため、話す内容を変えていく必要を感じたが、講演開始早々、いつもわたしの側にいる学生に話している内容と、社会人向けに話す内容にはそれほど違いがないことに気づいた。

今回、若い彼らと話をしてみて気づいたことがある。それは、わたしが学生からしばしば聞く不満の代表―「不公平」が、大人の間でもはびこっていたことだ。

その中でもっとも代表的だったのは、「同じ給料なのに仕事量が違う」ことへの不満だ。実は、ここがミソ。この点をわかっている人は、一見不公平とも思える環境を楽しむことができる。わかっていない人は、この環境を最悪なものだと感じ、間違いなく、近い将来、その場を去ることになるだろう。そして、永遠に続く「不公平」の世の中を恨み、そこから抜け出すことができないのである。

さて、さきの段落で、わたしが言わんとしていることをご理解いただけただろうか。もし、ご理解いただけない人がいたとしたらたいへん申し訳ないので、ここで少しだけ説明を加えたい。

以前、わたしは、18歳から31歳までの13年間を無駄に過ごしてしまったと書いたことがある。その13年間、わたしは、同じ給料しかもらえないなら、誰よりも手を抜き、効率よく稼ぐことが最善だと信じていた。その考えがある結果を招いた。それは、大した技術もノウハウもろくに身につけることができず、数ヵ月に一度は勤め先を換え、毎回ゼロからのスタートをして、キャリアを積むことがまったく出来なかったというもの。実際、無錫の工場でも、以前のわたしと同じ考えを持つ若者が少なくないようだった。そこで、ほんとうのことを話した。

勤務中、上司からの依頼を聞いてすぐ「はい!」と元気な声で仕事を引き受ける人がいる。もちろん、笑顔で。そして中には、言葉にこそしないが、表情を見ただけで、やりたくないことがすぐに読み取れるような人がいる。上司は間違いなく、すぐに引き受けてくれそうな人に仕事を振るだろう。仕事を振られ、どんどんこなしていく人は、こなすスピードも速くなり、仕事量も自然と増えていくだろう。そうなると、同じ給料でも、仕事量がずいぶん違ってくるはずだ。ここが人生の分岐点ではないだろうか。

そのとき、「不公平だ」と感じ、文句を言う人に明るい未来はない。さきほども触れたが、その環境を楽しむ必要がある。上司からの依頼には相変わらず笑顔で、元気良く「はい」と返事をし、その仕事を引き受ける。同じ給料なのに誰よりもよく働く人は、組織にとって大事な人材になっていくことだろう。

組織の上層部にいる人たちというのは、その組織にとって大事な人材だ。つまり、その組織の上層部の人間になりたいなら、どのような態度で仕事をしていくべきか、もう、深く考える必要もないだろう。

ところが、こういうときに、「いや、人間関係のほうがもっと大事だ」と反論し出す人が出てくるかもしれない。確かに人間関係は大事だ。ただ、忘れていけないことは、その人のために汗を流し、その人のために命を削る覚悟がなければ、人間関係など築けるはずがない。

無錫の若者たちには、そんな思いを伝えた。

 

笈川幸司のご紹介

 

人民中国インターネット版 2012年6月

 

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