特集 改革開放40年 都市部で新生活送る遊牧民
「的確な貧困脱却」は中国が近年、力を入れて実施している重要な取り組みの一つだ。2020年までに中国の全ての貧困人口を貧困から脱却させることは国家の揺るぎない目標だ。中国西部の高原に位置する青海省は地理的・気候的条件が非常に厳しく、経済的に未発達で、これまでずっと貧困救済の重点地区だった。数年前から、青海省はその土地に適した対策を取る的確な貧困救済を大々的に実施し、大きな成果を得て、現地の人々の生活にも極めて大きな変化が起きた。先日、本誌記者は青海省の海西蒙古族チベット族自治州(以下、海西州)のデリンハ(德令哈)市、ウラン(烏蘭)県、ゴルムド(格爾木)市を訪れ、現地の人々や企業を取材し、現地の貧困救済活動の成果や人々の生活の変化を実感した。
デリンハ市の蓄集郷党委員会書記のハースボーグさん(写真・王浩/人民中国)
遊牧民に新居を用意
青海省北西部に位置する海西州に生活する少数民族のうち、人口が最も多いのは蒙古族とチベット族だ。蒙古族は牧畜業をなりわいにしており、草や水を求めて移動する。改革開放後、農村で生産請負制が始まり、草地も遊牧民に与えられた。遊牧民は次第に定住し始めたが、それでも草原に分散して住んだ。だが現在、デリンハ市の蒙古族のほとんどが市内の新居に引っ越し、市民と同等の教育や医療などの生活保障を受けている。これも政府が実施した遊牧民住宅保障プロジェクトのおかげだ。
海西州人民政府の所在地であるデリンハ市には、「トロガン(陶爾根)家園」という居住区がある。これは蒙古族の遊牧民のために政府が住宅を集中的に建てた居住区だ。トロガン家園がある蓄集郷の党委員会書記である蒙古族のハースボーグさんがトロガン家園について話し出すと、その言葉の端々から誇らしげな気持ちが伝わって来た。ハースボーグさんによると、デリンハ市には合わせて約7200人の蒙古族がおり、トロガン家園には約3600人が住んでいる。この居住区は09年から建設が始まり、3回に分けて入居が行われ、14年に入居が完了した。デリンハ市には牧畜業を主とする村が13あり、遊牧民が都市部から離れた草原に住んでいた頃は、子どもの通学や高齢者の介護などは容易ではなかった。また、買い物や冬の暖房などもとても不便で、生活環境が悪く、貧困家庭も少なくなかった。生活環境を改善するため、デリンハ市は遊牧民住宅保障プロジェクトを実施し、市街地に住居を建て、遊牧民を市内に移住させ、彼らの暮らしや状況を改善した。「居住区の家を購入する際に、政府が各家ごとに4万7000元を支給してくれて遊牧民は大変喜びました。ここ数年間は、政府のサポートと働き掛けによって、他の居住区に暮らす遊牧民もトロガン家園にやって来て、デリンハの遊牧民のほとんどが市内に住んでいます」とハースボーグさんは語った。
市内に移り住んだ遊牧民の生活スタイルは変化した。高層住宅に住んで住環境が大幅に改善されたばかりか、居住区には幼稚園や高齢者レクリエーションセンターもでき、買い物や通学や通院がより楽になった。遊牧民は各自今まで通り草原でウシやヒツジを飼っているが、多くの若者が市内で働くことによって世帯収入が大きく増えたばかりか、都市との融和も進んだ。ハースボーグさんによると、遊牧エリアの人々は国家から1人当たり毎年4200元の補助金を受給しているだけではなく、住民たちは養老・医療保険や高齢者手当などの優遇措置も受けている。国民に恩恵を与えるこれら政策の支えの下、住民の生活レベルも以前より大きく向上した。
遊牧民にとって、家のウシやヒツジは一番大切な収入源であるため、市街地に移り住んでからも与えられた草地を他人に貸して賃料を取る住民も少なくなかった。ハースボーグさんはこう話す。「遊牧民の市場に対する意識は高まっています。遊牧エリアでも規模の大きな経営が行われていて、集中的な管理の下、経済効果が大幅に増すとともに、草原の環境保護にもつながり、良い循環ができています」
14年、ハースボーグさんの呼び掛けの下、蓄集郷に農業協同組合が設立された。農民が世帯ごとに出資し、協同組合は乳製品加工場や民族工芸品の彫刻作業所をつくり、村の余剰労働力を使って民族的特色がある製品を他の地方に販売した。ハースボーグさんによると、協同組合の設立後、毎年農家に配当金が渡り、一部の村民が納付すべき介護・医療保険費用も協同組合が負担した。村民の世帯収入も大幅に向上した。
引っ越しや狙いを定めた生産協力の展開によって、デリンハの遊牧民は都市と融合し、裕福になる道を歩み始めた。
生態保護と経済発展の調和
青海省は面積が大きいだけでなく、中国の重要な「生態保全保護区」でもある。長江、黄河、瀾滄江(メコン川の上流)の3本の川の水源は全て青海省にある。青海省の生態と水源の保護は、中国の環境保護にとって極めて重要だ。近年、社会経済の発展につれて、中国政府は環境保護の意識と措置をますます強化している。16年8月、習近平総書記は青海省を視察した際に、「青海省の最大の価値は生態にあり、最大の責任は生態にあり、最大の潜在力も生態にある」と指摘した。この言葉は、中国の生態保護分野における青海省の戦略的な重要性を明示した。
海西州ゴルムド市の隣に「長江源」という「生態移民」の村がある。04年に村が建てられる前、村人は皆ここから400㌔離れたタングラ(唐古拉)鎮に住んでいた。そこは標高4600㍍、長江の水源・トト(沱沱)河が流れる地だ。長江の水源を保護するため、また地元の人々の生活状況を改善するため、04年、ゴルムド市は「生態移民」の取り組みを行った。当時、タングラ鎮の六つの村の128戸、407人は、山から下り、移住者用に建てられた住居に入居した。こうして、現在の長江源村ができた。
長江源村に入ると、きれいな道と、ずらりと並んだ個人住宅が見えた。元党支部書記のクンガナンジャルさんの家を訪ねる。彼はチベット族で、今年65歳だ。山を下り、ここに住んですでに14年だが、移住当時の情景は今でもありありと目に浮かぶという。クンガナンジャルさんによると、タングラは気候が厳しく、村人たちの生活は苦しかった。当時、村人はウシやヒツジの飼育で生計を立てていたが、その頃、草原には、すでに退化の兆しが現れていたため、村人の多くはまぐさを購入してヒツジの群れを飼育していた。1985年、大洪水が起こり、村のほとんどの家畜が死に、村人の生活は貧困ぎりぎりの状態になった。2004年、政府が移住を呼び掛け、無料で住宅を提供し、さらに移住者向けの補助金も支給すると、村人たちはそれを大いに支持した。
引っ越してきた人々は毎年、移住者向けの補助金を受け取れ、生活が苦しい家庭にはさらに貧困者向けの補助金が出るので、彼らの生活は基本的に保障されている。その後、移住者を都市生活により溶け込ませるため、長江源村はチベットじゅうたん工場と手作り製品の加工工場を相次いで設立した。それらの商品は全国で販売されるため、ゴルムド市政府は、村人が運転免許証を取得して商品を配送できるように支援する政策を実施した。おかげで多くの村人が運転免許証を取得し、配送業務を始めるようになった。
また、クンガナンジャルさんは、次のように語った。「現在、村の全家庭は労働で得る収入以外に、『草原補助金』『一老一小(高齢者、小学生〜大学生、学齢前児童向けの医療保険)』『暖房費』など、各種補助金をもらっています。1人当たりの収入は04年の10倍になり、貧困家庭はもう1戸もありません」
クンガナンジャルさんはもう5年ほどタングラ鎮に戻ったことがない。息子の1人はタングラ鎮で草原の保護管理者になり、同地の環境管理を担当している。クンガナンジャルさんは、「この数年、息子や多くの村人が、ふるさとのことをよく話してくれます。彼らによると、地元の草原には大きな変化が起こっているそうです。環境がますます良くなり、ごみがなくなり、水も澄んできたと。しばらく見掛けなかった種類の野生動物も再び姿を見せたようです。そこはかつてわれわれが生活していた場所なので、環境が良くなり、とてもうれしく感じています」と話した。
16年、習近平総書記は青海省を視察した際に長江源村を訪れ、現地の生活状況を知ろうと、村人たちと親しく言葉を交わした。
クンガナンジャルさんは当時を思い出して言った。「習総書記は私の手を握って、『あなた方の良い生活にはまだ先があります』と言ってくださいました。総書記のその言葉を思い出すたびに、良い時代に生きていると強く感じるのです」
長江源村の元党支部書記のクンガナンジャルさん夫婦(写真・王浩/人民中国)
南米原産の作物が農民を豊かに
ウラン県は海西州の農業県だ。同地の農民たちは主にハダカムギ、トウモロコシ、クコを植えている。ここ数年、ウラン県のある農産物が中国国内で急に人気を集め、同地の農民は収入が増えて豊かになった。その農産物とはキヌアだ。
南米のボリビアやペルーなどが原産地の雑穀キヌアは、アミノ酸やタンパク質に富んでいる上、カロリーも高くないため、非常に健康的な食品として、世界中のたくさんの人々から愛されている。高原作物のキヌアには、乾燥や寒さに強い、涼しい気候を好むといった特性がある。ウラン県は、標高や天候が南米の高原に酷似しているため、近年、多数の企業がキヌア栽培を試みている。
三江沃土生態農業科学技術有限公司は、ウラン県におけるキヌアの取り扱いで最も有名な企業だ。副総経理の李迎春氏の紹介によると、三江沃土は13年からキヌア栽培を始めた。同地でキヌアは作柄が良く、経済効果も高かったため、同社は栽培範囲を拡大し続けた。17年、三江沃土のキヌア栽培面積は2万3000ムー(1ムーは約0・067㌶)に達した。商品は全国各地で販売され、大きな効果と利益を上げた。
生産モデルに関して、三江沃土が採用しているのは「企業+農家」というモデルだ。企業は農家と契約を結び、農家に種と技術を提供し、最後の買い付けを担当する。農家は栽培と畑の管理を担当する。
ウラン県東荘村のキヌア栽培農家の馬連香さんは、去年200ムー余りのキヌアを植えた。馬さん一家が請け負っている土地は比較的多く、この数年はずっとクコを植えてきた。しかし、クコは市場に波がある上、雨などの天候の影響を受けやすく、生産量が不安定だ。人に勧められ、馬さんはおととしからキヌア栽培を始め、まず200ムーを植えた。馬さんは次のように言う。「キヌアは1ムー当たりの生産量が約500斤(1斤は500㌘)で、1斤当たりの買付価格は10元です。土地代、種代、人件費などのコストを除くと、1ムー当たりの収益は2000元になります。うちはその年、40万元以上の収益がありました。クコやハダカムギを育てるより割が良いのです」。さらに、馬さんによると、キヌアの栽培あるいは収穫をしているのは馬さん一家だけではない。「企業+農家」の生産モデルは、多くの農民を豊かにした。キヌアの栽培によって貧困から抜け出した農家も少なくないのだ。ウラン県銅普鎮都蘭河村の魏海明さんは、家族の病気のため、長らく貧困生活を余儀なくされていた。政府の支援の下、三江沃土は積極的に魏さんを援助し、種と技術を提供した。まず試してみようと思った魏さんは、4ムーから10ムーへと栽培面積を拡大していき、最終的に良い結果を得た。16年、魏さん一家は完全に貧困から脱却した。彼は今後キヌアの栽培面積をさらに拡大していきたいとしている。
数年を経て、ウラン県のキヌアは、すでに中国の各大・中都市で販売され、たくさんの人々の食卓に上がるようになった。キヌア――この遠く南米から来た作物は、ウラン県に根を下ろし、同地の農民の生活を変えた。(王浩=文)
人民中国インターネット版 2018年12月7日