世界共同で取り組む課題

2020-04-09 12:08:29

横浜国立大学名誉教授 村田忠禧=文

昨年12月末に湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の被害は湖北省だけでなく中国全土に広がった。武漢は中国のど真ん中に位置し、交通の要衝であり、人や物の往来がそもそも盛んなうえに、春節を迎える人々の大移動が発生する「春運」と重なった。そのため武漢では爆発的に感染が広がってしまった。

  当初は新型ウイルスの特性をつかめていないため、手探り状態にならざるを得なかった。次第に明らかになったことは今回のコロナウイルスは感染力が非常に強く、症状が現れない状態でも他人に感染することや、検査結果でいったん陰性とされても、しばらくして陽性になることもある、という厄介な特性があるということだ。また高熱が出たことで大勢の人が病院に押し寄せ、病院が感染拡大源と化してしまうこともあった。そのため医療関係者が感染し亡くなる事例も多く発生した。初動の対応に問題があったとの批判は否定できないが、新生事物の認識は一挙に達成できるものではなく、多くの実践の積み重ねを必要としている。

強力な指導力と独特の解決策

習近平国家主席が率いる中国政府は1月23日より人口1100万の大都市・武漢市と外部との交通を遮断・封鎖するという前代未聞の作戦を展開した。中国にはある地方が災害等の重大な困難に直面した時、人民解放軍を素早く投入して処理に当たるとともに、全国が競うように分担して支援する「対口支援」という解決策がある。今回も全国からの武漢市への支援とともに、専門医療体制の弱体な武漢市以外の湖北省の16の市や州に対し、19の省が医療従事者や物資を支援する活動を展開した。感染者が大量に出ることが見込まれたため、火神山、雷神山という二つの専門病院をわずか10日間余りで建設し供用させた。素早く、集中的で強力な対応が感染拡大を防ぐうえで大いに役立ったことは間違いない。

中国では1月27日から2月19日までは毎日、新たな感染者が4桁台で出現していたが、2月20日以降は3桁台に収まるようになった。新たに治癒した人は2月12日までは3桁台であったが、13日以降は4桁台に増えており、2月28日の新感染者数は427人、新治癒者数は2885人、新たな死者数は47人である。中国を除く世界の新感染者数は1027人で、3日連続で中国以外の国々の新感染者の方が多い状態が続いている。(3月1日時点でWHOが公表しているデータでは台湾、香港、{マカオ}澳門を含む中国の新感染者数は579人、中国以外の新感染者数は1160人、新たな死者数は中国が35人、中国以外は18人とのこと)

WHOはこの事実を踏まえ、これまで中国を危険度で最高レベルの「非常に高い」としてきたが、2月28日に中国以外の国々も危険度を「非常に高い」に引き上げた。3月1日時点で中国以外の国で感染者が急増している国は韓国(3736  新586)、日本(239  新9)、イタリア(1128  新240)、イラン(593  新205)、新たにフランス(100  新43)が加わり、5カ国で感染者累計が3桁以上になっている。南米のブラジルでも感染者の発生が確認されたため、五大陸全てで新型コロナウイルス被害が発生したことになる。中国の新型肺炎との闘いを「対岸の火事」と傍観してきた米国でも感染者が62に及び、韓国駐留米軍にも感染者が出るという深刻な事態が発生している。米国CDC(疾病予防管理センター)は、米国でもいずれ新型コロナウイルスの継続的な感染が起きるとの見通しを表明。WHOも各国に警戒を呼び掛けている。

中国の多くの工場で生産が停止し、部品の供給が途絶えたことで日本企業の生産活動に深刻な影響が生じている。ウイルスに国境はない。人間が用意するさまざまなバリケードをくぐり抜け、世界中で暴れ回っている。世界経済に深刻な影響を及ぼすものとの懸念から、株価は連日乱高下している。中国との連携を阻もうとする「デカップリング」(分断)政策が有害であり、不可能であることを新型コロナウイルスが立証している。

犠牲を減らすために

3月1日までの中国の新型コロナウイルスによる死者は2873人に及ぶ。2カ月ほどでこれほどの死者が出るとは、人類がまさにコロナウイルスとの「戦争」状態にあることを意味している。最初の主戦場が中国。そこではまだ最終段階にいたってはいないが、最悪の状態からは脱しつつあるように見える。油断は禁物だが、4月末には制圧できるであろうとの専門家の推定も出ている。

一方、中国以外の国々(日本を含む)はこれから拡大期に入る恐れがある。韓国、日本、イタリア、イランがまず注意すべき国々と見なされているが、他の国でも日々感染者が増えており、油断は禁物。

中国はこれまでのコロナウイルスとの闘いで多大な犠牲を出しながら、被害の拡大を抑え込むことができるようになった。中国の奮戦に対し、世界中から声援・支援が寄せられた。危機意識をしっかり持つとともに、この難局は必ず乗り切ることができる、という自信が共有できているから、着実に力強くウイルスとの闘いを展開でき、一定の成果を収めることができたと言えよう。新型コロナウイルスは制御可能という事実を世界に示すことができれば、目に見えぬ敵への恐怖におののくことなく、冷静かつ科学的に「脅威」に立ち向かうことができるだろう。

中国の「成果」は数千人に及ぶ犠牲の上に成り立っていることを忘れてはならない。犠牲を可能な限り少なくするためには、第一主戦場で闘いつつある中国の成果と教訓を全世界に公開し、共有することが大切である。もちろん「成果」の共有化は引き写しであってはならず、それぞれの状況に応じて適切に調整される必要がある。同時に「成果」の共有化はもちろん必要だが、失敗の事例とそこから得た教訓も隠さず公開する必要がある。未知の世界を開拓する時に連戦連勝は不可能である。敗北や失敗を恐れず、それを直視し、再び同じ失敗を繰り返さないよう努力することが重要である。真の勇者は敗北を直視することから生まれる。

追記

この文章は3月1日に書き、データを修正したうえで3月2日に『人民中国』に提出した。その後1カ月に満たない3月26日に読み直してみたが、事態の激変ぶりに驚きを禁じ得ない。

3月11日にWHOは新型コロナウイルスによる肺炎が世界的大流行(パンデミック)の段階に入ったとの警鐘を鳴らした。米ジョンズ・ホプキンス大学が公開しているデータによると、3月29日時点での全世界の累計感染者数は66万2073人。感染者が最も多い国は米国で、12万2666人に達する。次いでイタリアが9万2472人、中国は3位で8万1999人である。

今や西欧と米国がコロナウイルスとの闘いの主戦場になったことを示している。とりわけ感染者が1日で1万人を超す増加を示す米国の事態は深刻である。内政・外交における独善的対応がコロナウイルスとの闘いでの感染阻止能力を発揮できなくしていると言わざるを得ない。一日も早く「人命第一」の原点に立ち返ることを願うのみ。

第一主戦場での基本的勝利を実現した中国でも、感染者数はゼロにはなっていない。国内をきれいにしたところで国外からの火の粉が舞い込んでくる可能性がある。コロナウイルスは人類全体にかけられた挑戦であり、共に手を携えて地球全体を安全・安心な環境にしていくしかない。

第一主戦場での闘いに勝利した中国がイタリアやスペインなどコロナウイルスとの闘いを展開している国々に支援の手を差し伸べているのは、自国の努力だけで安全・安心な社会は実現できないことを自覚しているからである。それをあたかも覇権争いの一環であるかのように見なすのは、己の目が腐っているからに他ならない。相互信頼に基づく人類運命共同体構築の理念は、共通の課題に対して真剣に立ち向かう具体的行動を通して全世界の人々の心の中に根付いていくであろう。3月29日追記

 

人民中国インターネット版 2020年4月9日

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