PART2 心が和む中国のレトロ雑貨

2021-02-24 14:10:02

5、6年ほど前、北京などの都市部で1970~80年代のビンテージ雑貨や複製品を売る雑貨店が小さなブームを呼んだ。社会の中堅として働く70後や80後(70年代生まれや80年代生まれ)にとっては、幼少期を思い起こさせる懐かしい品ぞろえで、懐古ブームは一種のトレンドとなり、当時の中国では結構話題になった。ここ数年はレトロ雑貨(3)ブームもすっかり落ち着いたが、今は日本のSNSで熱く迎えられているようだ。

 

東京都内の中国雑貨店

中国の7080年代の雑貨を扱う「ビルカーベ」は、東京都阿佐ヶ谷の商店街を入った小道にひっそりとたたずむ。真っ赤な魔法瓶、ダブルハピネスが刷られたホーローの碗や洗面器……まるで北京の南鑼鼓巷(古い町並みが続く観光地)にいるような感覚に襲われる。にぎやかな商店街から離れた静かな店を営む清水瞳さんは、実店舗よりもむしろSNSの方がよほど忙しいと言う。「店のホームページは2011年に始めました。SNSがあまり普及していない頃にはブログで宣伝をしていましたが、その後ツイッターとインスタグラムを始めたところ、中国雑貨好きが続々と集まってきました」とSNSの集客効果を語る。

SNSでは毎日のように情報を載せているが、入荷案内には特に力を入れ、店や商品の画像はもちろん、動画や時には自撮りも加えることで、アクティブな印象を保つよう心掛けている。フォロワーもそれに応えるようにリツイートやシェア、感想をコメント(4)し、時には店で購入した「戦利品」をアップすることで、ファン同士の交流や情報交換を行っているようだ。

清水さんのお気に入りを聞いてみたところ、魔法瓶を手に取った。中栓が昔ながらのコルクでできている魔法瓶は、かつては中国の家庭や職場の必需品で、今世紀の初め頃までは大学の宿舎や学校の給湯室で活躍していたものだが、今はウオーターサーバーや電気ケトル、保温マグなどに押されて活躍の場を失い、中国の大都市ではほとんど見られなくなった。「私はこの魔法瓶の柄が大好きなんです。今の時代には見られない鮮やかな色彩も、とても生き生きしているでしょう」と愛おしそうに眺める。「個人的に一番かっこいいと思うのはこのダブルハピネスが入った洗面器やマグカップです。当時の中国の家庭では日用品にダブルハピネスの柄が入ったものを結構使っていて、その頃は結婚する時にダブルハピネスが入った日用品をそろえたという時代の背景が透けて見えるのが面白いし、ウキウキと懐かしい気持ちにさせてくれるんです」とうれしそうに語る。

雑貨の映す「物語」が魅力

清水さんは中国流に言うならば70後に当たる。中国雑貨との出会いは1990年代の中高生の頃。雑誌で紹介された中国雑貨を見て、「かわいい!きれい!」と感動したという。大学入学後の98年、清水さんは初めての海外旅行の目的地に中国を選んだ。「数カ月をかけて中国をあちこち旅するうちに、中国が本当に大好きになりました」。中国に何度も足を運び、他の国にも旅行に行くたび、現地の雑貨を買い集めるようになったという。

なぜ中国レトロの雑貨店を開こうと思ったのだろうか。「初中国の時は中国のことをあまりよく分かっていなかったので、実はとても不安でした。でも実際に行ってみると、人がとても温かくてフレンドリーで。そして実際に見る日用品は、やはりとても魅力的でした」ときっかけを語る。「日用品はそこに住む人々の姿を映していると思います。そんな日用品のかわいさを日本人にも知ってもらえれば、中国の魅力も分かるのでは……と考え、開店を決意しました。中国への恩返しといったところでしょうか」とほほ笑む。

ネットショップから始めて実店舗の開店を実現。今もオンラインとオフラインの経営を同時進行している。中国への仕入れは年に3、4回。仕入先は街の骨董街や農村のフリーマーケットだ。SNSを始めてからは、中国での仕入れ旅行のたびに、行く先々で食べるものから街歩きまでの一切を実況のようにSNSにアップしている。「生」の中国がビルカーベのファンを引き付けるからだ。

昨年の新型コロナの流行で清水さんは渡航を阻まれたが、SNSで現地の店主と連絡を取り合い、無事に仕入れられたという。しかし、「中国の発展のスピードが速すぎて、たかだか十数年前の日用品の多くが『ビンテージ』になってしまい、人々の生活から切り離されていくので、年々仕入れが難しくなっているんです」と悩みを打ち明けた。

コロナ疲れを雑貨で癒やす

7080年代の中国雑貨が日本人に人気の理由について、清水さんはSNSの力が大きいと語る。「日本人はSNSで自分の好きなジャンルのことを調べるのが好きですし、SNSは同じ趣味の人を見つけてつながることもできます。例えば投稿に#中国雑貨 #レトロチャイナなどのハッシュタグをつければ、同じ趣味の人が簡単に集まってくるんですよ」

中国の日用雑貨は日本でも以前に何度か流行している。80年代には坂本龍一がメンバーのイエローマジックオーケストラ(YMO)が赤い「人民服」を着用したことから、中国モードが一気におしゃれなものとして扱われるようになった。数年前には「中国テイスト」が日本の若い女性の間ではやり始め、原宿の竹下通りでは、中国テイストを取り入れた服や小物の店がにぎわいを見せていた。以前は流行が過ぎ去ってしまえば人々から忘れ去られ、わずかに残る熱心なファンを見つけるのは非常に難しいことだったが、「今はSNSで同じ趣味の人同士が何の障害もなく出会え、コミュニケーションを取ることができるようになりました。ですから、以前のはやり物がSNSで見直されて再び流行するなんてこともあり得るでしょうね」と清水さんは分析する。

SNSは昔を懐かしむファンを結び付けたが、果たして若い人々はどうなのだろうか。清水さんによると、多くの日本の若者がSNS経由でカラフルな中国のビンテージ雑貨を知り、デザインや形に新鮮な魅力を感じているという。日本にも昭和レトロなどの流行があるため、中国のレトロ雑貨にも親近感を抱きやすいのだろう。しかし清水さんはもっと現実的な要因もあると言う。「中国のレトロ雑貨に見られる鮮やかな色彩やさまざまな物語が、新型コロナで沈む日本人の心を浮き立たせているんだと思います」

一刻も早く中国に飛んで「宝探し(5)」をしたいと願う清水さんは、新型コロナの収束を心から願っている。そして、7080年代を復刻した「中国百貨店」を開くのが夢と語る。「中国ではすでに失われた、もしくは失われつつある風景を日本の片隅に残すことができたら、とても素晴らしいと思いませんか?」と目を輝かせた。(于文=文写真

人民中国インターネット版 20212

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