PART1 口コミで上昇する菓子人気

2021-02-24 14:12:36

「今週のオンライン販売の受付は今日19時から開始です。四川フェス限定販売の牛舌餅(牛の舌の形をしたあん入りお菓子)も販売します……」

中国茶と中国菓子の店「甘露」がツイートをすると、フォロワーからたちまち「いいね」やリツイート(1)がつき、オンライン購入を報告する人、中国茶とお菓子を美しく並べた画像をアップする人、四川フェスの話題を振る人などでツイートが一気ににぎやかになった。甘露のメニューにずらりと並ぶさまざまなお菓子、例えば蛋黄酥(アヒルの塩卵の黄身を入れたあん入りの中華パイ)、老婆餅(冬瓜の砂糖漬けとココナッツフレークを詰めた中華パイ)、双皮奶(上に牛乳の皮が張ったミルクプリン)などに改めて目を通すと、日本の店だとは到底思えないほど、本場の雰囲気を醸し出している。

数年前、蘭州牛肉麺の老舗馬子禄牛肉麺の日本進出は、中国に縁がない一般の会社員の間でも話題になったが、今は中国菓子やスイーツがネットで爆発的な人気を呼んでいるようだ。しかも華人華僑が日本人向けに作った「中華料理」とは違い、中国そのものの味が日本人によって作られ、SNSで日本全国に拡散している。

 

中国菓子の人気がネットで爆発

甘露の菓子はオンラインストアにアップされるなりあっという間に売り切れるが、実店舗にも行列ができるのだろうか。

甘露の実店舗は早稲田大学の近くで、大通りから住宅街の細い道を入ったちょっと分かりにくい場所にもかかわらず、平日もしばしば行列になる。「たくさんのお客さんに食べていただきたいので、大量のテイクアウトはお断りしているんです」と店主の向井直也さんは申し訳なさそうに言う。

ネット販売の人気は、新型コロナウイルス感染症の流行による「三密回避」も関係しているだろうが、甘露ファンの多くが「聖地巡礼」や「チェックイン(2)」をネットにアップするのを見る限り、甘露の営業スタイルはまさにSNS時代を生きるネットユーザーのオン/オフラインの在り方を如実に反映していると言える。

しかしネットでいかに人気が出ようとも、最大の売りはやはり味の良さだ。恐らくほとんどの人が、向井さん自身が中国で点心作りを学んだか、あるいは中国の高級点心師を雇っているのではないかと思うだろう。そんな問いに対し、向井さんの答えは実に驚くべきものだった。「うちの菓子やスイーツは私と妻、それに2人の中国人の友人がレシピをもとに試行錯誤して作り上げたものです」。驚く記者を見て「もちろん、中国に行って本場の味を確かめることが大切ですけどね」と付け加える。

現地の味にオリジナリティーを添えるのも、甘露の菓子の特徴だ。例えば甘露の看板メニューで、本場の広東省順徳では濃厚な水牛の乳で作られるシンプルな双皮奶に対し、甘露は桃膠(桃の樹液)など独自のトッピングを乗せることでオリジナリティーを出している。「私たちは中国の味をできるだけ再現するよう努めていますが、若干日本人向けアレンジもしています。例えば中国菓子にはラードを使うものがありますが、ラードに慣れていない日本人の嗜好を考えて別の油を使うなどです」。中国の本場の味を知っているから、アレンジ自在ということだろう。目下一番の売れ筋を聞くと、カラフルに色付けされた杏仁酥(杏仁風味のあん入り中華折りパイ)を指差し、「中国アニメ映画『羅小黒戦記』が日本でも上映されて大人気になりましたが、作中に登場する菓子がうちの杏仁酥に似ているとSNSで話題になって一気に火がつき、中華街の老舗レストランからも注目されました」とうれしそうに語ってくれた。

一つの空間に一つの縁

大阪から東京に越してきて15年目の2013年、向井さんは地元の情報交換とコミュニケーションのための「高田馬場新聞」というホームページを立ち上げ、生活が一変した。過去15年で関わってきたのは仕事関係の人ばかりで、地元の人たちと触れ合う機会などなかったが、ホームページを始めてから、すれ違う人があいさつをしてくれるようになったという。地域メディアの可能性を肌で感じ始めた向井さんは、地元住民の交流スペースを提供すべく、「コミュニティーカフェ」の構想を描き始めた。縁あって留学生にボランティアの場を提供している中国人の馬玉峰さんと知り合い意気投合。馬さんを介して早稲田大学でコミュニティーデザインを学び、地域交流を実践したいと願う中国人留学生の張鈺若さんも仲間に加わった。妻は薬膳と中国茶を勉強中という偶然も重なった。異国情緒に浸りつつ中国茶を飲み、中国菓子をつまみながらゆったりとした時間を過ごすことができる小さな店は、実にコミュニティーカフェ向きだ。日本人は中国茶や薬膳にも親近感を持っている。かくして、「コミュニティーカフェ」と銘打つ中国茶と中国菓子の店甘露が誕生した。

コミュニケーションで縮まる心の距離

交流の機会をより広げたいと考えた向井さんは、SNSの情報拡散力に期待し、昨年から甘露のツイッターとインスタグラムを始めた。最近は中国で流行中のSNS「小紅書」に注目し始めたという。「去年は新型コロナがなければ北京点心の老舗『稲香村』に行って研究を重ねる予定だったんですが……」と残念そうに語る向井さん。中国の人々とのつながりにはさまざまな夢を描いているようだ。「果たして中国の人々は日本人が作った中国菓子に興味があるか分かりませんが」と前置きし、新型コロナの流行が一段落し、中国人が再び日本に旅行に来られるようになって甘露に「チェックイン」してもらえれば、交流の空間がより大きくなり、議論を重ねることで新たなアイデアがもっと生まれるだろうと期待を寄せている。

SNSがなくもっぱらメディアの情報に頼っていた時代、異国の美味を知る人は少数に限られたが、今は無限の空間と交流の可能性を持ったSNSと向井さんのような熱意を持った人々によって、中国食文化の魅力はより多くの外国の人々に知られるようになった。そこから生まれた交流は、お互いをより親しいものにするだろう。于文=文写真

人民中国インターネット版 20212

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