PART2 企業がグリーン化けん引

2021-12-23 13:49:21

高原=文

 

神華集団による三河火力発電所(河北省三河市)の改造が完了、環境アセスメントに合格し、京津冀(北京市、天津市、河北省)地域初の「ほぼゼロエミッション(直接排出回避)」の石炭火力発電所となった(新華社)

 

中国が打ち出した「3060」目標は、企業に対してはっきりとしたシグナルを出した。それは、中国のエネルギー構造の低炭素化は不可逆で、エネルギー消費量が多い業界や企業が中国市場で足場を固めるには、この変化に適応するよう事業の構造と形態を見直していかなければならないということだ。

グリーンな発展目指す石炭産業  世界で工業化が加速しつつあることに伴い、環境保全がますます注目されている。CO2などの温室効果ガスの排出削減を求める声が高まり、石炭などの化石エネルギーに対する拒絶反応も高まっている。国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、2019年の時点で世界の一次エネルギー消費量に占める石炭の割合は27%に低下した。

石炭は中国の主要なエネルギーであり、重要な工業原料でもある。新中国成立当初、中国のエネルギー構造に占める石炭の割合は最大で95%に達した。グリーンで低炭素な発展を目指すため、中国のエネルギー構造改革は継続的に推進され、段階的な成果を上げている。昨年発表された『新時代の中国エネルギー発展』白書によると、19年の中国の石炭消費量はエネルギー消費総量の577%を占め、12年比で108ポイント減少した。カーボンニュートラルが重要視されるにつれ、中国の中部と東部、南西部は石炭生産から撤退し始めた。今後、中国の石炭生産は、内蒙古自治区、山西省、新疆ウイグル自治区に集中すると予想されている。

しかし、中国のエネルギー産業構造において石炭が主要な位置を占めることは短期間で変えることはできず、「3060」目標の実現難易度を間違いなく高くさせている。従ってエネルギー産業は、石炭などの従来型エネルギー源のクリーンで効率的な利用を強化する必要がある。

石炭消費の主力として、火力発電業界は石炭火力発電所の超低排出(7)技術の普及を加速している。石炭火力発電所は超低排出技術の導入後、煙塵、二酸化硫黄、窒素酸化物などの主要な大気汚染物の排出濃度がいずれも天然ガス発電所の排出基準を下回ることになる。例えば、神華集団有限責任公司の三河火力発電所と国家電網有限公司の廊坊火力発電所は、超低排出技術導入後、煙突からの粉じん排出濃度は1立方当たり023㍉㌘になり、二酸化硫黄排出量は1立方当たり20㍉㌘以内で定着している。窒素酸化物排出量は1立方当たり約30㍉㌘で定着し、天然ガス発電の排出基準よりずっと低い。今後、排出削減技術の継続的なアップグレードと資金の継続的な投入に伴い、石炭火力発電は超低排出を実現する見込みだ。

また、中国煤炭工業協会の張宏副事務総長によると、石炭産業はCO2の循環利用を実現するための科学研究プロジェクトを計画している。「例えば、触媒を用いて CO2を水素と反応させてメタノールを合成し、カーボンリサイクルを実現する。これはCO2削減のための究極の技術的手段となりえる」と張氏は述べた。 昨年7月、安陽順利環保技術有限公司のCO2グリーン低炭素メタノールプロジェクトが正式に開始し、この分野における有益な試みとなった。産業排ガスからCO2を主な炭素源として捕捉し、水素と反応させてメタノールを合成することは排出削減に有効だ。第1期は、年間11のグリーン低炭素メタノールを生産し、年間16のCO2を吸収し、年間で約60のCO2を間接的に削減し、60万ムー分の木を植えるのに相当する。このプロジェクトは、アイスランドのCRI(Carbon Recycling International)社独自のCO2の水素化によるメタノール合成技術を導入している。完成すれば、中国初のCO2の水素化による工業用メタノール生産プラントとなり、この分野で世界最大級の生産設備ともなり、中国が新たなCO2排出削減技術の模索と開発を促進し、「メタノール経済」を発展させる上で重要な参考となる。

 

江蘇省東台市に建設された「風力太陽光発電とエコ養殖」の相互補完を生かした産業基地(新華社)

 

エネルギー企業が「水素」参入

「3060」目標を実現するために、数多くの中国エネルギー企業は、植林と環境管理に積極的に取り組んでおり、緑化でCO2排出量を相殺しようとしている。

昨年1111日、大慶油田の馬鞍山地区で植林によるカーボンオフセット事業が正式に開始した。これは中国石油天然ガス集団有限公司(中国石油集団)初のカーボンオフセット事業だ。この総面積510ムーの植林事業は、強い適応力と良好な景観効果があり、CO2吸収源として高い機能を持つ落葉広葉樹と常緑針葉樹を2段階に分けて約2万1000本を植える。これらの樹木は、強力な炭素固定能力と観賞性があるだけでなく、高い経済的価値を持っている。昨年末までに、中国石油集団は2億8660万平方の緑地を所有し、「十三五」計画期間中に6270万平方を緑化した。

CO2排出量を緑化で中和することは、排出後の埋め合わせにすぎない。CO2排出量が多いエネルギーの利用を根本から減らし、クリーンで環境に優しい新エネルギーの使用比率を高めることこそ、本来の排出削減策だ。現在、世界の新エネルギー分野の研究は加速期に入り、太陽光、エネルギー貯蔵、水素の三つが注目され、水素は将来のエネルギーシステムを構築し、エネルギー改革を実現するための重要な媒体となる。水素は環境に優しいエネルギー源であり、燃焼する時にCO2を生成しない。そして、化石燃料、風力、太陽光などさまざまな資源から再生可能であり、どこからでも輸入することができるのは他の再生可能エネルギーが太刀打ちできない強みだ。

ここ数年、中国石油化工集団有限公司(中石化集団)、中国石油集団、国家電網公司、華能グループなどの大手中央企業が相次いで水素分野に参入し、水素産業の発展が見込まれている。これについて、国務院国有資産監督管理委員会の彭華崗秘書長は「現在、3分の1以上の中央企業が、水素の製造、貯蔵、添加、使用などの産業チェーンの全体的配置を行っており、技術研究開発と応用で一連の成果を上げた」と述べる。

17年、国家電力投資集団の水素エネルギー科技発展有限公司が設立され、水素製造や燃料電池関連の技術蓄積が完成し、いくつかの技術分野で自主化を実現した。

19年7月、中国初のガソリン、水素、電気エネルギー供給とコンビニエンスチェーンサービスを統合した総合エネルギーステーションである中国石化仏山樟坑ガソリン水素スタンドが完成した。19年から現在まで、中石化集団の水素戦略は徐々に実施され、中石化集団は数多くの中央企業と契約を結び、水素の産業チェーンの全体配置を継続的に強化している。

さらに水素分野では、中日企業の協力が期待されている。50年までにカーボンニュートラルの目標を達成するため、日本政府は昨年12月に「グリーン成長戦略」を発表し、水素が日本でカーボンニュートラルを実現する中で果たす役割について、大々的に説明した。11年の福島第一原子力発電所事故は日本の水素開発を加速させた。17年、日本は水素社会を実現するべく、「水素基本戦略」を発表した。日本は、国際社会で初めて水素戦略を策定する国となった。現在のところ、日本の水素分野における技術レベルは中国より高く、日本の国立研究開発法人「新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)」は、中国企業と日本企業の水素協力の「橋渡し」として積極的に取り組んでいる。関連事業は中国の陝西省、山西省、遼寧省、浙江省を中心に展開し、協力分野は水素貯蔵輸送、水素とディーゼルによるハイブリッド発電(8)などであり、現在は調査研究段階にある。

日中金融協会の宮里啓暉理事は、上海交通大学で開催された第4回「創新共創」中日企業イノベーション協力フォーラムに出席した際、オーストラリアとブルネイから水素を長距離で輸送するという以前の試みより、中国の沿岸都市から日本へ水素を輸送する場合、条件が整えばそのコストはオーストラリアからの半分に削減できると指摘した。さらに、今後は日中協力を通じて、水素製造と貯蔵のコストを削減できるし、カーボンニュートラルの目標を目指す中で、水素分野に参入し、水素の製造貯蔵輸送利用でより大きな価値を発揮する企業がさらに増えていくと宮里理事は信じている。

 

太陽光発電による水素製造システムのデモンストレーション装置に注目する見学者(新華社)

 

債券がグリーン経済を後押し

今年2月8日、華能国際電力股份有限公司、国家電力投資集団有限公司、中国南方電網有限責任公司、中国長江三峡集団有限公司、雅礱江流域水電開発有限公司、四川省機場集団有限公司などの企業が、中国で初めて6本の「カーボンニュートラル債」を発行し、その規模は合計で64億元に上った。この債券による調達資金は全て、風力発電、太陽光発電、水力発電などのクリーンエネルギーとグリーン建築物を含むCO2削減収益のあるグリーン産業プロジェクトに使われる。プロジェクトが完成すれば、年間4164万7000のCO2排出量が削減される見込みだ。「カーボンニュートラル債は、国家の自主的な貢献目標を実現し、『3060』目標という大きな意思決定を実施するための重要な革新的な措置であり、カーボンニュートラルの名前が付いた世界初のグリーン債製品でもある」と聯合赤道環境評価有限公司グリーン金融事業部の劉景允総経理は語った。さらに、「その発行は、金融分野でCO2排出削減プロジェクトを支援する革新的な製品の誕生をさらに促し、グリーン金融ツールが低炭素発展に対する支持を十分に発揮し、低炭素経済への転換、『3060』目標の実現に力を注ぐことが期待される」と述べた。4月の時点で、中国は今年20本以上のカーボンニュートラル債を発行した。中国人民大学財政金融学院の趙錫軍副院長は、「従来のグリーン債は範囲が広いが、今回大規模中央企業が集中的に発行したカーボンニュートラル債はより具体的にカーボンニュートラルプロジェクトに使われている。目的が非常に明確であり、カーボンニュートラルの目標の実現に重要な意義がある」と分析する。

ここ数年、中国のグリーン債は目覚ましい成果を上げてきた。昨年末までに、約1兆2000億元のグリーン債を発行し、世界第2位となった。現在、カーボンニュートラルの目標に基づくカーボンニュートラル債の発行は、グリーンな金融モデルの革新とみなされ、業界関係者にとってエネルギー産業で良好なモデル効果をもたらすと考えられている。

ガソリン天然ガス分野の法律業務に長年携わってきた専門家陳新松氏はこう述べる。「例えば中石化集団では、太陽光発電や風力発電など多くのプロジェクトを事前に立ち上げた。資本調達と相まって、良い経済効果と社会効果が早く生まれ、投資家に多くの見返りをもたらすと同時に、企業のカーボンニュートラルに向けた取り組みを大きく後押しした。カーボンニュートラル債に加え、企業は信託などのグリーン金融モデルを模索することもできる。結局のところ、企業は自分の状況に合わせて、適切な金融手段を選ぶべきだ」

 

人民中国インターネット版

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