PART2 トキとパンダ繁殖の手本に
高原=文
生物多様性条約と関連議定書の重要な参加者・推進者として、中国は終始一貫して最先端の生物多様性対策を建設的に推し進めている。
この2年間、中国メディアで以下のような報道が相次いだ。雲南省で野生のゾウの群れが北に移動した。チベットカモシカの絶滅リスクを示すレッドリストカテゴリー(4)が「危機」から「準絶滅危惧」に引き下げられた。長江スナメリや三江源国家公園のユキヒョウが頻繁に目撃された……。これは中国の生物多様性保全が着実な成果を勝ち取ったことを示している。このうちトキの個体数(5)の増加とパンダのレッドリストカテゴリー引き下げは、中国の生物多様性保全の縮図といえる。
陝西省漢中市の金壩村の田畑に飛び交うトキ(新華社)
陝西省洋県に住む農家の男性(中央)は、けがをしているトキのひなを見つけ、 トキ生態パーク飼育センターに届けた(新華社)
7羽の再発見から5000羽に
今年はトキ再発見40周年に当たる。トキはかつて東アジア地域と広大なシベリアに幅広く分布していた。20世紀に入って野生のトキは朝鮮半島や日本などで相次いで絶滅した。中国科学院動物研究所の鳥類専門家・劉蔭増さんは1981年5月、陝西省漢中市洋県で、世界に7羽だけ生存していた野生のトキを発見した。 劉さんによると、78年に中国科学院動物研究所が国務院の委託で専門家の調査隊を組織し、中国国内で野生のトキを捜した。任務を受けた当初、劉さんは「この課題はとても難しい」と感じた。
ほかの研究者に尋ねても、誰もトキを見たことがなかった。標本を見ると、全て20年以上前の物だった。劉さんは「20年余り姿を見せていない珍しい鳥を広大な中国で捜すのは、海に落とした針を捜すようなものだ!」と思った。
劉さんの調査隊は捜索範囲を歴史上トキが出現したことのある12省に設定し、ローラー式調査を実施した。北は黒龍江省から南は海南島まで、西は甘粛省東部から東は海岸線まで、調査隊は至る所で人々にトキの写真を見せ、映画上映の機会を利用してトキのスライドフィルムを映写し、大衆が捜索に協力するよう働き掛けた。こうして陝西省洋県の標高1000㍍を超す姚家溝でついにトキを発見した。 ひとつがいの成鳥が木に止まっていた。くちばしは長く、顔は赤く、羽毛はかすかに淡い赤色をしている。巣の中で3羽のひなが食べ物を求めて鳴き、周囲でもうひとつがいの成鳥が歩き回っていた。計7羽だ。「あれだ! トキだ!」。劉さんは大喜びして叫んだ。「3年間の努力は無駄にならなかった。ついに見つけたぞ!」
その後、劉さんは引き続き全国各地でトキを捜し求める一方、洋県林業局の若手職員4人を率い、村人が放置していた部屋を利用し、「秦嶺1号」トキ保護事務所を開設した。彼らはトキに付き添って観察し、餌を与え、応急手当をし、保護の経験を次第に積んでいった。
81〜90年、姚家溝のトキは10カ所の巣で繁殖し、30個の卵を産み、19羽をふ化させた。現在、トキは中国ですでに5000羽余りまで増え、洋県だけでなく、秦嶺山脈北麓の陝西省寧陝県、銅川市、宝鶏市、河南省董寨国家級自然保護区、浙江省徳清県などにも迎え入れられた。85年にトキの「華華」を日本に貸し出した後、中国はトキ14羽を外国に送り出し、今では日本や韓国のトキは1000羽近くになっている。
40年が過ぎたが、劉さんは終始トキの近くにいる。「私の家から20分歩くと水田があります。トキに会いたいと思えば、家を出て一回りすれば会えるのです!」
保護活動で生まれた有機農産物
トキの再発見は周辺の農民の生活も変えた。
華英さんは洋県紙坊街道草壩村の農民だ。この村はトキの重要な繁殖地・採餌場になっている。華さんとトキの縁は20年前にさかのぼる。その年、彼の家から10㍍も離れていない場所に2羽のトキが巣を作った。
「毎朝トキの鳴き声で子どもの登校時間になったことを知ります。畑で農作業をしていると、トキはよく私のそばにやって来ます。だんだん愛着が湧いてきましたね」。華さんの口ぶりからは幸せが伝わってくる。
トキの幼鳥がしばしばヘビに脅かされていることに彼は気付いた。そこでほかの農民と解決方法を考え、トキが営巣する大木の幹にかみそりの刃を差し込んで輪のようにした。こうしてヘビは木に登れなくなった。
しかし、村内の子どもがかみそりでけがをするのではないかと心配する村民もいた。あるお年寄りが後に、よく滑るビニールシートを木の幹に巻き、ヘビが登れないようにするという方法を思い付いた。「とにかくトキの保護過程では、いろいろ昔ながらのやり方を考えました」と華さんは話す。
トキをよりしっかり保護するため、2006年に華さんは漢中トキ国家級自然保護区管理局に洋県トキ愛鳥協会の設立を申請した。彼はこうしてトキ愛鳥協会会長になった。
協会設立後、華さんは草壩村で活動するだけでなく、しばしばほかの郷・鎮へ行き、トキを観察し保護するようになった。
地元民とトキの関係は決して終始調和していたわけではなく、かつては問題もあったと華さんは率直に語る。トキの再発見後、洋県はトキの保護のために農民の農薬使用を制限した。多くの農民が「農薬を使わずにどうやって害虫を駆除するんだ?」と反発した。
誰もが予想しなかったことに、これは地元にチャンスをもたらした。農薬を使わなくなった後、農民は誘蛾灯を使って害虫を駆除した。こうして洋県の農民は率先して有機農産物生産の道を歩み始めた。今では洋県は「トキ有機農産物」ブランドを生み出しており、ブランドの潜在的価値は93億元を超えている。
7羽から5000羽へ、絶滅危惧から個体数の増加へ、中国のトキの保護は絶滅危惧種(6)保護の手本として世界に認められている。40年来、トキ生息地は秦嶺山脈を中心に東アジアの歴史的分布地に広がるすう勢を見せている。トキのレッドリストカテゴリーは「深刻な危機」から「危機」に引き下げられた。この背後には、多くの中国の科学者やボランティア、一般の人々の長年にわたる保護活動がある。
着ぐるみ姿の飼育員が世話
今年、トキのほかに動物保護分野で注目を集めたのはジャイアントパンダだ。 生態環境部(日本の省に相当)の担当者は今年7月の記者会見で、中国の野生のジャイアントパンダが1800頭を超え、レッドリストカテゴリーを「危機」から「危急」に引き下げたと発表した。あるネットユーザーは「国民1人にジャイアントパンダ1頭という時代がまた一歩近づいた!」と冗談を書き込んだ。
03年から中国は人工飼育したジャイアントパンダを野生に返し、野生の個体群を増加させる試みを続けている。ジャイアントパンダを自然環境の中で生活させ、繁殖させることは、種の観点からは人工的環境での飼育よりも好ましい。
呉代福さんは四川省臥龍で長らくジャイアントパンダの野生化訓練事業を担ってきた。数年前、飼育員グループがパンダの着ぐるみ姿でジャイアントパンダの赤ちゃんを訓練する写真が世界的な報道写真コンテストに入賞し、ジャイアントパンダの野生化訓練に対する人々の関心が高まった。このため、呉さんも多くのメディアの取材を受けた。
呉さんによると、彼らはメスのパンダを選んで繁殖拠点内で飼育し、このパンダは拠点内で赤ちゃんを産んで育てる。赤ちゃんは母親に付いて木登りや水探し、巣穴探しなどを学ぶ。飼育員は監視カメラや衛星測位システム(GPS)付きの首輪、小型レコーダーだけでジャイアントパンダを観察し、必要な場合には着ぐるみ姿で食事を与え、掃除する。赤ちゃんが母親から離れられるようになれば自然に返す。 「野生復帰のためには、できる限り人とパンダが一緒に過ごすのを避け、パンダが人に親しみを覚えず、警戒するようにしなければいけません。ですから私たちはパンダの赤ちゃんと接触するのであれば着ぐるみを使います。また、私たちは採取したパンダのふん尿を水につけて着ぐるみに塗り付け、人間のにおいを隠しています。誕生から野生復帰まで、私たちが多くの心血と感情を注いでいることをパンダは知りません。特に自然に返すときには皆が名残惜しく感じます」
しかし、これはジャイアントパンダ保護のためには必ずしなければならないことだ。自然に返した後、呉さんと同僚は事前にパンダに付けていた首輪を通じて追跡し、ふん便から身体の状況を観察する必要がある。「野生復帰の1年後、パンダの健康状態を確認するためにまた捕獲し、外の世界で健康に生き続けてきたことが分かると、とても感動します」
四川省の成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地で、繁殖に成功したパンダの赤ちゃんを抱く飼育員たち(新華社)
野生に戻るトレーニングを受ける子パンダの健康診断を行う中国パンダ保護研究センターのスタッフ(新華社)
世界に示した成功事例
実際のところ、国際自然保護連合(IUCN)は5年前、すでにジャイアントパンダのレッドリストカテゴリーを「危機」から「危急」に引き下げていた。中国林業局の担当者は当時、ジャイアントパンダは依然として非常に高い絶滅リスクに直面しており、カテゴリー引き下げは時期尚早だと述べた。最近の実態調査を経て、野生のジャイアントパンダの個体数が「危機」の上限の250頭を超え、「危急」の上限の1000頭も突破していたため、正式にカテゴリーを引き下げた。
引き下げは確定したが、国家林業局は次のように表明している。ジャイアントパンダにとっての生存の脅威はやはり無視できない。保護事業に怠慢や緩みが生じれば、ジャイアントパンダの個体群と生息地は取り返しのつかない損失と破壊を被り、勝ち取ってきた成果はすぐに失われるだろう。特に一部の地域の小さな個体群は常に絶滅の可能性がある。このため、ジャイアントパンダ絶滅の危険性を引き続き強調することは、決して人を驚かせるための大げさな話ではない。
南京市紅山森林動物園の沈志軍園長は次のように考えている。数は相対的なものであり、1800頭は一つの種にとってやはり非常に少ない。とはいえ、野生で生息している数としては好転している。カテゴリー決定は数を見るだけでなく、野生の生息地の環境指標も見なければならない。 ジャイアントパンダの保護に言及した際、沈園長は「アンブレラ種(地域の食物連鎖の頂点に位置し、その種の保護が生態系全体の保全につながる種)」(7)という言葉を口にした。
「ジャイアントパンダはアンブレラ種で、付随して生息する種が非常に多く存在します。四川、陝西、甘粛の各省には豊かな生物多様性があります。生態環境が良好であって初めてさまざまな種が生息でき、生態系も完全で堅固なものになります。ジャイアントパンダの保護でより重要なのは、その生息地を守ることです。生息地の環境が保全されれば、下位の種も全て良好な生息環境を保てます」
数十年来、中国がジャイアントパンダ保護の過程で勝ち取ってきた成果は誰の目にも明らかだ。
四川省野生動植物保護協会の冉江洪会長は「ジャイアントパンダ国家公園の四川省域内はジャイアントパンダを象徴種とした保護を通じ、ほかの8000種余りの動植物を協調して保護しています。また、野外巡視中には同じ地域の希少動物を延べ1600回余り見つけました」と語った。
中国科学院院士で開発途上国科学アカデミー(TWAS)会員の魏輔文氏は「異なる国家の自然資源や経済発展、文化の明確な差異を考えると、あらゆる課題にしっかりと対処できる解決方法を世界的な範囲で打ち出すのは、あまり現実的ではありません。しかし、生物の多様性保全における中国の経験は一つの成功事例にできるでしょう」と話した。
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