PART7 経済成長が作る意識の高さ

2022-02-08 14:27:45

高原=文

中国のZ世代を、年代が一部重なる中国版「ゆとり世代」になぞらえる人がいる。中国では1990年代末、教育の負担軽減策が掲げられ、これらの若者は小さい頃から恵まれた環境で育った。SNSでの交流やサブカルチャーを好み、家にいることを好み、消費意欲が低く、「高い目標を目指して努力する」より自分らしい生き方を好む。日本で「ゆとり世代」の欲のなさが懸念されている中、中国のZ世代は同じ道を歩むのか。これについて、研究者らは楽観的に捉えている。

 

「仏系」「躺平」の実態とは

現在、中国の若者がよく使う「仏系」という言葉は、日本の「仏男子」から来たものだ。だが、その意味は変わり、無欲で一喜一憂せず、心穏やかに暮らすことを指すようになった。中国の「仏系青年」は、自分をただの労働者と自嘲し、家を買う金も恋愛するための金もなく、一人でドラマやオンラインチャット、ゲームに没頭するのも悪くないと考えている。また、職場の「内巻」(非理性的な競争)に巻き込まれたくないので、ひたすら「躺平」(無理に頑張らない。本来の意味は寝そべる)で平常心を保ち、仕事が無事に終わればいい、という考えも持っている。

中国のZ世代は、日本の「ゆとり世代」と同じように意欲が希薄な状態に陥っているように見えるが、実は「仏系」は冗談半分の言い方にすぎず、ほとんどは今でも職場で頑張っている。いわゆる「仏系」や「躺平」は、若者のプレッシャーに対するストレス反応にすぎない。

北京第二外国語学院の宋暉教授は次のように述べる。日本のいわゆる「低欲望社会」を理解するには、一つの前提条件を無視できない。それは、日本の経済は過去25年にわたり低迷を続け、若者は階層の固定化と老後の生活への不安にとらわれ、積極的な消費を控えているという点だ。一方、中国は経済が持続的に成長しており、若者が「発展の配当」によって富を蓄積し、より高い階層へ飛躍することは決して高望みではない。だから、頑張る余地と原動力がまだある。

また、日本は早くから先進国の仲間入りをし、たとえ若者の「欲望が希薄」でも、比較的高い生活・消費水準を持続することができた。それに対し、中国ではまだそうした経済的な条件を備えていないため、Z世代は頑張らなければならない。

中国人民大学国家発展・戦略研究院の王水雄研究員は次のように論じている。他の発展途上国に比べて中国の年齢別人口構造は、これまでの「ピラミッド」型から上下が同じ太さの「高層ビル」型へと猛烈なスピードで変わってきている。従来からの経済と政治の機会は上の世代の手に握られ、国内経済が比較的長く下押し圧力に直面する可能性がある中、Z世代が現実の生活の中で自分の価値をアピールするチャンスは急速に少なくなり、プレッシャーがにわかに高まっている。彼らはおそらく、より多くの独自の道を切り開いてこそ、心のよりどころを見つけられるだろう。それゆえ、「内巻」という言葉がはやり、「躺平」という言葉に共感を得るのだ。

 

中国のZ世代は起業の熱意にあふれている。広西チワン(壮)族自治区融安県の若者は現地の農産物をネットショップで販売。初受注に喜んだ(新華社)

 

強い帰属意識

日本の「ゆとり世代」は、自分のことだけに関心があり、政治と社会に無関心だ、とよく批判されている。ところが中国のZ世代は、「仏系」の一方で上の世代より強い愛国心を持っている。

中国の週刊誌『新民週刊』は次のように報じた。Z世代は中国経済の量的変化から質的変化までの急成長の過程を経験しており、1970年代、80年代生まれの世代に比べ、物質的や精神的な欠乏を経験したことがない。中国は高速鉄道や都市の発展、インターネットがもたらす利便性などの面で西洋の国々を上回っており、Z世代はこうした国々に対し大きな差を感じないことから、自国への帰属意識も高い。

米国コンサルティング会社のOC&Cストラテジー・コンサルタンツ社の2019年のレポートによると、世界の若者を対象とした調査で、「回答した中国のZ世代の41%が将来を楽観視し、世界全体では26%だった」とし、また「同Z世代の28%が自分の生活が上の世代より良くなると考えており、世界全体では24%だった」としている。

復旦大学政党建設・国家発展研究センターの鄭長忠主任は次のように指摘する。Z世代の若者にとって留学がますます普通の経験となった時、「彼らは本当の西洋と中国の姿を知り、それが想像していた米国や欧州ではないと知る。こうした留学生の方がむしろ愛国的だ」。中国のZ世代は「国際的な視野を持ちながら民族的な強い誇りも持つ」世代であり、また、「インターネットを通して自分の生活圏をつくる」世代でもある。特に中米貿易摩擦や世界的な感染症の予防・抑制対策など、いくつかの大きな課題における中国と西洋の対応と取り組む姿勢を見て、Z世代は二つの体制の違いをよりはっきりと認識し、自国への誇りもより強く感じている。

その他、Z世代の若者が漢服や国産アニメ、国産ブランドを好むことからも、彼らの自国の文化に対する強い自信が読み取れる。また、Z世代がソーシャルメディア上で国際政治の話題に関心を持っていることや、ジェンダーや環境保護の問題、データセキュリティーの問題に敏感であることからも、その高い社会参加への意欲が分かる。

 

2022年北京冬季オリンピックを控え、北京の各大学の学生はオリンピックのボランティアに積極的に参加。北京語言大学の学生ボランティアが真剣な表情で研修を受けている(新華社)

 

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