PART5 社会貢献への成熟した考え

2022-02-08 14:29:50

高原=文

2000年生まれの楊星楷さんは18歳の時、全国大学統一入学試験「高考」を終えたその日に、どうしてもやりたいことがあった。それは、自分が成人になった証しとして、献血をすることだった。さらに、大学生になった後も、彼は自らの余暇の大半の時間をさまざまなボランティア活動に充てていった。「ボランティアとは誰もが選べる、一種の生活スタイルです」と楊さんは語る。

Z世代の青年たちが公益事業におしなべて熱心であるのは、素晴らしいことに違いない。だが、より注目すべき点は、ボランティアに参加する彼らの実感や社会公益事業に対する考えであり、活動の中で育まれた複雑な社会現象を受け止める力と、理想と現実のバランスが取れている成熟した心のありようだ。

 

高校時代から始めた社会奉仕

楊さんのボランティア歴は高校時代にさかのぼる。当時、彼は北京の名門校で学んでおり、学校の後押しもあって生徒たちは多くのサークル活動を始め、校内は活気とオープンな雰囲気に満ちていた。楊さんはクラスメートたちと「耕読社」というサークルを立ち上げ、古代中国の知識人たちが持っていた晴耕雨読の文化的伝統に倣い、学内で土を耕し、作物を植えた。そして、年末に学校が開くチャリティーイベントで自分たちが育てたネギを販売し、得たお金を山岳地帯に暮らす児童向けの栄養食無料提供プロジェクトに寄付した。

高校2年生の時、楊さんは教育支援プロジェクトにも参加し、隔週で北京郊外の蒲公英中学に通った。そこは出稼ぎ労働者の子どもたちが通う民営学校で、彼は中学生の補習を受け持った。当時、サークルは国際部の生徒数人が主導的立場にあり、海外の大学に出願するため、それらの生徒は十分なボランティア活動の実績を積む必要があった。楊さんは留学する予定はなかったが、ボランティアへの参加を続け、その経験を通じて多くの収穫を得た。

高校卒業後、楊さんは首都医科大学の臨床医学科に入学した。彼は医学生として学業で忙しい日々を送りつつも、赤十字社の学生分会に参加し、白血病を患う児童のための病室での授業、エイズ予防の教育活動、視覚障害者向け音声教材の作成、手話やろう文化の紹介といったさまざまな公益活動を行った。このように彼が幅広い内容のボランティアに携わってきたのは驚くべきことだ。

楊さんのようなZ世代の若者にとって、ボランティアに参加する習慣や意識は、学生時代から心の中に深く根付いている。「ある人は履修単位を取るため、ある人は学生会で役職を得るため、またある人はボランティアを通じて他者との触れ合いを持ち、喜びを得るためと、考えはさまざまです。でも、たとえどのような動機であっても、みんなが行動を始めれば、社会全体で以前よりボランティアへの意識が高まり、良い行いをする心掛けも強まります」と楊さんは話す。

 

医者として有名になったら、髪の毛をもっと派手な色に染めたいと話す楊星楷さん(写真・高原/人民中国)

 

ボランティアに寄せる深い思い

豊富なボランティア経験が自身にもたらしてくれたのは、誰かの力になる喜びや満足感に加え、自らを省み、社会や人間らしさについてより深く考える機会を得たことだと楊さんは考えている。

例えば、今日の社会ではボランティア活動への熱意が一様に高まっているが、多くの人々は参加者の役割は果たせても、その背景にいる「人」への理解に欠けていると楊さんは見ている。そのため、ボランティアたちが続々と老人ホームを訪れ、1カ月に3、4度とお年寄りの散髪をするなどということが生じてしまう。「果たして相手のことをどのくらい理解しているのか、人によって求めるものに違いがあることに目を向けているか、私たちは考えてしかるべきです」と楊さんは語る。

別の例を挙げると、昨年楊さんは北京冬季オリンピックのボランティアに申し込んだが、残念ながら採用されず、落胆を覚えた。何といっても彼はクラスメートたちに比べ、豊富なボランティア経験を持っていたからだ。

「その時は、ある種の強い挫折感がありました。そして、このように考えたのです。『自分はなぜがっかりしているのか? 誰かの力になる貴重な機会を逃したからなのか、それとも自分が注目を集める機会を逃したからなのか?』。そう思い至った時、心のわだかまりが取れました。オリンピックでボランティアはできなくても、白血病を患う児童のため、また視覚障害者の勉強のために自分の時間を使うことができます。それらの人目を引かないようなことだって、同じように多くの人に影響を与えますし、その意義は国際的な大会のボランティアに劣るものではありません」

楊さんは自身の反省だけでなく、公益事業に関して一部で議論がなされていることについても、自らの考えを持っている。例えば、政府は無償での献血を呼び掛けているが、血小板などの成分献血を行った人には欠勤手当てや交通手当てが支給されるため、それらを目当てに献血をする人がいる。それに対し、楊さんは次のように自分の考えを述べた。「一部の人にとって献血の目的が社会貢献や人助けでなかったとしても、客観的に生じる効果の上では、やはり良い行いなのです。ボランティアに長く携わることで、私はむしろ当初のような公益を過度に理想化する考えを持たなくなりました。ボランティアを奨励するメカニズムがあれば、公益につながる行動は実行可能な選択肢となります。むしろ、自分のことがちゃんとできていないのにボランティアに飛び付くのは、健全ではありませんし、成熟した考えでもありません」

 

楊さんの献血時、現場にいたボランティアが彼の似顔絵を描いた(写真・本人提供)

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