PART4 伝統文化をアレンジし継承
李家祺=文
中国では今、伝統文化が新たなブームになりつつある。ひらひらと翻る袖の漢服や耽美で奥ゆかしい古風な音楽、漢詩や文化遺産をテーマにした番組、さまざまな伝統の要素を取り入れてデザインされた文化クリエーティブグッズ――これらは伝統文化を今の時代に適した多様な形で生かした「国潮」(中国ブランドの流行)となり、Z世代の若者たちの生活に溶け込んでいる。
「マニア」が数年で大流行に
小さな運河に架かる太鼓橋、ゆったりと流れる笛の音。漢服を着た男女が行き交い、古色に満ちた小さな町は、にぎやかな雰囲気に包まれる。浙江省杭州市の西塘古鎮では、毎年「西塘漢服文化ウイーク」の時期にこうした光景が見られる。漢服愛好家の瑟瑟(スースー)さん(26)は、「ここで今風の服を着ていると、逆に浮いちゃうんですよ」と語る。
1996年生まれのスースーさんは、若いが漢服の愛好者としてはベテランだ。
スースーさんは10年ほど前から、古風音楽(ネット発の音楽ジャンル。漢詩を取り入れた歌詞と美しいメロディー、民族楽器の使用が特徴)が好きだったことから、漢服などの伝統文化の要素が入ったものにも興味を持ち始めた。当時、「国潮」という言葉はまだ流行しておらず、漢服を着て街を歩くと、途端に四方から好奇のまなざしを向けられた。
「その頃は、『お芝居をしにきたの?』とか『これは撮影で着る衣装なの?』と年配の人からよく聞かれました。そのたびに、『これは漢服ですよ。漢民族の伝統的な服装です』と繰り返し説明していました」とスースーさんは語る。
ここ数年、漢服を着て出掛ける人は人目を気にせずに済むようになり、外でも漢服を日常的に目にするようになった。昨年の統計によると、中国の漢服市場の売上高は15年の1億9000万元から63億6000万元に激増し、消費者のうちZ世代の若者が主流となっている。
大人気となったのは漢服だけではない。スースーさんによると、10年前は北京のような大都会でも、古風音楽の歌手は観客が100~200人程度のライブハウスで小規模な公演しかできなかった。ところが今では、古風音楽はもはやマイナーな音楽ジャンルではなく、数千人規模のコンサートもよく行われるようになった。
「百度2021国潮検索ビッグデータ」報告書によると、2011~21年で、「国潮」の検索人気度は528%上昇し、「国潮」関連の内容に関心を持つ人は、年代別では「90後」と「00後」が74・4%を占めている。
さまざまな伝統文化を愛するスースーさん(写真・本人提供)
「伝統」も「流行」も欲しい
出勤のときは、シンプルで動きやすい宋制(宋代に流行した服装の様式に基づいて製作したもの)の「飛行機袖」(細い袖の上着の一種、袖の形が飛行機の両翼に似ていることから名付けられた)や伝統の要素が入った服を着る。また休日に出掛ける時は、実在した昔の漢服を復元した美しい「復古服」に着替え、週末には古風音楽のコンサートに行ったり、国家博物館や故宮に行って文化財展を見たりする。このように、「国潮」はスースーさんにとって、すでに日常生活の一部になっている。
「大学時代、寮に住むルームメートたちも私の影響を受けて漢服愛好家になりました」とスースーさん。
彼女によると、多くのZ世代にとって、「きれい」が漢服に興味を持ち始める最大の理由だという。「どの民族も自らの伝統衣装があります。私たちの伝統文化の中にもあり、とても美しいものです。それを今の時代に受け継いでいくことを誇りに思います」
中国経済が飛躍的に発展した時期に生まれ育ったZ世代は、自然と民族の文化に強い誇りを持ち、伝統文化への愛にあふれるだけでなく、その上、自分なりの理解を持っている。
「漢服を着ると、服の上品さと歴史の重さが交錯しているようによく感じます。晋制・唐制・宋制・明制など、さまざまな様式の漢服には、長い歴史の流れの中で移り変わり、伝えられてきた文化が反映されます。身にまとう漢服は単なる衣服ではなく、それにまつわる歴史や物語にも触れることができ、まるで時空を超えた対話のようです」とスースーさん。
中国華服デーや国風遊園祭り(公園などで行われる伝統色満載のイベント)、国風音楽会など、さまざまな「国潮」をテーマとするイベントが近年、次々と開催され、若者たちが伝統文化に触れる雰囲気をつくり出している。また、これによって人々はその背後にある文化の意味と歴史的な成り立ちを、より身近に理解できるようになっている。
一方、インターネットやeコマースの隆盛によって、若者たちの消費は選択の幅を広げている。以前は漢服の購入ルートや選べる種類に限りがあり、髪飾りなどのアクセサリーを買いたくても、別の工夫をしたり、あちこち探したりしなければならなかった。
ところが今では、ネットショッピングのアプリケーションを使えば、さまざまなデザイン・価格帯の漢服が選べる。学生向けの安い「お手頃タイプ」や、実在した昔の漢服を模して作られた「復古タイプ」、漢服の要素と今のファッションを融合した「改良タイプ」など多彩だ。
「Z世代は『自分自身の好み』を大事にする」とスースーさんは考える。「漢服を着るのは、『私たちの伝統文化だから必ず着なければならない』と思っているからではありません。私たちには選択の権利と余地がたくさんあるので、消費の際には伝統文化と関わりがあり、自分が興味を持つものを選べます」
「国潮」を好むとともに、Z世代は他のポップカルチャーにも心を開いて受け入れている。「私自身もそうだけど、漢服愛好家の多くは、漢服以外にも日本の女子高生風の制服やロリータ風の服も好きだし、日本のアニメも好きだし、原宿系のファッションも好きだし、こうした好みは互いに溶け合っているんです」。スースーさんは笑みを浮かべながらこう語ってくれた。
河南省洛陽の200人余りの漢服愛好者が現地の応天門に集い、漢服の美しさをアピールした(大河報)