PART3 豊かさに甘えず起業を選ぶ

2022-02-08 14:32:41

続昕宇=文

若者ならではの青春の活力に満ちているだけでなく、大人の落ち着きも感じられる。北京航空航天大学の修士課程で学びつつ、北京深光科技有限公司(深光科技社)で最高経営責任者(CEO)を務める馮翀さんからは、そのような印象を強く受けた。

大学院生としての馮さんは、ゲームやTikTok、SF作品、スポーツが好きで、ギターを弾けてバンドでベーシストを務めたこともあるという、ごく普通のZ世代の若者だ。しかし、CEOとしての彼は、ありふれた経営者ではない。会社を毎年受賞に導き、インタラクティブ映像システムやAR(拡張現実)技術に造詣が深く、「テクノロジーの価値」と「社会的価値」について独自の考えを持っている。

 

創意による起業で夢を現実に

1997年生まれの馮さんは中国の大勢の男の子たちと同じく、テレビでウルトラマンを見て育った世代だ。後に作家の東野圭吾やアイザック・アシモフの作品を読み始め、ハリウッド映画の『アイアンマン』や日本のアニメ『NARUTO』を見るなどして、SFへの興味を育んでいった。

そんな馮さんは大学2年生から、校内外で開催されるさまざまな科学技術コンテストに参加し、幾度となく受賞して、その作品は産業界の投資家たちの注目を集めた。そして彼もこのことをきっかけに、自らの創意を生かして夢を現実にする起業の道を歩み始めた。

「映画『アイアンマン』には、指を鳴らせばいつでもどこでも表示できるインタラクティブ式スクリーンが登場しますが、この場面はクールなだけでなく、データ表示や伝達効率という面でも、とても優れています」と語る馮さんは、このような次世代のアイデアにヒントを得て、自身のチームと共にバーチャルインタラクティブ技術の研究開発を始めた。そして2019年12月には深光科技社を立ち上げ、その後わずか1年間で9件の特許権を取得した。

同社のオフィスでは、自主研究開発によって生まれたインタラクティブARプロジェクターを見ることができる。これは、目に優しい23インチスクリーンをテーブル上に表示し、普通のテーブルを操作可能なタブレット画面に変える製品だ。学生はスマートフォンやパソコンを使うことなく、テーブル上をタッチするだけで検索や翻訳が行える。

「私たちはインタラクティブテクノロジー企業として、3段階に分けて製品をリリースする長期目標を立てており、これはその第一歩です。3段階目に当たるホログラム映像技術が実用化できれば、特定の空間のどこにでも映像を映し出し、インタラクティブ体験ができるようになると思います」と語る馮さんは、今後について明確なプランを持っている。

「5年以内に科創板(イノベーションボード)への上場を実現し、教育関連製品の販売も現在の3万~5万セットから40万~80万セットにまで増やす予定です」

 

昨年7月、馮翀さんはZ世代の優秀な若者を代表して、第23回中国科学技術協会年次総会「ユース・ベンチャー・プレゼン」ハイレベル対話に出席した(写真・本人提供)

 

賢明さより重要な理想の価値

若者のチームにありがちな経験不足や先端光学ハードウェアの技術的ボトルネックといった難題を克服し、馮さんの会社は立ち上げから2年で成長軌道に乗った。先ごろ、同社はおよそ1億元の融資を受け、従業員も当初の4人から30人にまで増えた。だが、起業については「かつてはためらいや戸惑いもありました」と、馮さんは率直に話す。

「周囲の同じ年頃の人たちには、勉強を続ける人もいれば安定した仕事に就く人もいますし、大企業に入り高年収を稼ぐ人だっています。私の起業は両親の賛同を得られましたが、同世代の人たちと比べると、『起業は賢い選択とは限らない』と感じることも時折あります」

なぜそのことを承知の上で起業をしたのかと聞くと、馮さんは次のように説明してくれた。

「起業は賢い選択ではないかもしれませんが、私たちZ世代の特徴の一つとして、物質面であまり気をもむことがない反面、心の中にはこだわりや執着心があります。それらこそ、私たちが『賢明でない』選択を下す要因なのです。理想が持つ価値は、賢明な選択よりも大きいと私は思っています」

「理想が持つ価値」とは一体何なのか? このことについて馮さんは、テスラのイーロン・マスクCEOの言葉を引用し、答えてくれた。

「私は電気自動車が稼げるビジネスだと感じたことはないが、全人類にとって意義のある事業だ。私は誰かがこれを実現するのを待ちたくはない」

昨年の夏休み、馮さんと深光科技社はテクノロジーの価値と社会的価値の融合を実現した。彼らは国の農村振興戦略に呼応して、AR技術を駆使することにより、北京航空航天大学付属小学校の教師をかつての貧困県である山西省中陽県の小学校の授業に登場させた。北京の教師による山西省の生徒たちへのリアルタイム遠隔授業が実現したのだ。

取材の終わりに、自身を含むZ世代の若者についてどのように考えているかとの問いに対し、馮さんは「矜持」という言葉を口にした。

「どのような言葉でも、Z世代を言い表すには適当ではないと思います。この言葉を使ったのは、私の『価値観』と『執着心』がここから生じているからです。でも、私たちZ世代は決して自己中心的で極端に傲慢になることはありません。ただ自分らしさを追い求め、自分の考えにこだわり、大胆に行動するのです」

馮さんの話は自信に裏付けされたこだわりの姿勢と理解してよいだろう。実際、彼の成功はこの姿勢と不可分のものである。中国経済の急速な発展と非常に大きな社会の進歩により、Z世代の多くの若者は苦労して生計を立てる必要がなくなり、理想となる価値を実現する自由を持っており、この点は羨望に値する。一方、うれしいことに、馮さんのようなZ世代の若者は、上の世代の奮闘によって作り出された豊かな環境に甘えることなく、自らの理想を実現するために一生懸命努力をしている。そして、そのことが国家および社会により多くの進歩と発展をもたらすように望んでいる。

 

昨年5月、第7回全国青年科学普及イノベーション実験・作品大会の福建地区予選において、大勢の若者が科学技術とイノベーションへの情熱を見せた。写真は、医薬品共同配送インテリジェントコントロールの分類システムを調整する選手たち(新華社)

 

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