PART5 自文化を理解し交流推進

2022-02-17 20:34:01

母国文化を根幹とする

1972年の国交正常化後から間もなく、中国は「日本語少年クラス」を開設し、小学生を日本に送り出し、中日両国の相互理解を促進する外国語人材を育成しようと試みた。しかし、予想したほどの効果は得られなかった。それには次のような原因があった。文化的主体性が未成熟な青少年を海外に送り日本語を勉強させると、帰国後、彼らは本格的な外国語表現能力を身に付けてはいたが、母国の歴史や文化に関する知識の蓄積が不足していた。しかも、文化的アイデンティティーが中日両国の間で揺れ動く場合が多く、中国の声を正確に伝える仕事を担うことができなかったのである。

この問題は今日の日本語教育においても、程度の差こそあれ依然として存在している。徐滔・常務副院長は次のように述べる。「現在の高等教育における日本語教育に携わる人の大部分が日本留学から帰国した人であり、研究面で、中国の言語システムについて理解を欠いており、逆に母国の文化的素養と言語表現を向上させるために補講を必要としています。外国語のレベルが母語のレベルを超えることは難しいものです。母語の向上と外国語の向上は必ず互いに補い合います」

このような問題は学生の身にもよく起こる。流行文化が好きで日本語学習を始めた学生の多くは、日本文化を吸収することを重視し過ぎて、母国文化の修養の向上を軽視してしまう。また、中日の文化は似ているところも多いため、学生は学習の過程で、正しいようだが実は正しくない落とし穴に陥りやすく、「邯鄲の歩み」(他人のまねをして自分本来のものまで失う)という厄介な状況になってしまう。

 

北京外国語大学日本語学院の3年生が制作した動画作品『広東早茶』。日本語専攻の学生は日本語の映像制作を通じ、より多くの日本の人々に中国の独特で興味深い伝統文化を紹介している

 

時代と変化する学習の意味

日本語教育が中国で普及して以来、数十年の間、日本語学習の主な目的は、「日本語を通して日本を見る」「日本の先進的な文化を学ぶ」という段階にとどまり、日本語は中国人が日本を読み解くための「道具」となっていた。だが今日、中国の経済発展と科学技術の進歩に伴い、中日両国が平等に学び合える分野はますます多くなっており、この日本語という「道具」は、両国民の心のつながりを深め、学び合いを推進する重要な手段へと変わっている。

 周異夫氏は次のように述べる。「私たちが学生だった頃、教材の人物設定は、中国人が日本へ留学し、日本で日本語を学ぶというものでした。しかし、このような教材には致命的な欠陥があります。学生が、日本人に対して中国を説明する際の正しい表現を身に付けられないのです。中国の話になると、古代中国の故事ばかりになってしまいます。語学力の比較的高い学生でも、中国の事情を紹介するときにうまく話せなくなり、学習と実践が深刻に切り離されたものとなっていました。そのため、新しい教材を編さんするときには、背景の設定を変え、日本人が中国で留学していることにして、本文に中国の最新事情についての表現がたくさん登場するようにしました」

 

昨年北京外国語大学で開かれた「全国一流日本語専攻建設ハイエンドフォーラム」で、今後の日本語教育においていかに学生の人文的素養を高めるかについて語った修剛氏(写真・袁舒/人民中国)

 

自国理解につながる外国語教育を

教材などの完備のほか、教師によるカリキュラムの設定にも、学生が文化的主体性を確立するように導く内容を多く加えるべきだ。修剛主任は次のように提起する。「中日文化比較の授業を適度に増やすことは、学生が文化的主体性を確立する助けになります。例えば、学生に日本の川柳と中国の打油詩(諧謔詩)の比較を行わせます。この課題をこなす過程で、学生は日本の川柳の文化的内容を学ぶだけでなく、打油詩の歴史的由来も理解し、外国文化を理解すると同時に、母国文化の蓄積を増やすこともできます。また、比較するときには、二者を関連させ、両国の文化の相違を総合的に見て、外国語を学ぶ過程で母国文化に対する理解を向上させることができます」

「文化的主体性をしっかり確立することで、身近なことを相手に話せるようになります。これも中日両国の民間友好交流の礎です」。王衆一総編集長は、雑誌『人民中国』を通じて、「日本語を学び、中国のことをうまく伝える」ということを学校で広めた自身の成果を踏まえて、『人民中国』を補助教材として日本語教育の授業に導入することを提唱している。「私は大学2年生から『人民中国』を読み始め、歴史や文学に関する多くの記事が私にとって言語の補助教材になりました。現在、思わず口から出る唐詩や宋詞は、当時、雑誌から書き写して覚えたもので、本当に役に立ちました。その過程で、私は中日言語間の巧妙な関連を数多く発見しました。日本語学習の過程は、母語の表現を向上させ、母国文化の自覚を固める過程でもありました」

汪玉林元主任は、同大学で『人民中国』を授業に導入することを最初に提唱した人だ。取材時、汪氏は武蔵野学院大学で授業をしていた頃、『人民中国』の切り抜きで作ったレジュメを見せてくれた。実は早くも1990年代末期、汪氏は『人民中国』の各記事を授業の必要に合わせて適度に分割して、北京外国語大学日本語学科の補助教材にしていた。「月刊誌である『人民中国』の文章はよく推敲されていて、翻訳の質が安定していて、網羅している分野も豊富です。政治、経済、社会、観光など、どの分野でもいろいろな角度から中国の新しい事情を紹介していて、さまざまな段階とニーズの日本語学習者にとって参考にする価値があります。まさに、日本語学習者が日本の友人に身近な物語をうまく伝えるための最良の手本です」

地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が今年1月1日に発効したのに伴い、長期的に見て、中日両国の経済交流はさらに頻繁になり、協力はさらに緊密になるだろう。同時に、中日両国の社会・文化分野における交流や学び合いにも大きな潜在力がある。今こそ、母国の文化に立脚し、国際的視野を持つさらに多くの日本語人材がそこに参加し、中日両国間の文明の良質な相互交流を推進することが求められている。

 

本誌の各コーナーをジャンルごとに分けて整理し、学習動機や日本語レベルが異なる日本語学習者に合った補助教材とする北京外国語大学日本語学院元主任の汪玉林教授(写真・袁舒/人民中国)

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