Part6 等身大の中国の姿を知る

2022-03-22 11:32:52

日本財団パラリンピックサポートセンター理事長 小倉和夫(談) 

平昌2018冬季五輪、東京2020オリンピックに続き、北京2022冬季五輪が幕を開けたことで、東アジアで3度続いてオリンピックが開かれることとなった。東アジアでオリンピックが開かれることについて、私は二つの意義があると思っている。 

一つ目はアジアの現在の姿を世界の人々に認識してもらうということ。世界ではアジアについて知られているようで、実はあまり知られていないからだ。もう一つは、東アジアでも比較的大きな経済成長を遂げた日本、中国、韓国の3カ国がオリンピックを連続して開催することで、東アジアには精神的、文化的な共通項があるということを世界に見せることができるという点だ。 

  

「共に未来へ」とは 

東京2020では、オリンピックのモットーとして「Together(共に)」という文言が新たに加えられた。そして今回の北京冬季五輪のテーマは、「共に未来へ」(Together for a Shared Future)となっている。 

東京2020から始まったTogetherは、「一緒にやろう」という共通認識を持つための言葉と考えられる。多様性、寛容性、共生社会実現に向かう意識を共に持ちましょうという呼び掛けだ。 

一方、北京五輪のTogether for a Shared Futureは、その認識をもとに、新型コロナ、環境問題、あるいは障害者福祉といった世界的な問題に向かってさらに行動を起こそうということだと理解している。Shared Futureという文言にはそういう感覚があると思う。 

  

日中関係はさほど険悪ではない 

今年は日中国交正常化50周年を迎えるが、「共に未来へ」は日中両国が共に考える問題でもある。 

昨年行われた「東京―北京フォーラム」の世論調査の結果は、日中関係は決して楽観視できるものではないというものだったが、私は世間が言うほど日中関係は悪くないと思っている。テレビでは毎日のように中国のドラマを放映しているし、今はコロナ問題で直接交流が少なくなっているとはいえ、スポーツや文化での日中関係は非常に友好的だ。中国では村上春樹などの小説や、日本のアニメの人気が高いという。日中関係は政治経済だけではない。悪い側面もあれば、良い側面もあるというのが本当ではないだろうか。 

日本で中国というと、とかく中国の政治体制や軍事行動に注意が行きがちだが、国民目線での中国人のありのままの姿が、日本の人々にもっと伝わることが大切だ。だからこそ、北京冬季五輪を通じて中国人の生活や意識が日本に伝わり、日本人にとって中国がより身近に感じられるようになることに期待したい。 

過去を振り返ってみると、国交正常化の過程における両国の政治家は、大きな政治的勇気と知恵を見せた。これらの経験は今も参考にする価値が大いにある。 

特に最も優れた知恵だと思うのは、「人民と国家を区別する」という考え方だ。国交正常化の実現には、毛沢東、周恩来ら中国の指導者が、悪かったのは軍国主義であり、中国人民も大多数の日本国民も共に戦争の被害者であったと考え、人民目線に立ったことが大きく関係している。そして日本の指導者である田中角栄や大平正芳がその考えに賛同したことが、正常化の際に発揮された「知恵」であると思う。 

しかし私は、本当の意味での正常化は1972年9月29日に起こったものではないと考えている。貿易協定、航空協定、平和友好条約など、さまざまな取り決めを構築する長いプロセスこそが本来の正常化であり、それは今も続いているのだ。よって、日中両国民は本当の正常化に向けた努力を今もしなければならない。当時の指導者が偉かったのは、その過程を早めようと努力したことだ。 

2020年の新型コロナウイルス感染症が猛威を奮っている頃、「山川異域 風月同天」という言葉が日中関係の象徴となったが、現在の日中関係を古典に例えるならば、「人生不失意 焉能暴己知」だろうか。困難があるほどに知恵を出さなければいけないという意味だ。 

政治は困難な時にこそ力を発揮すべきもの。日中関係に難しい部分がある今は、両国の政治家の力が充分に発揮されるべき時といえるだろう。 

(王朝陽=聞き手 呉文欽=構成) 

  

 

関連文章