PART1 逆風にもめげずにけん引
張月友 劉志彪 徐豪=文
近年、河北省任丘市は石油掘削設備のハイエンド製造業を確立し、その製品を国内で販売するほか、北米、アフリカ、中東などに輸出している(新華社)
夏の盛りを迎えた今、中国の製造業は「冬の時代」を乗り越えるべく努力が続けられている。
今年の第2四半期に入り、中国各地で新型コロナウイルス感染症が再流行した。生産、経営、研究開発のサイクルの面で特殊性を持つ製造業への影響はとりわけ顕著で、産業チェーンとサプライチェーンが大きなダメージを負っただけでなく、商品市場の需要縮小や生産コストの上昇など数多くの問題にも直面した。
5月25日、国務院が開催した全国経済安定化テレビ電話会議で李克強総理は、「製造業は就業を支える基盤であり、産業チェーンとバリューチェーンのハイエンド・ミドルレンジ化を目指す上での重要な足掛かりだ。製造業の保全とはある意味、経済市況の安定と安全を保つことである。必ずや製造業企業が目下の困難を無事乗り切り、安定的に事業を運営できるよう支援するとともに、新たな原動力が大いに育まれ、産業構造の最適化とアップグレードが進むよう助力すべきだ」と強調した。
反グローバリズムの衝撃
2008年の世界金融危機は、急速に進んできた経済のグローバル化を初めて後退させる事件となった。現在、中国経済との「デカップリング」(分断)を推進する米国の姿勢はますますあからさまになっており、新型コロナの世界的な感染拡大とロシア・ウクライナ紛争も、反グローバリズムの流れをいっそう加速させた。中国の製造業にとって、これら三つの衝撃の中にはピンチだけでなくチャンスもあり、危機の中で新たなチャンスを見つけられるかどうかの鍵は、いかなる措置と対応を取るかにかかっている。
改革開放後、中国経済が奇跡的な成長を遂げた主な要因の一つは、ローエンド製造業がグローバルバリューチェーンに加わり国際的な受託製造を行ったことだ。この経済成長における最大の特徴は生産上の「両頭在外」、すなわち原材料を輸入して国内で生産加工し、完成した製品を輸出することであり、需要面では欧米諸国の市場に依存する一方、供給面では先進国が持つ先端技術の利用が制約されていた。
中米関係が蜜月状態にあった経済のグローバル化の全盛期には、このような経済成長上の問題は目立たなかった。だが、米国が反中国化を推し進めるようになると、中国経済の循環は多くの困難に見舞われた。その例としては、中国資本の海外市場への進出が妨げられ、国際経済という大きな循環を動かす力が明らかに弱まっていること、ダメージ後の消費と投資の回復が遅く、有効需要が不足していること、絶えず高まる消費のニーズを満たすための技術およびリソース面でのサポートが得られないことなどが挙げられる。
史上まれに見る感染症の流行である新型コロナの発生当初、中国の製造業は深刻な影響を受け、正常な運営が妨げられた。だが、中国政府が速やかにしかるべき防疫政策を行ったことにより、国内の感染症は迅速に封じ込められ、大規模な経済活動が早期に再開された。その他、政府は積極的な財政・金融政策、ダメージに対処するための一連の有効な措置を適時打ち出し、生産面での影響を最小限にとどめた。中国経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の成長志向は、新型コロナの影響により損なわれることはなかった。ただし、世界各国が感染症対策を行う中、政策協調と積極的かつ効果的な国際協力が欠けており、新型コロナの世界的なまん延の度合いや期間などの面で高い不確実性が存在することに注意する必要がある。
戦争と制裁は世界情勢を一変させ、国際貿易および投資に影響を及ぼすだけでなく、資本逃避のムードを高め、資本市場を不安定化させる。ロシア・ウクライナ紛争はロシアの力をそぎ、中国を抑え込み、自らの覇権を維持しようとする米国主導の戦略だ。米国が中国に対して行っている科学技術の供給・移転制限、経済上の制約、貿易障壁の構築、対中世論の悪化を狙った中傷など、あらゆる抑制措置の核となる狙いは、グローバル経済の枠組みから中国を排除し、中国の製造業の優れた産業チェーンを弱め、寸断することにある。
ロシア・ウクライナ紛争は確かにグローバルサプライチェーンを混乱させたが、欧米とロシアが互いに科している制裁は生産コストと世界的なインフレをさらに高めた。また、欧米とロシアは中国の製造業に製品供給の面でより依存するようになり、このことは中国の輸出の化につながっている。その他、制裁は欧米諸国によるロシアへの投資を減少させ、関連プロジェクトは中断や中止に追い込まれており、双方の協力プランも制約を受けているため、より多くの重要なプロジェクトや建設計画に参加するチャンスが中国にもたらされている。ロシア・ウクライナ紛争は世界の主要プレーヤーを混乱の渦に巻き込んでいるが、中国は中立を保ち、世界平和を維持する大国としてのイメージを確立し、国際社会の信頼を勝ち取っている。
重慶の新エネルギー車の工場では、インテリジェントロボットが溶接作業を行う(新華社)
難局を乗り越える活路
中国の製造業に対する反グローバリズムの悪影響を取り除くため、中国は今後、グローバル化の再構築のけん引、国内の大きな循環と国内・国際的な二つの循環の円滑化に注力していくべきだ。
現在のグローバルサプライチェーンにおけるデカップリングの問題は、グローバル化の不十分と不完全によってもたらされたものだ。経済のグローバル化は人類社会の発展上、避けて通れない道であり、世界経済の成長を後押しするエンジンである。目下、困難な状況に陥っているグローバル化を救うには、その運営のための原動力を注入し、ガバナンスのためのリーダーシップ、それらに適した制度的ルールの体系を打ち立てることが必要だ。
一方では、中国はグローバル化への信念を揺るぎないものとし、「一帯一路」建設の推進を加速させ、対外開放レベルを全面的に高め、開放と協力を通じてグローバル化が普遍的な発展の道を進むようリードすべきだ。現在、外資系企業による中国のビジネス環境への要望はより高まっており、一部の地域の感染症の予防・抑制措置は一部の企業の生産および経営活動に一時的な困難をもたらしたが、中国がハイレベルな対外開放を堅持するという大方針を妨げるものではない。また一方で、中国は中米関係を適切に処理し、大国の駆け引きの中でグローバルガバナンスが損なわれないよう力を尽くし、グローバルガバナンスシステムの変革を後押しし、積極的にグローバルガバナンスにおけるリーダーシップの欠如を補い、グローバル化に必要な公共財を提供する必要がある。ポストコロナのグローバル化は時代と共に前進するものであり、均衡が取れていて、ウインウインで、開放的かつ包摂的で、広く恩恵をもたらす新たなグローバル化でなければならず、中国は進んでその先駆者となるべきだ。
力強い国内市場をつくり上げることは国内の大きな循環を円滑化するための基礎であり、そのために中国は整った内需システムを育てる必要がある。現在、中国経済の国内の循環で最も際立っている問題はサービス業で、この立て直しは中国が成長と雇用の安定化を成し遂げるための近道だ。その他、先進製造業と現代サービス業の融合は、新たなテクノロジー革命と産業の変革に順応し、質の高い発展を実現する上での重要な手段である。近年、中国の先進製造業と現代サービス業の融合は絶えず深化し、数多くの業種と企業がそれぞれの特色を融合させた発展モデルを模索し、つくり上げている。今後、中国は産業融合の法則とトレンドをより把握し、改革とイノベーションをたゆむことなく行い、製造業の質の高い発展とサービス業の質および効率の向上を促進すべきだ。
国内と国外の循環をスムーズに結び付ける上での主な課題は、技術面のボトルネック解消だ。技術の供給源の問題には多くの解決策があるが、西側の制裁に影響されないものは一つしかない。それは、科学技術のイノベーションと国産化に力を入れ、コア技術の難関攻略を加速させ、新たな産業チェーンを再構築することだ。中国の潜在力とエネルギーは今なお完全には発揮されていない。今後、統一され、公平で、開放的で、透明な中国の巨大市場は磁石のように一層多くの外資の視線を引き付けていく。知的財産権の保護がより重視され、法治化と国際化がさらに進んだ市場システムも徐々に整備が進み、やがて打ち立てられることだろう。
モデルチェンジを迫られる企業
マクロ面でのさまざまな措置に加え、産業チェーンとサプライチェーンを構成する各企業が十分に支える力を発揮してこそ、自主、制御可能、安全、高効率という現代化した製造業を共に興すことができる。
悦虎晶芯電気回路(蘇州)股份有限公司は長江デルタ地域に位置しているが、新型コロナの流行では深刻なダメージを受けていない。「昨年、当社はモデルチェンジを行い、半導体パッケージに転業しました。今年にはサムスンとソースフォトニクスの半導体サプライチェーンに加わり、両社の一級サプライヤーとなりました。新型コロナは材料不足や出荷遅延といった問題を生みましたが、私たちは現在、国際市場と直接リンクしているため、全体的に見て影響は限定的でした」と同社の汪源副董事長は説明する。
また、大連達利凱普科技有限公司の楊国興副総経理によると、現在の苦境は製造業企業に研究開発への投入拡大を迫るものでもあり、「産業チェーンとサプライチェーンを保つため、多くの企業は行動を始めています。例えば、異なる区域での研究開発センターの設立、研究開発への投入の増加、予備のサプライチェーンの確保、製品のアップグレードの促進、先見性のある研究開発、専門的製品への注力などです」と言う。
「中国の製造業の最も基本的な特徴は、しばしば言われるように企業の数が多く規模が大きいからといって実力が優れているとは限らないということです。現在、グローバル産業チェーンは再構築の最中にあり、企業にとって産業基盤の向上やコア技術の確保などの課題は非常に重要な時期を迎えています」と説明するのは、中国社会科学院経済研究所の黄群慧所長だ。同氏によると、中国の製造業の新発展構造をつくり上げるには、産業チェーンとサプライチェーンの現代化レベルの向上にまつわるイノベーションに注力する必要があり、その核となるのが科学技術のイノベーションだという。また、中国は製造業の弱点を補い、専門化・精密化・特徴化・斬新化という四つの優れた特徴を持つ企業の育成において力を尽くすべきだと同氏は語った。
「多くの破壊的技術(新しい価値基準の下で従来のものよりも優れた特徴を持つ技術のこと)は良好な産業競争政策の枠組みの中で生まれます。中国は競争戦略をしっかりと実行すべきであり、そのプロセスにおいて一部の企業はされますが、競争政策の後押しの下、多くの破壊的技術も生まれるのです」と黄所長は指摘する。製造業における新発展構造の構築プロセスで要となるのは、いかにして中国企業の低付加価値から高付加価値への事業転換を促し、産業チェーンとサプライチェーンの現代化レベルを高めるかということだ。
「企業にとっては自社の核心的競争力を絶えず高めるだけでなく、自信を保つことも重要です。最も困難な時期だった2020年初頭には、誰も弱気になることはありませんでした。現在、私たちはより自信を持ち、努力によって将来はきっと良くなるという確信を持つべきです」と楊副総経理は語った。